長い授業を終え、束の間の休憩であり至福の時間である昼休みがやってくる。食堂は生徒で溢れかえり、談笑がところどころで響き渡っていた。ユウはシェフのゴーストにクラムチャウダーを注文し、ビュッフェ形式に並べられた学食たちを適当に取る。そろそろと周囲を見回すが、待ち人はいないようだ。適当に席が空いているところに腰掛けて、手を合わせる。しかし、彼女の肩を叩く手があった。
「隣に座ってもいいだろうか」
　振り向いた先の銀髪に、彼女は思わず頬を緩める。もちろんだと差し出した席に、シルバーは腰かけた。
　そんな二人を息をひそめながら眺めているエースは、ローストビーフとレタスの窯焼きサンドを手にしたまま固まっていた。食堂の席などそれほど多くもないのに、シルバーとユウがついているテーブルだけ誰も寄り付かず、二人の特等席のようになっている。
「ユウが俺より先に恋人作るとかありえねー……」
　ぼんやりと呟いたエースがいかにも面白くなさそうな顔をしている隣でデュースがセベクに尋ねた。
「本当に二人とも付き合っているんだな」
「ああ。シルバーのせいで少々まどろっこしいことになったが、大まかに言えばそういうことだ」
　セベクの長身に隠れて二人を見守るまではよかったが、思った以上に二人の仲は進展しているらしい。でなければ、話しかけづらいあの雰囲気は生まれない。
　エースはセベクに耳打ちした。
「なあ、ユウはシルバー先輩とどこまで行った？　ABCで言うとどれくらい？」
「そんな破廉恥な話をするわけがないだろう！　大体そういうことは踏み入っていいものではない」
　至極まともなセベクの論理に、えー！　とエースが不満を漏らす。デュースはやめておけ、と言っているものの、耳をそばだてていたことは言わなかった。
「最近になってユウはシルバー先輩と昼食を摂るようになったよな」
「それも二人だけでテーブル一つ独占とか、どんだけ雰囲気まき散らしているんだっつーの」
「ああ、リリア様が二人の時間も必要だろうと、あえて人払いの魔法を二人にかけている」
　え！？　と顔を引きつらせたエースとデュースに、セベクはなぜか誇らしげにリリアの魔法の凄さについて語り出した。そんなことより二人の様子を見守っていたいエースたちは、引き続きセベクの影から観察を開始する。しかし、ユウたちはただ話しながら、ご飯を食べてるだけだ。手は繋がないうえ、密着もしない。
「ユウとシルバー先輩、付き合ってる割に、全然くっついていないな」
　デュースが心配そうに見ていると、エースがため息を吐きながら最後の一口を頬張った。
「最近のカップルでももう少しいちゃつくだろ。からかい甲斐がねえなー」
　プライベートもそんなもんだろ？　とエースがグリムに話を振ると、グリムが口の周りにソースをつけたまま返事をした。
「あいつら、たまに一緒のベッドで寝るゾ」
「まじかよ！」
「それって、本当？」
　驚いたエーデュースの頭上から声が降り注いだ。見上げた先で、オレンジの髪が日光を弾く。頬のダイヤのペイントが笑みの形に崩れた。
「オレにも、詳しく話聞かせて」