日進月歩あるのみ
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過ぎ去っていく景色を眺めながら、ひたすらどうやってシルバー先輩に声をかけようか考えていた。先輩、セベクから借りた本を読んだんですが……。いや、そんな話題で到底盛り上がる気がしない。そもそもセベクなしで話せる内容なんて鍛錬くらいしかない。自分とシルバー先輩の間にある見えない溝みたいなものが見えた気がして、息が切れ始めた。ペースの速さに、呼吸の方がついて行けないようだ。
グレートセブンの像が荘厳に並ぶメインストリートに差し掛かると、前方からこちらに向かって走ってくる人影が見える。大きなしっぽと耳、そして朝日で輝かんばかりの美しい光に目がちかちかと眩んだ。
「お、ユウじゃねえか」
大きな耳としっぽの正体は、思わず後ずさりするくらい大きな同級生――ジャックだ。陸上部だから練習なんだろうけど、私は隣の輝く麗しい人がここにいる理由が分からなかった。
「おはようございます。ジャック、ヴィル先輩」
「おはよう、新ジャガ」
新入生のジャガイモということで、私はいまだに新ジャガとヴィル先輩に呼ばれ続けている。シルバー先輩に恋している手前ジャガイモからはそろそろ卒業したいけれど、スーパーマジカメグラマーからすれば私はまだジャガイモなんだろうな。
「な、なぜここにいるんですか?」
「そういうあんたこそ、なんで朝のランニングなんかしてるわけ?」
質問を質問で返されてしまった。それも、ヴィル先輩に。こればかりは応えなくてはならないと骨身にまで染みついているので、しぶしぶ答えることにした。
「実はかくかくしかじかで」
セベクに剣術を教えてもらっていること、好きな人もいるのでスタイルアップも目指していること。その人もこういう運動しているし話題作りになれば……。なんて、話しているうちに、ヴィル先輩の顔に陰りが見えてくる。
あ、これはまずいかもしれない。
「なら、あんた、その前にノーメイクを何とかしなさい!!!」
「ふぎゃああ!」
頬を指されて、怒鳴られた。いや、物凄い剣幕で怒ってくるから迫力が凄い……。美人が怒ると迫力が出るって言うけど、本当だ。びっくりして情けない声が出ると、よく聞きなさい、と腕を組んだ。
次の瞬間、ヴィル先輩による改善点のおびただしい羅列が始まった。ジャックですら引き気味だけど、これはチャンスだ。急いでポケットに忍ばせていたスマホにメモする。指のフリック入力が間に合わない……!
「まったく似合いもしない体操着で走るなんてジャガもいいところ。いい? あんた、髪と肌への気遣いはそこそこだけど、スタイルアップも目指すなら有酸素運動だけじゃなくて筋トレと言った無酸素運動も不可欠! 食生活は?」
「つ、ツナ缶が中心です」
「論外! あんた、それじゃ落とすどころかフラれて当然よ」
「そんなぁ……」
こんな状態でシルバー先輩を落とせるなんて夢のまた夢ということか……。剣術にかまけて乙女とは何かを忘れていたかもしれない。
ジャックが不意に呟いた。
「いや、そもそもユウは女なんで、男向けのメニューやらせたらバテませんか?」
え? なんでジャックも知っているの?
私が息を止めると同時に、ヴィル先輩はくらりを立ち眩みを起こした。「女の子なのに……メイクも碌にせず、剣術……」と何やら恨み節が聞こえてくる。これは美の追求者ヴィル・シェーンハイトの気を逆なでしてしまったようだ。立ち眩みをした体はすくっと地面すら神々しく見えるほどポージングを取っている。いや、これは普通に立っているだけなんだろうか。
ヴィル先輩は呆れすらも吹き飛ばした所謂無の状態で、もう一度私に指さした。
「いいこと? あんたには特別メニューを用意してあげる。小ジャガにこのアタシが直接指導するんだから、手を抜いたら毒で眠らされる覚悟をしなさい」
とんでもないことになってしまった……! それも手抜きすれば毒殺されるのはやばい。命短しとはいえこれほど早い終わりは望んでいないのに。
泣いてこの場から走り去れるものならそうしたいけれど、シルバー先輩に可愛い女の子だと思われたい気持ちが私に頷かせた。
「あ、あ、ありがとうございます……」
その三日後、マジカメに長文のDMとオンボロ寮の玄関に大量の段ボールに詰められたコスメが送られた。送り名にあるヴィル・シェーンハイトの美しい筆跡が、ひときわ目を引いた。
グレートセブンの像が荘厳に並ぶメインストリートに差し掛かると、前方からこちらに向かって走ってくる人影が見える。大きなしっぽと耳、そして朝日で輝かんばかりの美しい光に目がちかちかと眩んだ。
「お、ユウじゃねえか」
大きな耳としっぽの正体は、思わず後ずさりするくらい大きな同級生――ジャックだ。陸上部だから練習なんだろうけど、私は隣の輝く麗しい人がここにいる理由が分からなかった。
「おはようございます。ジャック、ヴィル先輩」
「おはよう、新ジャガ」
新入生のジャガイモということで、私はいまだに新ジャガとヴィル先輩に呼ばれ続けている。シルバー先輩に恋している手前ジャガイモからはそろそろ卒業したいけれど、スーパーマジカメグラマーからすれば私はまだジャガイモなんだろうな。
「な、なぜここにいるんですか?」
「そういうあんたこそ、なんで朝のランニングなんかしてるわけ?」
質問を質問で返されてしまった。それも、ヴィル先輩に。こればかりは応えなくてはならないと骨身にまで染みついているので、しぶしぶ答えることにした。
「実はかくかくしかじかで」
セベクに剣術を教えてもらっていること、好きな人もいるのでスタイルアップも目指していること。その人もこういう運動しているし話題作りになれば……。なんて、話しているうちに、ヴィル先輩の顔に陰りが見えてくる。
あ、これはまずいかもしれない。
「なら、あんた、その前にノーメイクを何とかしなさい!!!」
「ふぎゃああ!」
頬を指されて、怒鳴られた。いや、物凄い剣幕で怒ってくるから迫力が凄い……。美人が怒ると迫力が出るって言うけど、本当だ。びっくりして情けない声が出ると、よく聞きなさい、と腕を組んだ。
次の瞬間、ヴィル先輩による改善点のおびただしい羅列が始まった。ジャックですら引き気味だけど、これはチャンスだ。急いでポケットに忍ばせていたスマホにメモする。指のフリック入力が間に合わない……!
「まったく似合いもしない体操着で走るなんてジャガもいいところ。いい? あんた、髪と肌への気遣いはそこそこだけど、スタイルアップも目指すなら有酸素運動だけじゃなくて筋トレと言った無酸素運動も不可欠! 食生活は?」
「つ、ツナ缶が中心です」
「論外! あんた、それじゃ落とすどころかフラれて当然よ」
「そんなぁ……」
こんな状態でシルバー先輩を落とせるなんて夢のまた夢ということか……。剣術にかまけて乙女とは何かを忘れていたかもしれない。
ジャックが不意に呟いた。
「いや、そもそもユウは女なんで、男向けのメニューやらせたらバテませんか?」
え? なんでジャックも知っているの?
私が息を止めると同時に、ヴィル先輩はくらりを立ち眩みを起こした。「女の子なのに……メイクも碌にせず、剣術……」と何やら恨み節が聞こえてくる。これは美の追求者ヴィル・シェーンハイトの気を逆なでしてしまったようだ。立ち眩みをした体はすくっと地面すら神々しく見えるほどポージングを取っている。いや、これは普通に立っているだけなんだろうか。
ヴィル先輩は呆れすらも吹き飛ばした所謂無の状態で、もう一度私に指さした。
「いいこと? あんたには特別メニューを用意してあげる。小ジャガにこのアタシが直接指導するんだから、手を抜いたら毒で眠らされる覚悟をしなさい」
とんでもないことになってしまった……! それも手抜きすれば毒殺されるのはやばい。命短しとはいえこれほど早い終わりは望んでいないのに。
泣いてこの場から走り去れるものならそうしたいけれど、シルバー先輩に可愛い女の子だと思われたい気持ちが私に頷かせた。
「あ、あ、ありがとうございます……」
その三日後、マジカメに長文のDMとオンボロ寮の玄関に大量の段ボールに詰められたコスメが送られた。送り名にあるヴィル・シェーンハイトの美しい筆跡が、ひときわ目を引いた。