明日へ捧げるワルツ
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遠くから聞こえるワルツの音色に合わせて、1、2、3、と脚を動かす。ユウはシルバーと体を密着させながら踊るそれは家で何度も練習したはずなのに、まるで初めて踊るかのような緊張感と高揚感に溺れていた。シルバーのリードに合わせて踊っていると、頭上から声が降ってきた。
「謁見で、お前がマレウス様に近寄った時、心臓が止まる気がした」
やはり仕事中だと言うのにマレウスやリリアの言葉に乗って、邪魔をさせてしまったのではないかとユウは表情を暗くした。
「やっぱり護衛対象に近づいたら迷惑ですよね」
「いいや。お前が綺麗だから、見惚れていたんだ。護衛中だというのに、お前のことで頭がいっぱいになった」
そ、そんな、とユウが頬を赤らめると、シルバーが嘘じゃない、とユウを引き寄せる。その軽やかな足取りに、ユウはついて行くことしかできない。
「いいや。親父殿の話では、お前が美しくて近寄ってくる者が多いと聞いた。だから、口説かれてやしないかとひやひやした」
「先輩。私、口説かれてなんかいませんよ。私に声すらかけてこなかったんです。皆さん多分人間である私が面白いのであって、美しさ云々で近寄るような人物はいませんでした」
そんなわけない、と言おうとしたシルバーはユウの胸元にきらりと光るものを見つけて、目を瞠った。
「……その石をつけてきたのか」
「はい! 綺麗ですし、ケイラにも似合ってるって言われましたよ」
なるほど、お守りは案外持たせておくものだな、とシルバーは薄く微笑んだ。おかげで、ユウに余計な虫がつかなかったというわけだ。
「ああ、それならよかった」
満足げなシルバーに、ユウはどうしても聞きたくて仕方なかったことを問いただしてみることにした。シルバーと繋いだ手にぎゅっと握る力がこもる。
「リリア先輩から聞きました。帰省に連れてくる相手は、婚約者だって……。それってつまり」
私は先輩と結婚してもいいのでしょうか。
と言おうとしたユウは不意にリードする足が止まり、思わずシルバーの胸に顔をぶつけた。急いで飛び退こうとした彼女の体を、シルバーの逞しい腕がそれ以上離れないよう強く抱きしめる。シルバーはあまりにもみっともない自分を見てほしくなくて、ユウに顔を直接見せられなくなっていた。
「……まさか、親父殿に先を越されるとは思ってなかった」
「え! ごめんなさい! てっきり、言うつもりはなかったのかと」
そんなことはない、とシルバーは強い口調で否定し、ユウの体を抱く腕に力を籠める。
「お前のことはいつも真剣に考えている。……ただ、気が早すぎやしないかと思われるのが心配だったんだ」
シルバーの弱弱しくなっていく語尾があまりにも可愛らしいとユウは身もだえした。全身が火照るような気がして、思わずユウはにやけてしまう。シルバーの背中に腕を回したユウは、ぎゅっと彼の体を優しく抱きしめた。
「まさか。私は先輩がそんな先まで考えてくれていて、むしろ嬉しいです」
本当か? と顔を覗き込んできたシルバーに、ユウは当たり前ですよ、と笑った。シルバーはユウの手を再び取り、その腰を優しく支える。ユウももう一度シルバーと踊り出した。もはやワルツと言われるような三拍子すら刻んでいないが、二人にとって足さえ合っていればそれで十分だった。
吹いてきた風に、ユウたちの笑い声が時々混じる。あまりに幸せな情景に森の動物たちもこぞってやってくると、カラスやコウモリもひっそりとたたずんでいた。シルバーたちが通ると、その足に驚いた夜光虫が舞い上がる。二人だけのダンスホールになったそこで、シルバーはユウの腰を引き寄せた。彼に続いてユウも転ばないように止まる。
「ユウ。これからも共に居てくれるか?」
シルバーの囁くような願いに、ユウは満面の笑みで答えた。
「もちろんです。どこまででも、一緒にいさせてください」
昼間の日光のようなユウの暖かな笑顔に、胸がつまるような充足感を覚えたシルバーは、体を屈めユウと額を合わせる。
「……夢のようだ」
「私も、同じ気持ちです」
どこまでも嬉しいことしか言わない恋人をシルバーは一瞬で持ち上げた。ユウをお姫様のように抱き上げて、その場をくるくる回る。ユウは突然のシルバーのはしゃぎように、一緒になって喜んだ。
「きゃはは! 先輩!」
シルバーの首にしがみつきながら笑うユウと、彼女を心底大事そうに抱えるシルバーを祝福するかのように、薔薇たちもその花びらを風に乗せ、咲き乱れる。
そうして、ユウはシルバーと一つ約束を交わした。祝言はユウの卒業後に挙げようと。
「謁見で、お前がマレウス様に近寄った時、心臓が止まる気がした」
やはり仕事中だと言うのにマレウスやリリアの言葉に乗って、邪魔をさせてしまったのではないかとユウは表情を暗くした。
「やっぱり護衛対象に近づいたら迷惑ですよね」
「いいや。お前が綺麗だから、見惚れていたんだ。護衛中だというのに、お前のことで頭がいっぱいになった」
そ、そんな、とユウが頬を赤らめると、シルバーが嘘じゃない、とユウを引き寄せる。その軽やかな足取りに、ユウはついて行くことしかできない。
「いいや。親父殿の話では、お前が美しくて近寄ってくる者が多いと聞いた。だから、口説かれてやしないかとひやひやした」
「先輩。私、口説かれてなんかいませんよ。私に声すらかけてこなかったんです。皆さん多分人間である私が面白いのであって、美しさ云々で近寄るような人物はいませんでした」
そんなわけない、と言おうとしたシルバーはユウの胸元にきらりと光るものを見つけて、目を瞠った。
「……その石をつけてきたのか」
「はい! 綺麗ですし、ケイラにも似合ってるって言われましたよ」
なるほど、お守りは案外持たせておくものだな、とシルバーは薄く微笑んだ。おかげで、ユウに余計な虫がつかなかったというわけだ。
「ああ、それならよかった」
満足げなシルバーに、ユウはどうしても聞きたくて仕方なかったことを問いただしてみることにした。シルバーと繋いだ手にぎゅっと握る力がこもる。
「リリア先輩から聞きました。帰省に連れてくる相手は、婚約者だって……。それってつまり」
私は先輩と結婚してもいいのでしょうか。
と言おうとしたユウは不意にリードする足が止まり、思わずシルバーの胸に顔をぶつけた。急いで飛び退こうとした彼女の体を、シルバーの逞しい腕がそれ以上離れないよう強く抱きしめる。シルバーはあまりにもみっともない自分を見てほしくなくて、ユウに顔を直接見せられなくなっていた。
「……まさか、親父殿に先を越されるとは思ってなかった」
「え! ごめんなさい! てっきり、言うつもりはなかったのかと」
そんなことはない、とシルバーは強い口調で否定し、ユウの体を抱く腕に力を籠める。
「お前のことはいつも真剣に考えている。……ただ、気が早すぎやしないかと思われるのが心配だったんだ」
シルバーの弱弱しくなっていく語尾があまりにも可愛らしいとユウは身もだえした。全身が火照るような気がして、思わずユウはにやけてしまう。シルバーの背中に腕を回したユウは、ぎゅっと彼の体を優しく抱きしめた。
「まさか。私は先輩がそんな先まで考えてくれていて、むしろ嬉しいです」
本当か? と顔を覗き込んできたシルバーに、ユウは当たり前ですよ、と笑った。シルバーはユウの手を再び取り、その腰を優しく支える。ユウももう一度シルバーと踊り出した。もはやワルツと言われるような三拍子すら刻んでいないが、二人にとって足さえ合っていればそれで十分だった。
吹いてきた風に、ユウたちの笑い声が時々混じる。あまりに幸せな情景に森の動物たちもこぞってやってくると、カラスやコウモリもひっそりとたたずんでいた。シルバーたちが通ると、その足に驚いた夜光虫が舞い上がる。二人だけのダンスホールになったそこで、シルバーはユウの腰を引き寄せた。彼に続いてユウも転ばないように止まる。
「ユウ。これからも共に居てくれるか?」
シルバーの囁くような願いに、ユウは満面の笑みで答えた。
「もちろんです。どこまででも、一緒にいさせてください」
昼間の日光のようなユウの暖かな笑顔に、胸がつまるような充足感を覚えたシルバーは、体を屈めユウと額を合わせる。
「……夢のようだ」
「私も、同じ気持ちです」
どこまでも嬉しいことしか言わない恋人をシルバーは一瞬で持ち上げた。ユウをお姫様のように抱き上げて、その場をくるくる回る。ユウは突然のシルバーのはしゃぎように、一緒になって喜んだ。
「きゃはは! 先輩!」
シルバーの首にしがみつきながら笑うユウと、彼女を心底大事そうに抱えるシルバーを祝福するかのように、薔薇たちもその花びらを風に乗せ、咲き乱れる。
そうして、ユウはシルバーと一つ約束を交わした。祝言はユウの卒業後に挙げようと。