明日へ捧げるワルツ
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ケイラの言う通りに歩いていくと、そこは薔薇園だった。頭上の月が赤い花たちを優しく照らしている。これほど美しい庭園なのになぜ誰も来ないのだろう、とユウが思案しようとして止めた。先ほどから立ってばかりで、おやつにありつこうにも緊張で食事も喉を通る気がしない。なんならリリアがいなくなってから一人取り残された気がして、ユウはケイラと話しているとき以外、あまり楽しくなかった。
しかし、ここは静かで、薔薇の香りもあって落ち着く。ユウは庭園に置かれていた石のベンチに腰掛ける。見上げた月は、刃のように白かった。緊張の連続で疲れた頭のねじが緩んだせいか、ユウの口は思わずできもしない願望をポロリと吐き出した。
「せめて、シルバー先輩と踊りたかったな」
不意に風が凪ぐ。背後で草を踏む音がして、ユウが振り返ると月光を銀髪が反射した。
「……ユウ、ここにいたのか」
シルバーの登場に、ユウは思わず固まってしまった。まさか会えるとは思っていなかった、それ以上にその口ぶりではまるで自分を探していたようじゃないか、とユウの脳みそが再び機能し始める。
シルバーはユウの隣に腰掛けた。
「どうした。会場には戻らないのか」
さすがにリリアがいなくなって、ケイラも相手してくれないし、誰も相手してくれないから、などと言えるはずもなく、ユウはへらっと笑った。
「疲れたので抜けちゃいました。ケイラにここを案内してもらって、休憩しようかと」
「……そうか」
シルバーがあまりにも真っ直ぐな目で、それもじっと爪先から頭のてっぺんまで彫刻でも眺めるようにじっくり見るので、ユウは耐えきれず話題を振った。
「先輩はどうしたんですか。ツノ太郎が脱走でもしましたか」
「いいや。俺はお前を探しに来た」
思わぬ言葉に、ユウは目を丸くした。まさかそんなわけがないと思っていたので、リリアから習った上品な言葉遣いも忘れて言葉を漏らす。
「へ。護衛は?」
「セベクと親父殿がついている。せっかくのパーティなのに、パートナーが恋人の父親では可哀想だから、俺がパートナーになれ、と」
ああ、そういうことだったのか、とユウはリリアに感謝したくなった。彼はユウの秘かな願いを知ったうえであえて突き放したのだ。もう少しだけ事情を話してから離れてほしかったとユウは心の中で愚痴をこぼすが、目の前のシルバーを連れてきてくれたことに言い表せないほどの感情が沸き上がっていた。
「……ごめんなさい。先輩」
「踊りたくなかったか?」
不安になったシルバーがユウの手を取ると、ユウは首を横に振り、涙を堪えるように笑った。
「いえ、任務の方が優先なのに、私……嬉しくて泣いちゃいそうです」
彼女の喜んでいる姿にシルバーも胸が熱くなる。リリアにすぐ行かんと他の男に踊られてしまうぞ! と急かされて、急いだ甲斐があった。シルバーはユウの小さな頭を撫で、そのまま頬に手を添える。
「喜んでいい。それに、浮かれているのは俺も同じだ」
シルバーはベンチから立ち上がりひざまずくと、ユウに手を差し出した。淡く微笑んだその表情に、ユウは思わず胸を押さえる。
「俺と一曲、踊ってもらえないか」
ユウは目元に雫を滲ませながら、彼の手を取った。
「……はい!」
しかし、ここは静かで、薔薇の香りもあって落ち着く。ユウは庭園に置かれていた石のベンチに腰掛ける。見上げた月は、刃のように白かった。緊張の連続で疲れた頭のねじが緩んだせいか、ユウの口は思わずできもしない願望をポロリと吐き出した。
「せめて、シルバー先輩と踊りたかったな」
不意に風が凪ぐ。背後で草を踏む音がして、ユウが振り返ると月光を銀髪が反射した。
「……ユウ、ここにいたのか」
シルバーの登場に、ユウは思わず固まってしまった。まさか会えるとは思っていなかった、それ以上にその口ぶりではまるで自分を探していたようじゃないか、とユウの脳みそが再び機能し始める。
シルバーはユウの隣に腰掛けた。
「どうした。会場には戻らないのか」
さすがにリリアがいなくなって、ケイラも相手してくれないし、誰も相手してくれないから、などと言えるはずもなく、ユウはへらっと笑った。
「疲れたので抜けちゃいました。ケイラにここを案内してもらって、休憩しようかと」
「……そうか」
シルバーがあまりにも真っ直ぐな目で、それもじっと爪先から頭のてっぺんまで彫刻でも眺めるようにじっくり見るので、ユウは耐えきれず話題を振った。
「先輩はどうしたんですか。ツノ太郎が脱走でもしましたか」
「いいや。俺はお前を探しに来た」
思わぬ言葉に、ユウは目を丸くした。まさかそんなわけがないと思っていたので、リリアから習った上品な言葉遣いも忘れて言葉を漏らす。
「へ。護衛は?」
「セベクと親父殿がついている。せっかくのパーティなのに、パートナーが恋人の父親では可哀想だから、俺がパートナーになれ、と」
ああ、そういうことだったのか、とユウはリリアに感謝したくなった。彼はユウの秘かな願いを知ったうえであえて突き放したのだ。もう少しだけ事情を話してから離れてほしかったとユウは心の中で愚痴をこぼすが、目の前のシルバーを連れてきてくれたことに言い表せないほどの感情が沸き上がっていた。
「……ごめんなさい。先輩」
「踊りたくなかったか?」
不安になったシルバーがユウの手を取ると、ユウは首を横に振り、涙を堪えるように笑った。
「いえ、任務の方が優先なのに、私……嬉しくて泣いちゃいそうです」
彼女の喜んでいる姿にシルバーも胸が熱くなる。リリアにすぐ行かんと他の男に踊られてしまうぞ! と急かされて、急いだ甲斐があった。シルバーはユウの小さな頭を撫で、そのまま頬に手を添える。
「喜んでいい。それに、浮かれているのは俺も同じだ」
シルバーはベンチから立ち上がりひざまずくと、ユウに手を差し出した。淡く微笑んだその表情に、ユウは思わず胸を押さえる。
「俺と一曲、踊ってもらえないか」
ユウは目元に雫を滲ませながら、彼の手を取った。
「……はい!」