明日へ捧げるワルツ
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「リリア・ヴァンルージュ様! 並びにその娘、ユウ!」
次の謁見の儀は自分たちの番だ、とユウは身を固くした。ここまでリリアのリードがあったからそれとなく立って笑っているだけでよかったのだが、ここからは特訓の成果を発揮しなければならない。
「ほれ、行くぞ」
「はい……」
案内役がセベクなので、リリアが途中で軽い雑談を挟んでくれた。今のところマレウスの護衛を担当しているのはシルバーだそうだ。ここまで何度もシルバーばかりを探していたのに見つけられなかったのは、マレウスの傍に居たからなのか、とユウは理解した。
シルバーが働いているところが見られる。昨日から会っていないシルバーを思うと、なぜか今更会うことにユウは緊張し始めた。
「ここからは僕は入れません。リリア様、いってらっしゃいませ」
「あいわかった」
「ユウ。若様にくれぐれも失礼のないように」
「分かってるよ。セベクも護衛お疲れ様」
重い扉が開かれると、そこは意外と薄暗い場所だった。というのも、妖精たちは夜目が効く。ユウが転ばないように、リリアは手を引いていた。ここでいい、とリリアが立ち止まると、膝をつく。ユウもそれを見習って、ドレスの上に手を下ろし膝を折った。
「ヴァンルージュ、ここに。挨拶はわしの娘がしましょう」
ユウはリリアのウインクを受けて、今まで練習してきた文句を腹の底に力を入れて言った。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。高潔なるお方との対面をお許しいただけて、恐悦至極です」
一つも噛むことなく言いきれたことに、ユウはひとまず安心した。ここで舌を噛んだならそのまま噛み切ってしまいたくなる。
ふと、部屋の薄暗かった明かりがユウでも足元が見えるほどに明るさを増していた。
「リリア、ユウ。よく参った。楽にしていい」
リリアが顔を上げ立ちあがるので、ユウもそろそろと顔を上げて立ちあがった。そこにはいかにも不満そうに睥睨しているマレウスがいた。どうやら照明も彼が明るくしてくれたのだろう。
「くふふ。なんじゃ、その顔は」
「他人行儀なお前たちを見るのは気に食わないだけだ」
「その割には、楽しそうじゃがの。……ああ、ユウ。シルバーはあそこじゃ」
リリアがユウに耳打ちをすると、ユウは確かにマレウスの後ろ辺りでカーテンの影に隠れている銀髪を見つけた。影からきらりと光った彼の瞳にユウの心臓は忙しなくなる。そうも寮服とは違う近衛兵の恰好らしいが影が邪魔をしてよく見えなかった。しかし、ユウはそれに不満を感じていても口には出さないことにしていた。なぜなら、彼は今仕事をしているのだから。
リリアが話しかけてもいいんじゃぞ、と言うと、ユウは諦めの笑みを浮かべ首を横に振った。
「今はお仕事をしているので、邪魔はできないです」
「全くお主らは」
互いに贈り物をしあう以上の深い感情思っているくせに、こういう時だけ我慢しようとするユウにリリアは顔に手を当てた。今はどうせ知った顔しかいないのだから、我慢などする必要もないのだ。
マレウスがユウに向かって手を差し出した。
「ユウ。前へ出ろ」
私? と自分の顔に指を向けたユウに早くしろ、とマレウスが苛立った調子で応える。リリアも早く行かんか、と背中を押すので、ユウは5メートル先のマレウスの前へそろそろと二三歩進んで止まった。
「そんなところにいるな。僕の傍まで来い」
はいはいとユウが近寄ると、マレウスまで手を伸ばせば届く距離に近づいたそこで、シルバーの姿がはっきり見えた。普段はナイトレイブンカレッジの制服などか簡素な服装しか見たことがないのだが、今日のシルバーはパーティーのために少しだけ豪奢な警備の服装になっている。洗練された彼の雰囲気と格調高い衣装に神々しささえ感じたユウは、思わず見惚れてしまっていた。それはシルバーも同じで、開花した花から生まれたかのようなユウに見惚れていた。
いつまでそうしていただろうか。セベクが扉を開け、声をかけた。
「若様、もう刻限です」
「ユウ、下がれ」
マレウスは左手で払う仕草を見せると、ユウははっとマレウスがいたことを今更思い出して、すぐにお辞儀をした。
「……ツノ太郎、ありがとう」
心底嬉しそうな友人の微笑みに、マレウスは目を丸くした。彼からすれば、もう少しばかり恋人らしくしているところを生で眺めていたかっただけだ。しかし、結果的にこの二人を満足させるようなことをしていたらしい。柄にもないことをしてしまったと、マレウスは自分に呆れた。
ユウが去った謁見室で、マレウスの背後から声がした。
「ありがとうございます。マレウス様」
次の謁見の儀は自分たちの番だ、とユウは身を固くした。ここまでリリアのリードがあったからそれとなく立って笑っているだけでよかったのだが、ここからは特訓の成果を発揮しなければならない。
「ほれ、行くぞ」
「はい……」
案内役がセベクなので、リリアが途中で軽い雑談を挟んでくれた。今のところマレウスの護衛を担当しているのはシルバーだそうだ。ここまで何度もシルバーばかりを探していたのに見つけられなかったのは、マレウスの傍に居たからなのか、とユウは理解した。
シルバーが働いているところが見られる。昨日から会っていないシルバーを思うと、なぜか今更会うことにユウは緊張し始めた。
「ここからは僕は入れません。リリア様、いってらっしゃいませ」
「あいわかった」
「ユウ。若様にくれぐれも失礼のないように」
「分かってるよ。セベクも護衛お疲れ様」
重い扉が開かれると、そこは意外と薄暗い場所だった。というのも、妖精たちは夜目が効く。ユウが転ばないように、リリアは手を引いていた。ここでいい、とリリアが立ち止まると、膝をつく。ユウもそれを見習って、ドレスの上に手を下ろし膝を折った。
「ヴァンルージュ、ここに。挨拶はわしの娘がしましょう」
ユウはリリアのウインクを受けて、今まで練習してきた文句を腹の底に力を入れて言った。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。高潔なるお方との対面をお許しいただけて、恐悦至極です」
一つも噛むことなく言いきれたことに、ユウはひとまず安心した。ここで舌を噛んだならそのまま噛み切ってしまいたくなる。
ふと、部屋の薄暗かった明かりがユウでも足元が見えるほどに明るさを増していた。
「リリア、ユウ。よく参った。楽にしていい」
リリアが顔を上げ立ちあがるので、ユウもそろそろと顔を上げて立ちあがった。そこにはいかにも不満そうに睥睨しているマレウスがいた。どうやら照明も彼が明るくしてくれたのだろう。
「くふふ。なんじゃ、その顔は」
「他人行儀なお前たちを見るのは気に食わないだけだ」
「その割には、楽しそうじゃがの。……ああ、ユウ。シルバーはあそこじゃ」
リリアがユウに耳打ちをすると、ユウは確かにマレウスの後ろ辺りでカーテンの影に隠れている銀髪を見つけた。影からきらりと光った彼の瞳にユウの心臓は忙しなくなる。そうも寮服とは違う近衛兵の恰好らしいが影が邪魔をしてよく見えなかった。しかし、ユウはそれに不満を感じていても口には出さないことにしていた。なぜなら、彼は今仕事をしているのだから。
リリアが話しかけてもいいんじゃぞ、と言うと、ユウは諦めの笑みを浮かべ首を横に振った。
「今はお仕事をしているので、邪魔はできないです」
「全くお主らは」
互いに贈り物をしあう以上の深い感情思っているくせに、こういう時だけ我慢しようとするユウにリリアは顔に手を当てた。今はどうせ知った顔しかいないのだから、我慢などする必要もないのだ。
マレウスがユウに向かって手を差し出した。
「ユウ。前へ出ろ」
私? と自分の顔に指を向けたユウに早くしろ、とマレウスが苛立った調子で応える。リリアも早く行かんか、と背中を押すので、ユウは5メートル先のマレウスの前へそろそろと二三歩進んで止まった。
「そんなところにいるな。僕の傍まで来い」
はいはいとユウが近寄ると、マレウスまで手を伸ばせば届く距離に近づいたそこで、シルバーの姿がはっきり見えた。普段はナイトレイブンカレッジの制服などか簡素な服装しか見たことがないのだが、今日のシルバーはパーティーのために少しだけ豪奢な警備の服装になっている。洗練された彼の雰囲気と格調高い衣装に神々しささえ感じたユウは、思わず見惚れてしまっていた。それはシルバーも同じで、開花した花から生まれたかのようなユウに見惚れていた。
いつまでそうしていただろうか。セベクが扉を開け、声をかけた。
「若様、もう刻限です」
「ユウ、下がれ」
マレウスは左手で払う仕草を見せると、ユウははっとマレウスがいたことを今更思い出して、すぐにお辞儀をした。
「……ツノ太郎、ありがとう」
心底嬉しそうな友人の微笑みに、マレウスは目を丸くした。彼からすれば、もう少しばかり恋人らしくしているところを生で眺めていたかっただけだ。しかし、結果的にこの二人を満足させるようなことをしていたらしい。柄にもないことをしてしまったと、マレウスは自分に呆れた。
ユウが去った謁見室で、マレウスの背後から声がした。
「ありがとうございます。マレウス様」