明日へ捧げるワルツ
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このパーティーの大目玉は、次期領主であるマレウスと別室で数分だけ会える謁見の儀だった。会いに来る貴族たちは数分の拘束で許されるが、マレウスはそうともいかない。どんどん変わっていく彼らにいちいち同じ挨拶を返しては嫌味を飛ばしたり、怒ったふりをしたりと反応を専ら反応を楽しむ以外につぶすことができない退屈な時間だった。
その合間に挟まれたインターバルに、休憩室でマレウスは大きなため息を吐いた。大きなカウチに腰掛けている彼がこの時間に対して不満に思うのはもう一つ理由があった。
「シルバー。僕はいいと言ったぞ」
マレウスの背後に控えているシルバーは、全く顔色も変えず答えた。
「いえ、今回の式典ではマレウス様の護衛をするのが役目です」
これだから堅物は、と文句を言いかけたが、こういうところを買ってもいるので、マレウスはもう少しだけ遠慮をもって接することにした。人間の友人はマレウスに家臣の心を慮って接することも肝要だと教えてくれたので。
「まったく、お前も融通が利かないな。最近少しリリアに似てきたぞ」
「そんなことはありません」
きっぱりと言い切るシルバーに、マレウスは頭を抱えたくなった。いかんせん、自分の護衛と友人は仕事を優先することに躊躇いがなさすぎる。人間相手に取られるのは嫌でも、仕事に奪われるのは嫌じゃないのだろうか。
「それに、僕はお前のために言っているんだ。ユウと遊んでくればいいものを」
「お気遣いいただきありがとうございます。しかし、護衛として今回は付き従います」
「まったく、そう言っているから、あの人の子が勝手をする」
勝手? と首を傾げたシルバーだが、そこにセベクがノックをして入ってきた。
「まもなく謁見の儀を行います。若様、どうぞこちらへ」
案内に従い、マレウスは立ち上がり出口へ向かうと、一歩踏み出せば部屋から出るところで立ち止まった。
「シルバー、お前、今日はあの人の子に会ったか?」
「いえ……」
首を横に振ったシルバーに、マレウスは珍しいな、と感嘆した。マレウスはカラスの目を借りて広間の様子を見ていたが、今日のユウは格別だと彼も思っていた。しかし、そんな彼女の花のような姿を見ていないシルバーが果たしてどんな反応を見せるのか、想像しただけで口元が思わず笑みで歪む。
「なら、楽しみだ」
シルバーはそんなマレウスの企みなどに気づくはずもなく、楽しみになさっているならいいか、と敬礼をした。
再び始められた謁見の儀では、四季を問わず訪れる風のように色んな貴族が会いに来た。無論彼らはマレウスに帰省を喜んでいることを伝えるために来ているのだが、その中には屈指の美貌を持つシルバーに声をかけようか悩んでる者もいた。
桃色の翅を忙しなく動かす少女が、自分の背後にいるシルバーに情熱的な視線を送っていることくらいマレウスは分かり切っていた。シルバーの気配は静寂そのもので、動揺のかけらもない。
「し……シルバー様」
「ダメよ護衛中なんですから」
オレンジの翅をもつ妖精がそれを咎めた。しかし、彼女の瞳もまたシルバーをギラギラと燃えるように見つめている。
「終わってから、ぜひ私たちともお話しくださいませ」
マレウスに別れの挨拶を告げた彼女たちは、赤らめた頬のままおしとやかな足取りでその場を後にした。
マレウスは次の客が来るまでに、背後の護衛を起こすつもりで声をかけた。
「シルバー。あの者たちに声をかけないのか」
この問いに対して、シルバーはどう返してくるのだろうか。ユウがいるから話しかけないと答えるのか、時間さえ合えばと素っ頓狂なことを言うのだろうか。
しかし、シルバーは首を傾げて言った。
「今、なにか言っていましたか?」
マレウスは思わぬ返答にくすくすと笑い声を抑えるので必死だった。ここまで賢い男になっていたとは知らなかったからだ。マレウスは玉座に頬杖をついて呟いた。
「……狸寝入りもいいところだ」
その合間に挟まれたインターバルに、休憩室でマレウスは大きなため息を吐いた。大きなカウチに腰掛けている彼がこの時間に対して不満に思うのはもう一つ理由があった。
「シルバー。僕はいいと言ったぞ」
マレウスの背後に控えているシルバーは、全く顔色も変えず答えた。
「いえ、今回の式典ではマレウス様の護衛をするのが役目です」
これだから堅物は、と文句を言いかけたが、こういうところを買ってもいるので、マレウスはもう少しだけ遠慮をもって接することにした。人間の友人はマレウスに家臣の心を慮って接することも肝要だと教えてくれたので。
「まったく、お前も融通が利かないな。最近少しリリアに似てきたぞ」
「そんなことはありません」
きっぱりと言い切るシルバーに、マレウスは頭を抱えたくなった。いかんせん、自分の護衛と友人は仕事を優先することに躊躇いがなさすぎる。人間相手に取られるのは嫌でも、仕事に奪われるのは嫌じゃないのだろうか。
「それに、僕はお前のために言っているんだ。ユウと遊んでくればいいものを」
「お気遣いいただきありがとうございます。しかし、護衛として今回は付き従います」
「まったく、そう言っているから、あの人の子が勝手をする」
勝手? と首を傾げたシルバーだが、そこにセベクがノックをして入ってきた。
「まもなく謁見の儀を行います。若様、どうぞこちらへ」
案内に従い、マレウスは立ち上がり出口へ向かうと、一歩踏み出せば部屋から出るところで立ち止まった。
「シルバー、お前、今日はあの人の子に会ったか?」
「いえ……」
首を横に振ったシルバーに、マレウスは珍しいな、と感嘆した。マレウスはカラスの目を借りて広間の様子を見ていたが、今日のユウは格別だと彼も思っていた。しかし、そんな彼女の花のような姿を見ていないシルバーが果たしてどんな反応を見せるのか、想像しただけで口元が思わず笑みで歪む。
「なら、楽しみだ」
シルバーはそんなマレウスの企みなどに気づくはずもなく、楽しみになさっているならいいか、と敬礼をした。
再び始められた謁見の儀では、四季を問わず訪れる風のように色んな貴族が会いに来た。無論彼らはマレウスに帰省を喜んでいることを伝えるために来ているのだが、その中には屈指の美貌を持つシルバーに声をかけようか悩んでる者もいた。
桃色の翅を忙しなく動かす少女が、自分の背後にいるシルバーに情熱的な視線を送っていることくらいマレウスは分かり切っていた。シルバーの気配は静寂そのもので、動揺のかけらもない。
「し……シルバー様」
「ダメよ護衛中なんですから」
オレンジの翅をもつ妖精がそれを咎めた。しかし、彼女の瞳もまたシルバーをギラギラと燃えるように見つめている。
「終わってから、ぜひ私たちともお話しくださいませ」
マレウスに別れの挨拶を告げた彼女たちは、赤らめた頬のままおしとやかな足取りでその場を後にした。
マレウスは次の客が来るまでに、背後の護衛を起こすつもりで声をかけた。
「シルバー。あの者たちに声をかけないのか」
この問いに対して、シルバーはどう返してくるのだろうか。ユウがいるから話しかけないと答えるのか、時間さえ合えばと素っ頓狂なことを言うのだろうか。
しかし、シルバーは首を傾げて言った。
「今、なにか言っていましたか?」
マレウスは思わぬ返答にくすくすと笑い声を抑えるので必死だった。ここまで賢い男になっていたとは知らなかったからだ。マレウスは玉座に頬杖をついて呟いた。
「……狸寝入りもいいところだ」