明日へ捧げるワルツ
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「パーティー?」
ホリデーももうじき終わりを告げる頃、リリアは前触れもなく別荘に住むユウのもとにやってきた。ユウは突然告げられたその言葉を反芻して、それが口に出たのが先ほどの言葉だ。
リリアはうむ、と頷いた。
「そうじゃ。マレウスが帰省とはいえ茨の谷に帰ってきたことを祝うものじゃ。国を挙げて盛大に祝われるじゃろう。そこでシルバーとセベクは護衛に回るんじゃが、おぬしも来てみぬか?」
リリアの予想に反し、ユウの反応はぎこちなかった。おや? と顔を覗き込んだリリアに、ユウが申し訳なさそうに顔を伏せる。
「でも……そんな社交界の常識とか分かりませんし」
「安心せい。一通りのことはわしが教える。当日もお主のパートナーとして傍におろう」
リリアの手がユウの肩に置かれ、ユウはそれに顔を上げる。リリアの力強い言葉と安心させるような笑顔に、自然とユウはパーティーへの恐怖が少しずつ和らいでいった。リリアが真っ直ぐな目で訴えた。
「だが、そんなものは蛇足じゃ。お主はシルバーに活力を与えるだけでよい。何せお主がいるだけであやつは随分と張り切るからな」
そう、パーティーの当日は護衛とはいえシルバーが参加する。そこで見られるシルバーの仕事の姿を思うと、パーティーで恥をかく恐怖よりも普段見られないシルバーに会いたい気持ちが勝ち始めていた。
「それならぜひ、参加したいです! 茨の谷のこととか何も知らない私が折角知る機会なんですから」
しっかりと頷いたユウに、リリアはにっこりと微笑んだ。
「お主のその思い切りの良さは気持ちいいものよ。明日からみっちり仕込む故、今日は休んでおけ」
リリアの予告に冷汗をかいたユウは、分かりましたと頷いた。そろそろシルバーも帰ってくるじゃろう、とリリアは席を立つ。
「もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「よいのか? わしがおるとお主が遠慮をするせいでシルバーは寂しがってしまうぞ? その結果、ユウの柔肌に嫉妬の鬱血痕がついて」
「あー! あー! 今日は先輩と二人分の食料しか補充していなかったです! リリア先輩ごめんなさい!」
首まで真っ赤にしたユウにくすくすと笑ったリリアは、またの、と言って、飛び去ってしまった。燃え上がるような頬の熱が引かず、胸が痛い。ユウは頬を両手で包んだ。
「ただいま」
「きゃあ!」
飛び上がったユウは、背後から出てきたシルバーの帰宅に飛び上がった。シルバーが何かおかしいことでもあったのか? と首を傾げるが、ユウは何でもないと赤くなった頬を見られぬよう上着を剥がしにかかる。
上着を脱いだシルバーが手洗いに向かったところで、ユウの動きはますます気配を殺すような動きになった。シルバーは何かあるのだろうかと不安になって、手洗いもそこそこにリビングにいるユウの元まですぐに戻ってきた。
ユウは何やら後ろ手に何か持っているらしい。背中に隠されたそれはなんだと尋ねると、ユウはそろりとそれを突き出した。彼女の小さな両手の上に乗っていたのは、黒の革紐に縛られた水晶だった。
「シルバー先輩、これあげます」
シルバーが持ちあげると、革紐は宝石だけでなく首から下げられるように工夫されていた。いわゆる水晶を革紐で縛ってできた首飾りなのだ。しかし、シルバーはその美しい石の正体が魔法石でなく水晶であることに違和感を覚えた。
「……魔法石、ではなく宝石か」
「た、ただの宝石で申し訳ないです。でも、先輩が削ってくれたこの石のお返しがしたくて」
ユウは首に今も下げているシルバーからの贈り物を服の下から取り出して見せた。
リリアと石選びから始め、削って独自の光沢を生むまでユウは寝る間も惜しんで作っていた。本来なら魔力をこめて魔法石にもなるはずなのに、茨の谷ではごくありふれた宝石になってしまったことにユウは泣きたくなった。残念ながら、ユウには魔法が使えないので。
しかし、シルバーは嬉しい、と微笑んで首にそれをかける。光の当たり具合で色を変えるそれはシルバーの瞳のようだった。
「ありがとう。これは大事につける」
周囲に花を飛ばしそうなシルバーの笑顔に、思わずユウまで頬が持ち上がる。互いの胸元で石たちが煌いた。
ホリデーももうじき終わりを告げる頃、リリアは前触れもなく別荘に住むユウのもとにやってきた。ユウは突然告げられたその言葉を反芻して、それが口に出たのが先ほどの言葉だ。
リリアはうむ、と頷いた。
「そうじゃ。マレウスが帰省とはいえ茨の谷に帰ってきたことを祝うものじゃ。国を挙げて盛大に祝われるじゃろう。そこでシルバーとセベクは護衛に回るんじゃが、おぬしも来てみぬか?」
リリアの予想に反し、ユウの反応はぎこちなかった。おや? と顔を覗き込んだリリアに、ユウが申し訳なさそうに顔を伏せる。
「でも……そんな社交界の常識とか分かりませんし」
「安心せい。一通りのことはわしが教える。当日もお主のパートナーとして傍におろう」
リリアの手がユウの肩に置かれ、ユウはそれに顔を上げる。リリアの力強い言葉と安心させるような笑顔に、自然とユウはパーティーへの恐怖が少しずつ和らいでいった。リリアが真っ直ぐな目で訴えた。
「だが、そんなものは蛇足じゃ。お主はシルバーに活力を与えるだけでよい。何せお主がいるだけであやつは随分と張り切るからな」
そう、パーティーの当日は護衛とはいえシルバーが参加する。そこで見られるシルバーの仕事の姿を思うと、パーティーで恥をかく恐怖よりも普段見られないシルバーに会いたい気持ちが勝ち始めていた。
「それならぜひ、参加したいです! 茨の谷のこととか何も知らない私が折角知る機会なんですから」
しっかりと頷いたユウに、リリアはにっこりと微笑んだ。
「お主のその思い切りの良さは気持ちいいものよ。明日からみっちり仕込む故、今日は休んでおけ」
リリアの予告に冷汗をかいたユウは、分かりましたと頷いた。そろそろシルバーも帰ってくるじゃろう、とリリアは席を立つ。
「もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「よいのか? わしがおるとお主が遠慮をするせいでシルバーは寂しがってしまうぞ? その結果、ユウの柔肌に嫉妬の鬱血痕がついて」
「あー! あー! 今日は先輩と二人分の食料しか補充していなかったです! リリア先輩ごめんなさい!」
首まで真っ赤にしたユウにくすくすと笑ったリリアは、またの、と言って、飛び去ってしまった。燃え上がるような頬の熱が引かず、胸が痛い。ユウは頬を両手で包んだ。
「ただいま」
「きゃあ!」
飛び上がったユウは、背後から出てきたシルバーの帰宅に飛び上がった。シルバーが何かおかしいことでもあったのか? と首を傾げるが、ユウは何でもないと赤くなった頬を見られぬよう上着を剥がしにかかる。
上着を脱いだシルバーが手洗いに向かったところで、ユウの動きはますます気配を殺すような動きになった。シルバーは何かあるのだろうかと不安になって、手洗いもそこそこにリビングにいるユウの元まですぐに戻ってきた。
ユウは何やら後ろ手に何か持っているらしい。背中に隠されたそれはなんだと尋ねると、ユウはそろりとそれを突き出した。彼女の小さな両手の上に乗っていたのは、黒の革紐に縛られた水晶だった。
「シルバー先輩、これあげます」
シルバーが持ちあげると、革紐は宝石だけでなく首から下げられるように工夫されていた。いわゆる水晶を革紐で縛ってできた首飾りなのだ。しかし、シルバーはその美しい石の正体が魔法石でなく水晶であることに違和感を覚えた。
「……魔法石、ではなく宝石か」
「た、ただの宝石で申し訳ないです。でも、先輩が削ってくれたこの石のお返しがしたくて」
ユウは首に今も下げているシルバーからの贈り物を服の下から取り出して見せた。
リリアと石選びから始め、削って独自の光沢を生むまでユウは寝る間も惜しんで作っていた。本来なら魔力をこめて魔法石にもなるはずなのに、茨の谷ではごくありふれた宝石になってしまったことにユウは泣きたくなった。残念ながら、ユウには魔法が使えないので。
しかし、シルバーは嬉しい、と微笑んで首にそれをかける。光の当たり具合で色を変えるそれはシルバーの瞳のようだった。
「ありがとう。これは大事につける」
周囲に花を飛ばしそうなシルバーの笑顔に、思わずユウまで頬が持ち上がる。互いの胸元で石たちが煌いた。