彼は貴方のものじゃない
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あの騒動から一週間後。
茨の谷では魔法が生活の基盤になるため、ユウの世界でいうところの新聞は鳥や眷属を使った伝書が一週間に一度配られていた。ユウがお使いご苦労様と朝から伝書を運んできてくれた森の動物たちに木の実などを与えていると、彼女の前で腰かけているフードを被った女性が呟いた。
「まったく、貴方が何を考えているのか全く分からないわ」
「それはお互い様じゃない? ケイラ」
ユウが微笑むと、ケイラが顔を顰めた。分かったような口ぶりのユウがあながち外れたことを言わないのが気に食わない。ケイラは伝書を広げてみた。
「『茨の谷で謎の眠気―茨の魔女の祟りか?』。うちの屋敷のことも、茨の魔女の雷が落ちたって……フェイクニュースにもほどがあるわ。杜撰じゃない」
机の上に伝書を叩きつけて、ケイラは雪のような白い指でとんとんと伝書を指す。ユウは森の動物たちを玄関から送り出すと、ひょっこりリビングに顔を出した。
「でも、みんな信じてくれているでしょ? 私も街で知らない顔して話を聞くの大変だった」
「良く言うわ。私に関する罪をドラコニア様のお力で抹消させた張本人のくせに」
ケイラの真珠色の瞳がきらりと朝日に煌く。ユウは何でもないような顔をして、ティーカップを二つ持ちケイラの傍に立った。
「それはツノ太郎がしたことだよ。お礼は彼に言ってね」
「お礼も何も投獄された方がまだいいわ。あの方に一生をかけて忠誠を尽くさなくてはならないじゃない」
「案外それが狙いだったりして」
怖いわよ! と青ざめたケイラに、ユウはくすくすと笑った。ユウの知る彼は政治的な力関係の中でもトップだが、おそらくそこまで深く考えていないだろう。ただ彼はユウの返答に機嫌を良くしたから、あそこまでしただけだ。
「それに、ケイラと友達になりたかったから、私は嬉しいよ」
にっこりと笑ったユウに、ケイラは大きくため息を吐いた。あの崩れた教会でもケイラは彼女に友達になってほしいと手を差し出されたのだ。シルバーですら止めたというのに、ユウはケイラと友達になりたいと言って譲らなかった。ケイラは差し出されたカップを取り、飲む。簡素な味であるはずなのに、胸まで暖かくなる心地がした。
「貴方って本当に何考えてるのかよく分からない」
「ええ? リリア先輩には分かりやすいって言われるよ?」
それは経験豊富なリリアだからだろう、とケイラは頭痛がするような心地がした。なぜこうもユウは自分のことに関して無頓着なのだろうか、シルバーが守っていてくれるからか? いや、シルバーと会う前からきっとこうだったに違いない。とケイラが思案していると、ユウが今度は尋ねる番だった。
「ケイラ、朝からシルバー先輩抜きで話したい事って何?」
「そうだったわ。……貴方の恋人を勝手に洗脳して、婚約までしようとしてごめんなさい」
頭を下げたケイラは、キリキリと痛む胸を押さえた。
「貴方の言う通りよ。私は愛してくれる存在が欲しかっただけ。でも、それも結局、自分勝手な願いだった。私には愛なんて与えられる価値もないわ」
諦めたように笑うケイラの手をユウは取った。ユウの手はケイラのものよりも剣ダコでぼろぼろだ。しかし、握る力の強さはユウの思いを雄弁に語ってくれた。
「私はそんなことないと思う」
「なんでそんな必死に言うの。貴方は私のことを憎んでもいいはず」
「それはまあ、確かに今でも許せない。でも、私はケイラに感謝しているよ」
感謝? と片眉をつり上げたケイラに、そうそうとユウは頷く。
「ケイラのおかげで、もし記憶を失くして私のことを忘れてしまっても、先輩のこときっと私は諦められないって分かった。だから、決心できたよ」
かなり真剣な様子のユウに、思わずケイラはごくり、と唾をのみこんだ。まさか、監禁などでも目論んでいるのだろうか。されるとしてもそれはユウの方だと思うのだが、とケイラが言葉を待っていると、ユウの唇がゆっくり動いた。
「私、先輩と結婚する!」
毅然とした態度で言うユウに、ケイラは目を丸くした。数秒遅れて呼吸ができると、ユウがもう一度先輩と、と言い始めるのでケイラは手でそれを制した。
「ちょっと、それは私に言うことなの?」
「私の先輩と結婚式強行しようとしたケイラなら、茨の谷の結婚式について詳しいかなって思って。相談に乗ってくれる?」
「さらっと嫌味まで付け加えてくるのね。……いいわ。無知な貴方の相談くらい、乗ってあげる」
やった、と喜んだユウは漬物を置いている床下から雑誌を取り出した。どれもウェディングプランが載せられているものだ。ユウはキラキラとした目で、雑誌を机の上に広げた。
「一応本屋さんでこそっと買ったんだけど、どう? どれがいいと思う?」
「貴方ね、そんな庶民の物まねをして良いの? やるならもっとシルバーと貴方に相応しいものにしなさい」
身を乗り出したケイラに指摘され、ユウがどういうことなんだと耳を傾ける。二人が雑誌を挟んで距離を縮めていくのを、コウモリが森の影から見つめていた。
茨の谷では魔法が生活の基盤になるため、ユウの世界でいうところの新聞は鳥や眷属を使った伝書が一週間に一度配られていた。ユウがお使いご苦労様と朝から伝書を運んできてくれた森の動物たちに木の実などを与えていると、彼女の前で腰かけているフードを被った女性が呟いた。
「まったく、貴方が何を考えているのか全く分からないわ」
「それはお互い様じゃない? ケイラ」
ユウが微笑むと、ケイラが顔を顰めた。分かったような口ぶりのユウがあながち外れたことを言わないのが気に食わない。ケイラは伝書を広げてみた。
「『茨の谷で謎の眠気―茨の魔女の祟りか?』。うちの屋敷のことも、茨の魔女の雷が落ちたって……フェイクニュースにもほどがあるわ。杜撰じゃない」
机の上に伝書を叩きつけて、ケイラは雪のような白い指でとんとんと伝書を指す。ユウは森の動物たちを玄関から送り出すと、ひょっこりリビングに顔を出した。
「でも、みんな信じてくれているでしょ? 私も街で知らない顔して話を聞くの大変だった」
「良く言うわ。私に関する罪をドラコニア様のお力で抹消させた張本人のくせに」
ケイラの真珠色の瞳がきらりと朝日に煌く。ユウは何でもないような顔をして、ティーカップを二つ持ちケイラの傍に立った。
「それはツノ太郎がしたことだよ。お礼は彼に言ってね」
「お礼も何も投獄された方がまだいいわ。あの方に一生をかけて忠誠を尽くさなくてはならないじゃない」
「案外それが狙いだったりして」
怖いわよ! と青ざめたケイラに、ユウはくすくすと笑った。ユウの知る彼は政治的な力関係の中でもトップだが、おそらくそこまで深く考えていないだろう。ただ彼はユウの返答に機嫌を良くしたから、あそこまでしただけだ。
「それに、ケイラと友達になりたかったから、私は嬉しいよ」
にっこりと笑ったユウに、ケイラは大きくため息を吐いた。あの崩れた教会でもケイラは彼女に友達になってほしいと手を差し出されたのだ。シルバーですら止めたというのに、ユウはケイラと友達になりたいと言って譲らなかった。ケイラは差し出されたカップを取り、飲む。簡素な味であるはずなのに、胸まで暖かくなる心地がした。
「貴方って本当に何考えてるのかよく分からない」
「ええ? リリア先輩には分かりやすいって言われるよ?」
それは経験豊富なリリアだからだろう、とケイラは頭痛がするような心地がした。なぜこうもユウは自分のことに関して無頓着なのだろうか、シルバーが守っていてくれるからか? いや、シルバーと会う前からきっとこうだったに違いない。とケイラが思案していると、ユウが今度は尋ねる番だった。
「ケイラ、朝からシルバー先輩抜きで話したい事って何?」
「そうだったわ。……貴方の恋人を勝手に洗脳して、婚約までしようとしてごめんなさい」
頭を下げたケイラは、キリキリと痛む胸を押さえた。
「貴方の言う通りよ。私は愛してくれる存在が欲しかっただけ。でも、それも結局、自分勝手な願いだった。私には愛なんて与えられる価値もないわ」
諦めたように笑うケイラの手をユウは取った。ユウの手はケイラのものよりも剣ダコでぼろぼろだ。しかし、握る力の強さはユウの思いを雄弁に語ってくれた。
「私はそんなことないと思う」
「なんでそんな必死に言うの。貴方は私のことを憎んでもいいはず」
「それはまあ、確かに今でも許せない。でも、私はケイラに感謝しているよ」
感謝? と片眉をつり上げたケイラに、そうそうとユウは頷く。
「ケイラのおかげで、もし記憶を失くして私のことを忘れてしまっても、先輩のこときっと私は諦められないって分かった。だから、決心できたよ」
かなり真剣な様子のユウに、思わずケイラはごくり、と唾をのみこんだ。まさか、監禁などでも目論んでいるのだろうか。されるとしてもそれはユウの方だと思うのだが、とケイラが言葉を待っていると、ユウの唇がゆっくり動いた。
「私、先輩と結婚する!」
毅然とした態度で言うユウに、ケイラは目を丸くした。数秒遅れて呼吸ができると、ユウがもう一度先輩と、と言い始めるのでケイラは手でそれを制した。
「ちょっと、それは私に言うことなの?」
「私の先輩と結婚式強行しようとしたケイラなら、茨の谷の結婚式について詳しいかなって思って。相談に乗ってくれる?」
「さらっと嫌味まで付け加えてくるのね。……いいわ。無知な貴方の相談くらい、乗ってあげる」
やった、と喜んだユウは漬物を置いている床下から雑誌を取り出した。どれもウェディングプランが載せられているものだ。ユウはキラキラとした目で、雑誌を机の上に広げた。
「一応本屋さんでこそっと買ったんだけど、どう? どれがいいと思う?」
「貴方ね、そんな庶民の物まねをして良いの? やるならもっとシルバーと貴方に相応しいものにしなさい」
身を乗り出したケイラに指摘され、ユウがどういうことなんだと耳を傾ける。二人が雑誌を挟んで距離を縮めていくのを、コウモリが森の影から見つめていた。