彼は貴方のものじゃない
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目を覚ましたケイラが見たのは、崩れた教会の天井よりも高いところで輝く青空だった。起き上がった彼女は頭を押さえる。
「私は……」
「ケイラさん。大丈夫ですか?」
真っ先に駆け寄ってきたのは、彼女にとって憎い相手であるユウだった。ユウはケイラに手を差し伸べるが、彼女の手をケイラは忌々しそうに睨む。
「貴方、何をもたもたと私に手を差し伸べているの。さっさと捕らえなさいよ」
捕らえる……と呟いたユウは、にっこりと笑った。
「安心してください。捕らえるなんて甘いことしませんから」
ユウの黒い笑顔に、思わずケイラの顔が引きつる。ユウは差し出した手を突き出し、立ってくださいとケイラに要求する。ケイラはその手も借りずに立ち上がろうとして、足元がふらついた。とっさにケイラのわきに腕を差し込んで支えたユウは、まだ腹の底に一物抱えている顔をしていた。
ますます侮辱された気がしたケイラは彼女を睨みつけた。
「私に何をさせたいのか言いなさい! そういう意味ありげな顔をされると腹が立つのよ」
「では、シルバー先輩にきちんと思いを伝えてください」
ケイラはその瞬間表情が抜け落ちた。予想だにしなかった報復に、ケイラは足がすくむ思いがした。
「え? なんで」
「私のシルバー先輩だって貴方に分かってもらうためです。そして貴方の気持ちに決着をつけてもらいます。じゃないと、きっと貴方は前に進めない」
「分かり切ったみたいな口をきいて」
忌々しそうに呻いたケイラに、ユウは親しみを込めた笑顔を向ける。
「分かりますよ。負けず嫌いなところとシルバー先輩のことおかしいくらい好きだってところは同じなので」
そうして話していると、彼女たちの傍にシルバーが近寄ってきた。話は終わったか、と近づく彼に今更胸を高鳴らせてしまうケイラから離れたユウは、先輩にお話があるそうです、と一言告げて、シルバーとケイラの二人きりにさせる。
二人の間から離れたユウに、離れたところから三人を見ていたリリアがユウに手を振る。もう避難は済んだんですかとユウが尋ねると、お主のわがままのためにマレウスがすべて一人でやりおった、とリリアが肩をすくめてみせた。彼は眠っている騎士団と参列者たち――といっても、ケイラは自分の父と女中たちしか連れてこなかったらしい――をセベクと共に魔法でこのでっち上げの式に関する記憶を消し、まさに屋敷や城で眠っていたという体で移動させた。リリアが後始末位すると言ったのに、ユウが自分で謝らせると言っているんだから僕がやらなくてどうする、と半ば強引な理論でマレウスが引き受けることとなった。あれほど楽しそうな顔で言われてしまっては、リリアもさすがに引かざるを得なかった。
かくいうお主こそ、と続けたリリアは意味ありげに笑う。
「よいのか? 二人きりなどにして」
「いいもなにも、先輩は私のものです。何度でも分からせます」
当然のことのように言いきるユウに、リリアはげらげら笑う。こんなことがなければもう少しだけユウは己の狂気に気づかなかったかもしれなかったのに、ケイラのしでかしたことはとんでもないな、と彼はシルバーに告白をしようとするケイラを見た。
「……シルバー」
ケイラは背徳感と罪悪感で息が詰まりそうになりながら、胸を押さえた。今更になって、告白一つに胸のあたりが忙しなくなり、息苦しくなる。それでも、目の前に傷だらけになりながら立っている彼に向けて伝えようと、ケイラは言葉を振り絞った。
「幼い時に騎士になってくれると誓ってくれた貴方のためなら、なにもかも耐えられた。貴方のことを……愛しているの」
涙で濡れた言葉が、砂塵を巻き上げた風にさらわれる。シルバーからの返答を待つその時間が、ケイラにとっては半永久的とも思えるほど長いものだった。シルバーは幼いころ彼女にしたように真っ直ぐケイラを見つめた。
「ケイラ様。俺にはもう心を捧げた相手がいます。だから、お気持ちには応えられません。……約束を忘れてしまい、申し訳ありません」
シルバーはそのまま頭を下げた。ケイラはやめて、と言って彼に向けて掌を出した。
「幼い時の話を引きずった私が悪いのよ。頭なんて下げないで」
穴があったら入りたいとはまさにこのことだとケイラが頭を押さえると、彼女の背後に影が差した。
「もういいですか? 先輩に言いたいこと言いました?」
「きゃっ! もう言ったわよ!」
背後に恨めしい感情を駄々洩れにしながらホラーチックに近づいたユウに、ケイラは思わず飛び退いた。彼女の言葉にけろっと機嫌がよくなったユウは、シルバーの傍に駆け寄る。ケイラは心臓のあたりに手を置いて、とにかく心拍数を落ち着かせる。そろ、と見上げた先のシルバーは、先ほどよりもずっと柔らかい表情をしていた。その視線の先には、まるで犬のようにシルバーの周りをくるくると回っているユウだ。
「先輩、お怪我は大丈夫ですか? 砂だらけですよ」
「それはお前もだ」
忙しないユウの砂のついた頬を指で拭うシルバーの緩んだ頬は、今にも落ちてしまいそうだ。ああ、とケイラは目を細めた。
「勝てるわけ、ないわ」
次の瞬間、ユウは口元を押さえて、顔を顰めた。ブルーベリーよりも真っ青なその顔色に、シルバーも思わず血相を変える。
「ユウ!?」
「て、転送魔法で来た酔いが……うぷ、気持ち悪い」
「酔い止めならある。早くこれを飲め」
シルバーが丸薬を手渡すと、ユウは掌にその小さな玉を転がした。一向に飲もうとしないユウに、シルバーが首を傾げる。
「どうした。飲まないのか?」
「……これ錠剤より大きくないですか? 喉詰まらせません?」
気持ち悪さと喉を詰まらせてしまうかもしれない恐怖で、ユウの瞳が潤んでくる。確かに市販の錠剤よりは大きいかもしれないが、シルバーでも飲み込めるのだ。だから大丈夫だと言おうとして、リリアが大声で言った。
「シルバー! ユウが飲めなさそうなら、お主が口移しで飲ませてやれ!」
その手があったか、とシルバーは目を見開き、ユウの手を取る。彼女の手の中の丸薬を取ると、シルバーがユウの目を見た。
「俺が飲ませる。ユウは目を閉じてくれ」
ユウが本気ですか? とシルバーに尋ねれば、情熱的な彼の眼差しのどこにも偽りはない。いかにも真剣な調子のシルバーに、ユウは首から耳まで真っ赤にさせて叫んだ。
「いやいや、今の絶対からかってますから!」
「……そうなのか?」
「そうです! ていうか場所が場所ですから!」
必死になって叫んでいるユウに、リリアが場所さえ悪くなければよいのか、と茶々を入れる。ユウが黙っててください! と今にも泣きそうな調子で叫ぶので、リリアはけらけら笑った。
ケイラはそんな二人を見て、勝てるどころか馬鹿がつくくらいの熱愛っぷりだと半目になった。しかし、不思議と二人を見たところでもう胸が痛くなることはなかった。
「私は……」
「ケイラさん。大丈夫ですか?」
真っ先に駆け寄ってきたのは、彼女にとって憎い相手であるユウだった。ユウはケイラに手を差し伸べるが、彼女の手をケイラは忌々しそうに睨む。
「貴方、何をもたもたと私に手を差し伸べているの。さっさと捕らえなさいよ」
捕らえる……と呟いたユウは、にっこりと笑った。
「安心してください。捕らえるなんて甘いことしませんから」
ユウの黒い笑顔に、思わずケイラの顔が引きつる。ユウは差し出した手を突き出し、立ってくださいとケイラに要求する。ケイラはその手も借りずに立ち上がろうとして、足元がふらついた。とっさにケイラのわきに腕を差し込んで支えたユウは、まだ腹の底に一物抱えている顔をしていた。
ますます侮辱された気がしたケイラは彼女を睨みつけた。
「私に何をさせたいのか言いなさい! そういう意味ありげな顔をされると腹が立つのよ」
「では、シルバー先輩にきちんと思いを伝えてください」
ケイラはその瞬間表情が抜け落ちた。予想だにしなかった報復に、ケイラは足がすくむ思いがした。
「え? なんで」
「私のシルバー先輩だって貴方に分かってもらうためです。そして貴方の気持ちに決着をつけてもらいます。じゃないと、きっと貴方は前に進めない」
「分かり切ったみたいな口をきいて」
忌々しそうに呻いたケイラに、ユウは親しみを込めた笑顔を向ける。
「分かりますよ。負けず嫌いなところとシルバー先輩のことおかしいくらい好きだってところは同じなので」
そうして話していると、彼女たちの傍にシルバーが近寄ってきた。話は終わったか、と近づく彼に今更胸を高鳴らせてしまうケイラから離れたユウは、先輩にお話があるそうです、と一言告げて、シルバーとケイラの二人きりにさせる。
二人の間から離れたユウに、離れたところから三人を見ていたリリアがユウに手を振る。もう避難は済んだんですかとユウが尋ねると、お主のわがままのためにマレウスがすべて一人でやりおった、とリリアが肩をすくめてみせた。彼は眠っている騎士団と参列者たち――といっても、ケイラは自分の父と女中たちしか連れてこなかったらしい――をセベクと共に魔法でこのでっち上げの式に関する記憶を消し、まさに屋敷や城で眠っていたという体で移動させた。リリアが後始末位すると言ったのに、ユウが自分で謝らせると言っているんだから僕がやらなくてどうする、と半ば強引な理論でマレウスが引き受けることとなった。あれほど楽しそうな顔で言われてしまっては、リリアもさすがに引かざるを得なかった。
かくいうお主こそ、と続けたリリアは意味ありげに笑う。
「よいのか? 二人きりなどにして」
「いいもなにも、先輩は私のものです。何度でも分からせます」
当然のことのように言いきるユウに、リリアはげらげら笑う。こんなことがなければもう少しだけユウは己の狂気に気づかなかったかもしれなかったのに、ケイラのしでかしたことはとんでもないな、と彼はシルバーに告白をしようとするケイラを見た。
「……シルバー」
ケイラは背徳感と罪悪感で息が詰まりそうになりながら、胸を押さえた。今更になって、告白一つに胸のあたりが忙しなくなり、息苦しくなる。それでも、目の前に傷だらけになりながら立っている彼に向けて伝えようと、ケイラは言葉を振り絞った。
「幼い時に騎士になってくれると誓ってくれた貴方のためなら、なにもかも耐えられた。貴方のことを……愛しているの」
涙で濡れた言葉が、砂塵を巻き上げた風にさらわれる。シルバーからの返答を待つその時間が、ケイラにとっては半永久的とも思えるほど長いものだった。シルバーは幼いころ彼女にしたように真っ直ぐケイラを見つめた。
「ケイラ様。俺にはもう心を捧げた相手がいます。だから、お気持ちには応えられません。……約束を忘れてしまい、申し訳ありません」
シルバーはそのまま頭を下げた。ケイラはやめて、と言って彼に向けて掌を出した。
「幼い時の話を引きずった私が悪いのよ。頭なんて下げないで」
穴があったら入りたいとはまさにこのことだとケイラが頭を押さえると、彼女の背後に影が差した。
「もういいですか? 先輩に言いたいこと言いました?」
「きゃっ! もう言ったわよ!」
背後に恨めしい感情を駄々洩れにしながらホラーチックに近づいたユウに、ケイラは思わず飛び退いた。彼女の言葉にけろっと機嫌がよくなったユウは、シルバーの傍に駆け寄る。ケイラは心臓のあたりに手を置いて、とにかく心拍数を落ち着かせる。そろ、と見上げた先のシルバーは、先ほどよりもずっと柔らかい表情をしていた。その視線の先には、まるで犬のようにシルバーの周りをくるくると回っているユウだ。
「先輩、お怪我は大丈夫ですか? 砂だらけですよ」
「それはお前もだ」
忙しないユウの砂のついた頬を指で拭うシルバーの緩んだ頬は、今にも落ちてしまいそうだ。ああ、とケイラは目を細めた。
「勝てるわけ、ないわ」
次の瞬間、ユウは口元を押さえて、顔を顰めた。ブルーベリーよりも真っ青なその顔色に、シルバーも思わず血相を変える。
「ユウ!?」
「て、転送魔法で来た酔いが……うぷ、気持ち悪い」
「酔い止めならある。早くこれを飲め」
シルバーが丸薬を手渡すと、ユウは掌にその小さな玉を転がした。一向に飲もうとしないユウに、シルバーが首を傾げる。
「どうした。飲まないのか?」
「……これ錠剤より大きくないですか? 喉詰まらせません?」
気持ち悪さと喉を詰まらせてしまうかもしれない恐怖で、ユウの瞳が潤んでくる。確かに市販の錠剤よりは大きいかもしれないが、シルバーでも飲み込めるのだ。だから大丈夫だと言おうとして、リリアが大声で言った。
「シルバー! ユウが飲めなさそうなら、お主が口移しで飲ませてやれ!」
その手があったか、とシルバーは目を見開き、ユウの手を取る。彼女の手の中の丸薬を取ると、シルバーがユウの目を見た。
「俺が飲ませる。ユウは目を閉じてくれ」
ユウが本気ですか? とシルバーに尋ねれば、情熱的な彼の眼差しのどこにも偽りはない。いかにも真剣な調子のシルバーに、ユウは首から耳まで真っ赤にさせて叫んだ。
「いやいや、今の絶対からかってますから!」
「……そうなのか?」
「そうです! ていうか場所が場所ですから!」
必死になって叫んでいるユウに、リリアが場所さえ悪くなければよいのか、と茶々を入れる。ユウが黙っててください! と今にも泣きそうな調子で叫ぶので、リリアはけらけら笑った。
ケイラはそんな二人を見て、勝てるどころか馬鹿がつくくらいの熱愛っぷりだと半目になった。しかし、不思議と二人を見たところでもう胸が痛くなることはなかった。