彼は貴方のものじゃない
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騎士団によって連行されそうになったケイラは、決死の覚悟で翅を開いた。その翅から溢れだした鱗粉が宙を漂い、傍で吸った騎士団や参列者たちが倒れ込む。彼らは皆眠っていた。
とっさに対応できたのは魔法の防御壁を張っていたマレウスとリリア、袖で呼吸器を覆ったセベクとシルバー、ユウの五人だけだった。拘束を外されたケイラは、血走った目でシルバーの腕の中で立っているユウを睨んだ。整った髪を両手でかき乱し、錯乱した様子の彼女は叫んだ。
「あああああ! ふざけないで! 何で貴方ばかり恵まれるの! 私はただ」
彼女の体から黒い粘液状のものが溢れ出てくる。そのどろどろとしたものに本能的に触れてはいけないと悟った五人は、ケイラから距離を取った。爆発しそうなほど膨れ上がった魔力と負の念にユウは息がつまりそうだった。ケイラは顔を押さえ、呻く。
「……取り返そうとしただけ。私だけの騎士を」
引き攣れたような嗚咽と共に、彼女の体にまとわりつくインクが広がり、全身に網をかける。美しかった虹の翅は闇よりも濃い漆黒へ変貌し、彼女のウェディングドレスは喪服のように黒くなる。顔を上げたケイラの頬に、黒いインクが涙のように滴った。
「私はただ! シルバーに愛されたかっただけ!!」
彼女の背後に現れたオーバーブロットの化身が、悲鳴を上げる。その悲痛な叫びに、ユウは思わず耳を塞いでしまった。まるで心臓を突き刺すようなその悲壮感に、眩暈を覚える。呆然としたセベクが呟いた。
「オーバーブロットだと……!?」
彼女の負の波動で教会の天井が崩れる。崩落した岩は眠ってしまっている騎士団や参列者たちに直下していく。リリアが魔法を展開して、一瞬で騎士団と参列者たちを自らの傍に引き寄せた。しかし、岩たちは容赦なく降り注ぎ、彼らの傍に居たユウは庇おうととっさに彼らの前に体を出した。
重い音と共に彼女の目の前で岩たちは砕かれていく。魔法で障壁を出しているその人物は、ユウの隣で両手を天に向けて広げていた。
「ツノ太郎!」
「僕の得意科目は防衛魔法。これくらいできて当然だ」
しかし、マレウスの腕に亀裂が入り、そこからわずかにブロットが溢れている。ユウが引きつれるように彼の名を呼ぶと、マレウスは薄く笑った。これしきで僕はオーバーブロットしない、と彼が言うと、ライムグリーンの瞳がユウを見下ろした。
「この者たちを守るのに今の僕では手いっぱいだ。人の子よ。あの憐れな妖精をお前はどうする?」
今この場で自分を試しているのだと、ユウは直感した。彼の問いに今答えなければきっとこの困難すらも手伝う気をなくすだろう。ユウは彼の視線に屈することなく、ありのままを告げた。
「……ケイラさんを生かして、私とシルバー先輩に謝らせる!」
救うではなく、あくまで自らの望みを果たすための生け捕りを望んだ彼女の純粋で身勝手な願いを聞き届けたマレウスは、口を大きく開けて笑った。マレウスの友人たるもの、そう来なくては面白くない。
「いいだろう。リリア! 臣下たちの防衛は僕に任せて、ミゼラブルを生け捕りにしろ」
マレウスの指示を聞いたリリアはやれやれと苦笑し、肩を竦めた。落下してくる岩たちを避けながら、彼は叫んだ。
「ユウ! マレウスの防御壁の中なら安心じゃ。あの娘の命が尽きる前に煽れ!」
精神的な揺さぶりをかけて、隙ができたところを狙う作戦だと気づいたユウは、縦横無尽に駆け回るセベクやシルバー、リリアの様子を探りながら、発破をかけた。
「ケイラさん! 良くも私の先輩にちょっかいを出しましたね! 絶対に許しません!」
うるさい! うるさい! と頭を振ったケイラと同調するように、オーバーブロットの化身が広げた鱗粉で辺りを爆発させる。
「貴方は、なぜ私から横取りするの?! たかが人間風情が!」
怒った彼女の右腕が薙ぎ払うと、化身も右腕を薙ぎ払う。化身の右腕に乗ろうにも足元にインクが絡みついてくるので、リリアもセベクも避けた。シルバーは自身に向かって伸ばされるインクを斬り、ひたすら逃げ回ることで彼女の隙を今かと伺っている。
ユウはケイラの物言いに苛立ちを覚え、握りこぶしを作る。ギラギラと光った黒曜石の瞳が、怒りで苛烈に輝いた。
「……横取り? 先輩はモノじゃない! 心がある立派な人です! それなのに、貴方は薬と呪文で先輩から心を取り上げた! 貴方は先輩を好きなんかじゃない! ただ、貴方を無条件で愛してくれる都合のいい人形が欲しかっただけ!」
「うるさいうるさいうるさい!!!」
両手で耳を塞いだケイラを守るように、オーバーブロットの化身は甲高い悲鳴を上げる。その雄たけびの衝撃波でシルバーもリリアもセベクも壁に叩きつけられた。ケイラの頬をとめどなく黒いインクが伝う。
「ただの人形に、私だってしたくなかった! でも、貴方が邪魔なの! 貴方が……っ貴方が私からシルバーを奪うから悪いのよ!」
ケイラの翅が纏うインクの粒子が凝集し一つの槍となって、その切っ先をユウに向ける。
「返して! 私だけの騎士を!」
悲痛な叫びと共にユウに放たれたブロットの槍は、マレウスの幾重にも張り巡らせた防御壁にひびを入れては一枚ずつ割る。その槍をどうにかして食い止めようと、マレウスも魔力を集中させた。マレウスの魔力で、彼の袖が弾ける。あまりの攻撃力に彼の足元が地面に食い込んだ。
「若様に触れさせるものかー!」
セベクが放った緑の雷は、ケイラの翅の一部に当たり、槍の力を半減させた。わずかにマレウスが魔力で優勢になったその隙をついて、シルバーが拘束魔法をケイラに幾重にもかける。
「こっちじゃ! ミゼラブルの小娘!」
彼女が振り返った先で、重力の塊のようなリリアの魔法が放たれた。リリアの魔法がケイラのブロットとまじりあい、そこにすさまじいエネルギーが生まれる。激しい熱と爆風でユウは踏ん張り切れず、瓦礫に叩きつけられた。その時、彼女の脳裏に情景と思いが流れ込んできた。
とっさに対応できたのは魔法の防御壁を張っていたマレウスとリリア、袖で呼吸器を覆ったセベクとシルバー、ユウの五人だけだった。拘束を外されたケイラは、血走った目でシルバーの腕の中で立っているユウを睨んだ。整った髪を両手でかき乱し、錯乱した様子の彼女は叫んだ。
「あああああ! ふざけないで! 何で貴方ばかり恵まれるの! 私はただ」
彼女の体から黒い粘液状のものが溢れ出てくる。そのどろどろとしたものに本能的に触れてはいけないと悟った五人は、ケイラから距離を取った。爆発しそうなほど膨れ上がった魔力と負の念にユウは息がつまりそうだった。ケイラは顔を押さえ、呻く。
「……取り返そうとしただけ。私だけの騎士を」
引き攣れたような嗚咽と共に、彼女の体にまとわりつくインクが広がり、全身に網をかける。美しかった虹の翅は闇よりも濃い漆黒へ変貌し、彼女のウェディングドレスは喪服のように黒くなる。顔を上げたケイラの頬に、黒いインクが涙のように滴った。
「私はただ! シルバーに愛されたかっただけ!!」
彼女の背後に現れたオーバーブロットの化身が、悲鳴を上げる。その悲痛な叫びに、ユウは思わず耳を塞いでしまった。まるで心臓を突き刺すようなその悲壮感に、眩暈を覚える。呆然としたセベクが呟いた。
「オーバーブロットだと……!?」
彼女の負の波動で教会の天井が崩れる。崩落した岩は眠ってしまっている騎士団や参列者たちに直下していく。リリアが魔法を展開して、一瞬で騎士団と参列者たちを自らの傍に引き寄せた。しかし、岩たちは容赦なく降り注ぎ、彼らの傍に居たユウは庇おうととっさに彼らの前に体を出した。
重い音と共に彼女の目の前で岩たちは砕かれていく。魔法で障壁を出しているその人物は、ユウの隣で両手を天に向けて広げていた。
「ツノ太郎!」
「僕の得意科目は防衛魔法。これくらいできて当然だ」
しかし、マレウスの腕に亀裂が入り、そこからわずかにブロットが溢れている。ユウが引きつれるように彼の名を呼ぶと、マレウスは薄く笑った。これしきで僕はオーバーブロットしない、と彼が言うと、ライムグリーンの瞳がユウを見下ろした。
「この者たちを守るのに今の僕では手いっぱいだ。人の子よ。あの憐れな妖精をお前はどうする?」
今この場で自分を試しているのだと、ユウは直感した。彼の問いに今答えなければきっとこの困難すらも手伝う気をなくすだろう。ユウは彼の視線に屈することなく、ありのままを告げた。
「……ケイラさんを生かして、私とシルバー先輩に謝らせる!」
救うではなく、あくまで自らの望みを果たすための生け捕りを望んだ彼女の純粋で身勝手な願いを聞き届けたマレウスは、口を大きく開けて笑った。マレウスの友人たるもの、そう来なくては面白くない。
「いいだろう。リリア! 臣下たちの防衛は僕に任せて、ミゼラブルを生け捕りにしろ」
マレウスの指示を聞いたリリアはやれやれと苦笑し、肩を竦めた。落下してくる岩たちを避けながら、彼は叫んだ。
「ユウ! マレウスの防御壁の中なら安心じゃ。あの娘の命が尽きる前に煽れ!」
精神的な揺さぶりをかけて、隙ができたところを狙う作戦だと気づいたユウは、縦横無尽に駆け回るセベクやシルバー、リリアの様子を探りながら、発破をかけた。
「ケイラさん! 良くも私の先輩にちょっかいを出しましたね! 絶対に許しません!」
うるさい! うるさい! と頭を振ったケイラと同調するように、オーバーブロットの化身が広げた鱗粉で辺りを爆発させる。
「貴方は、なぜ私から横取りするの?! たかが人間風情が!」
怒った彼女の右腕が薙ぎ払うと、化身も右腕を薙ぎ払う。化身の右腕に乗ろうにも足元にインクが絡みついてくるので、リリアもセベクも避けた。シルバーは自身に向かって伸ばされるインクを斬り、ひたすら逃げ回ることで彼女の隙を今かと伺っている。
ユウはケイラの物言いに苛立ちを覚え、握りこぶしを作る。ギラギラと光った黒曜石の瞳が、怒りで苛烈に輝いた。
「……横取り? 先輩はモノじゃない! 心がある立派な人です! それなのに、貴方は薬と呪文で先輩から心を取り上げた! 貴方は先輩を好きなんかじゃない! ただ、貴方を無条件で愛してくれる都合のいい人形が欲しかっただけ!」
「うるさいうるさいうるさい!!!」
両手で耳を塞いだケイラを守るように、オーバーブロットの化身は甲高い悲鳴を上げる。その雄たけびの衝撃波でシルバーもリリアもセベクも壁に叩きつけられた。ケイラの頬をとめどなく黒いインクが伝う。
「ただの人形に、私だってしたくなかった! でも、貴方が邪魔なの! 貴方が……っ貴方が私からシルバーを奪うから悪いのよ!」
ケイラの翅が纏うインクの粒子が凝集し一つの槍となって、その切っ先をユウに向ける。
「返して! 私だけの騎士を!」
悲痛な叫びと共にユウに放たれたブロットの槍は、マレウスの幾重にも張り巡らせた防御壁にひびを入れては一枚ずつ割る。その槍をどうにかして食い止めようと、マレウスも魔力を集中させた。マレウスの魔力で、彼の袖が弾ける。あまりの攻撃力に彼の足元が地面に食い込んだ。
「若様に触れさせるものかー!」
セベクが放った緑の雷は、ケイラの翅の一部に当たり、槍の力を半減させた。わずかにマレウスが魔力で優勢になったその隙をついて、シルバーが拘束魔法をケイラに幾重にもかける。
「こっちじゃ! ミゼラブルの小娘!」
彼女が振り返った先で、重力の塊のようなリリアの魔法が放たれた。リリアの魔法がケイラのブロットとまじりあい、そこにすさまじいエネルギーが生まれる。激しい熱と爆風でユウは踏ん張り切れず、瓦礫に叩きつけられた。その時、彼女の脳裏に情景と思いが流れ込んできた。