彼は貴方のものじゃない
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荘厳なオルガンが天の恵みを表現する。彼らの間に入るように立つ神父が言った。
「まずはそれぞれの血を持つ汝らの父より祝杯を」
ケイラ、シルバーはそれぞれ父親から杯を持たされ、それを飲む。それは両親が彼らの婚姻を祝福する証だ。リリアがこうした儀式に逆らえない性格であることは父の情報でよく分かっているので、ケイラは面白いくらいに盤上が動いていくのをただ眺めているだけでよかった。
「汝、病めるときも健やかなるときも、互いの伴侶を愛すと誓いますか?」
「誓います」
そう固く誓った彼女の隣で眠りそうになっているシルバーは、彼女に促されて頷いた。
「……誓います」
「ならば、誓いの口づけを」
そう神父が唱えた時だった。二人の間に目が眩むばかりの緑の魔力の光が溢れた。頭上には魔法陣が現れ、そこから声がする。その声はその場にいる誰もが予想だにしなかった人物だった。
栗色のくせっ毛が宙で揺れ、牢で薄汚れた衣服のまま、忌々しいほどに希望の光を失わない黒曜石の瞳が煌いた。
「ちょっと待ったぁ!」
ちょうど着地点にいるシルバーに向かって、ユウは手を伸ばした。その動きは間違いなく、受け止めてくれると信じている行為だ。
「シルバー先輩!」
どん! という重い音と共に木の屑が宙を舞った。そこから現れたのは、無表情のまま彼女を抱き上げるように受け止めているシルバーと泣きながら彼に抱きついているユウだった。
「先輩……元に戻ってください」
涙ながらに懇願したユウは、目を閉じシルバーと額を合わせた。シルバーもそれにならって、目を閉じて彼女の額と擦り合わせる。まるで意識すら共有し合おうとする二人の姿に、ケイラはぎりぎりと拳を握り、懐に忍ばせていたマジカルペンをユウに向けた。
「邪魔しないで……!」
ユウに向けてフレイムブラストを放つが、突如現れたアクアウェーブの壁がそれを弾く。親族席にいたリリアが同じくマジカルペンをユウたちよりも少し前に向けていた。
「わしの目の前で、あの子らを攻撃するとは良い度胸じゃ」
剣呑に煌いたマゼンタにひやりとしたものがケイラのうなじを滑っていく。彼女は急いで傀儡であるシルバーに命令した。
「シルバー! そんな娘を下ろして私を守りなさい! ……シルバー?」
シルバーはゆっくりと目を開け、ユウを見ると微笑む。ケイラには決して注がれなかった暖かな瞳に、ユウは映っていた。彼女をゆっくりと地面に下ろしたシルバーは、腰にある警棒を抜く。
「……言い忘れていました」
そのままシルバーはケイラに向かって警棒の切っ先を突きつけた。真っ直ぐ彼女を射抜く視線は、敵意に満ちていた。
「俺はユウの恋人です。ケイラ様」
「……そんな」
呆然としたのも束の間、ケイラは魔力をこめた宝石をばらまき、そこにマジカルペンで魔力を流し魔法陣を描く。地響きが起こり、ガラガラと式場の教会が崩れ始めた。
「もういいわ。何もかも埋めてしまえばいいのよ」
あはは! と笑いだしたケイラの起こす魔法を止めようにも時間も人手も足りない。シルバーはせめてユウだけでも無事に逃がそうと警棒を構えた。
しかし、その地響きもすぐ止んだ。なぜ!? と慌てるケイラの魔法は徐々に小さくなっていく。その時、教会の扉が大きな音を立てて開かれた。
「騎士団だ! ケイラ・ミゼラブル、魔法の発動をやめろ!」
セベクの声とともに入ってきた騎士たちが参列者を保護するようにヴァージンロードの端に並んだ。かつ、こつ、とヒールのなる音が教会の石壁に荘厳に響き渡る。騎士団が道を作った先にいる大きな角の持ち主は、右手を上げてケイラの魔法を打ち消していた。
「こんな祝い事に僕を呼ばないとは、遺憾だ。ミゼラブル」
にやりと笑ったマレウスに、本能的にその場にいたほとんどの人物が膝をついた。ケイラですらこめかみに冷汗を浮かべながら、ひざまづいている。からからに乾いた喉で、彼女はかろうじて言葉を発した。
「ど、ドラコニア様……」
「お祖母様の治める土地で、勝手な真似は僕が許さない」
マレウスの指一本で彼女は魔法により束縛され、それを見た騎士団の男たちによってあっという間に捕らえられた。両腕を背中に回されたケイラは、唇をわなわなと震わせる。
「なんで……なんで記憶を失っていないの!?」
マレウスがくつくつと喉で笑うと、何もわかっていないケイラの前まで歩み寄る。セベクが危険ですと離れるよう言うが、追いつめた獲物を眺めるマレウスは構わなかった。
「簡単な話だ。お前が贈ったというマフィンを食して、シルバーの様子がおかしくなった。そこで魔法解析学に長けている僕の従者に、お前がシルバーに食べさせたものを解析させた。その結果、催眠効果のある薬物と惚れ薬と同等の効果を持った呪文がかけられていることが分かった」
とても誇らしげなセベクは胸を張り、どうだと頬を紅潮させる。にっこりと笑っているマレウスの背後からリリアが脅かすように現れ、ケイラの肩は一瞬跳ねた。くすくすと笑っている彼の目の奥には一切の温もりがなかった。
「わしらはお主の手に乗り、あえてユウを孤立させた。その方があやつに及ぶ危険も少なかろう。そして、シルバーが口にした誓いの杯にお主が加えた薬物と呪文を解除する薬とまじないを加えた。なに赤子の手をひねるより容易い。シルバーもこうして意識を取り戻せた」
嬉しそうに笑うリリアの言っていることは、並大抵のことではない。薬物と呪文でかける洗脳をケイラが思いついてから完成させるまで五年かかった。それを解除する薬も呪文もひと月足らずで完成させたことは到底信じられない。
「嘘でしょ……。そんなの、ありえない」
口を開けたまま放心するケイラに、リリアの瞳が獰猛な深紅へ変貌し煌く。その一瞬だけで気絶する参列者が現れるほどの凄絶な怒りが彼の小柄な体躯に立ち上った。
「あまりわしらを見くびるな、ミゼラブルの小娘。わしの息子に偽りの恋をさせようと薬を盛り、小賢しい策でユウを侮辱したこと断じて許せん。この企て、邪魔させてもらうぞ」
リリアのその言葉に、ケイラはうなだれ沈黙した。マレウスとリリアを下がらせた騎士団長がケイラの傍へ近寄る。
「ミゼラブル様、どうか我々とご同行願いたい」
「まずはそれぞれの血を持つ汝らの父より祝杯を」
ケイラ、シルバーはそれぞれ父親から杯を持たされ、それを飲む。それは両親が彼らの婚姻を祝福する証だ。リリアがこうした儀式に逆らえない性格であることは父の情報でよく分かっているので、ケイラは面白いくらいに盤上が動いていくのをただ眺めているだけでよかった。
「汝、病めるときも健やかなるときも、互いの伴侶を愛すと誓いますか?」
「誓います」
そう固く誓った彼女の隣で眠りそうになっているシルバーは、彼女に促されて頷いた。
「……誓います」
「ならば、誓いの口づけを」
そう神父が唱えた時だった。二人の間に目が眩むばかりの緑の魔力の光が溢れた。頭上には魔法陣が現れ、そこから声がする。その声はその場にいる誰もが予想だにしなかった人物だった。
栗色のくせっ毛が宙で揺れ、牢で薄汚れた衣服のまま、忌々しいほどに希望の光を失わない黒曜石の瞳が煌いた。
「ちょっと待ったぁ!」
ちょうど着地点にいるシルバーに向かって、ユウは手を伸ばした。その動きは間違いなく、受け止めてくれると信じている行為だ。
「シルバー先輩!」
どん! という重い音と共に木の屑が宙を舞った。そこから現れたのは、無表情のまま彼女を抱き上げるように受け止めているシルバーと泣きながら彼に抱きついているユウだった。
「先輩……元に戻ってください」
涙ながらに懇願したユウは、目を閉じシルバーと額を合わせた。シルバーもそれにならって、目を閉じて彼女の額と擦り合わせる。まるで意識すら共有し合おうとする二人の姿に、ケイラはぎりぎりと拳を握り、懐に忍ばせていたマジカルペンをユウに向けた。
「邪魔しないで……!」
ユウに向けてフレイムブラストを放つが、突如現れたアクアウェーブの壁がそれを弾く。親族席にいたリリアが同じくマジカルペンをユウたちよりも少し前に向けていた。
「わしの目の前で、あの子らを攻撃するとは良い度胸じゃ」
剣呑に煌いたマゼンタにひやりとしたものがケイラのうなじを滑っていく。彼女は急いで傀儡であるシルバーに命令した。
「シルバー! そんな娘を下ろして私を守りなさい! ……シルバー?」
シルバーはゆっくりと目を開け、ユウを見ると微笑む。ケイラには決して注がれなかった暖かな瞳に、ユウは映っていた。彼女をゆっくりと地面に下ろしたシルバーは、腰にある警棒を抜く。
「……言い忘れていました」
そのままシルバーはケイラに向かって警棒の切っ先を突きつけた。真っ直ぐ彼女を射抜く視線は、敵意に満ちていた。
「俺はユウの恋人です。ケイラ様」
「……そんな」
呆然としたのも束の間、ケイラは魔力をこめた宝石をばらまき、そこにマジカルペンで魔力を流し魔法陣を描く。地響きが起こり、ガラガラと式場の教会が崩れ始めた。
「もういいわ。何もかも埋めてしまえばいいのよ」
あはは! と笑いだしたケイラの起こす魔法を止めようにも時間も人手も足りない。シルバーはせめてユウだけでも無事に逃がそうと警棒を構えた。
しかし、その地響きもすぐ止んだ。なぜ!? と慌てるケイラの魔法は徐々に小さくなっていく。その時、教会の扉が大きな音を立てて開かれた。
「騎士団だ! ケイラ・ミゼラブル、魔法の発動をやめろ!」
セベクの声とともに入ってきた騎士たちが参列者を保護するようにヴァージンロードの端に並んだ。かつ、こつ、とヒールのなる音が教会の石壁に荘厳に響き渡る。騎士団が道を作った先にいる大きな角の持ち主は、右手を上げてケイラの魔法を打ち消していた。
「こんな祝い事に僕を呼ばないとは、遺憾だ。ミゼラブル」
にやりと笑ったマレウスに、本能的にその場にいたほとんどの人物が膝をついた。ケイラですらこめかみに冷汗を浮かべながら、ひざまづいている。からからに乾いた喉で、彼女はかろうじて言葉を発した。
「ど、ドラコニア様……」
「お祖母様の治める土地で、勝手な真似は僕が許さない」
マレウスの指一本で彼女は魔法により束縛され、それを見た騎士団の男たちによってあっという間に捕らえられた。両腕を背中に回されたケイラは、唇をわなわなと震わせる。
「なんで……なんで記憶を失っていないの!?」
マレウスがくつくつと喉で笑うと、何もわかっていないケイラの前まで歩み寄る。セベクが危険ですと離れるよう言うが、追いつめた獲物を眺めるマレウスは構わなかった。
「簡単な話だ。お前が贈ったというマフィンを食して、シルバーの様子がおかしくなった。そこで魔法解析学に長けている僕の従者に、お前がシルバーに食べさせたものを解析させた。その結果、催眠効果のある薬物と惚れ薬と同等の効果を持った呪文がかけられていることが分かった」
とても誇らしげなセベクは胸を張り、どうだと頬を紅潮させる。にっこりと笑っているマレウスの背後からリリアが脅かすように現れ、ケイラの肩は一瞬跳ねた。くすくすと笑っている彼の目の奥には一切の温もりがなかった。
「わしらはお主の手に乗り、あえてユウを孤立させた。その方があやつに及ぶ危険も少なかろう。そして、シルバーが口にした誓いの杯にお主が加えた薬物と呪文を解除する薬とまじないを加えた。なに赤子の手をひねるより容易い。シルバーもこうして意識を取り戻せた」
嬉しそうに笑うリリアの言っていることは、並大抵のことではない。薬物と呪文でかける洗脳をケイラが思いついてから完成させるまで五年かかった。それを解除する薬も呪文もひと月足らずで完成させたことは到底信じられない。
「嘘でしょ……。そんなの、ありえない」
口を開けたまま放心するケイラに、リリアの瞳が獰猛な深紅へ変貌し煌く。その一瞬だけで気絶する参列者が現れるほどの凄絶な怒りが彼の小柄な体躯に立ち上った。
「あまりわしらを見くびるな、ミゼラブルの小娘。わしの息子に偽りの恋をさせようと薬を盛り、小賢しい策でユウを侮辱したこと断じて許せん。この企て、邪魔させてもらうぞ」
リリアのその言葉に、ケイラはうなだれ沈黙した。マレウスとリリアを下がらせた騎士団長がケイラの傍へ近寄る。
「ミゼラブル様、どうか我々とご同行願いたい」