後編
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闇の鏡が送り届けてくれた場所は山のふもとで、ジェイドが根城にしている洞窟は登山をして三時間といったところだ。途中で休憩をはさみながらも、一行は遠足について話したり、道中で見かける花や草木の話をしていた。
前日が雨だったせいか足元は悪く、ぬかるんでいて、特に体力育成もそこそこで魔法も使えないユウが最も体力を奪われていた。ジャックやエペルが手を貸そうとするが、ユウは固辞した。こんなところで足を引っ張りたくなかったので。
ようやくついた洞窟ではまず焚火を起こした。雨が降り始めていたので、体を冷やすのは危ないと言う山を愛する会会長からの指示だった。枝や松の葉を拾い集め、ファイアショットで火をつければ完成だ。座って休憩をし始めた一行のうち、真っ先に舟をこいでいたのはシルバーだった。
ユウは前日の準備と宿題が重なり寝不足であったのと、今回の登山で大分体力を削られたことで限界に近かった。カリムやフロイドが踊りながら歌を歌っているのをジャミルやジェイドが眺めている。ラギーは手拍子ではやし立てている。アズールはリドルに何やら契約しようと話しかけているらしい。ジャックとエペル、セベクも踊りに見とれながら、その空気感を楽しんでいた。
だから、ユウはほんのちょっとだけ寝てもばれないと思っていた。セベク以外誰も自分たちが恋仲だとは知らない。ちょっとくっついて寝たぐらい、真実を知らなければ後輩と先輩の寝落ち姿だ。岩壁に凭れかかって寝ている彼にくっついてみれば、シルバーと焚火の暖かさで瞼がどんどん落ちていく。気が付けば彼女は意識を手放していた。
そして彼女が眠りについたころ、踊りに飽きたフロイドがそれを見た瞬間、にやりと口角を上げた。
「小エビちゃん寝ちゃったぁ。ちょっかい出してやろ」
足音を立てないよう慎重に近づくフロイドだが、それはシルバーを警戒してではなかった。シルバーは普段から眠気に抗えないところがあるため、強く揺らしても起きない時もある。むしろ、気配に敏感なユウを起こさせないため、そして驚かして起こした時の反応を見たくてフロイドは気配すら消そうとしていた。
眠っている二人に近づくフロイドを見たリドルは眉をひそめた。
「フロイド、よしたらどうだい。人の眠りを妨げるものじゃないよ」
それでも制止を聞かず、フロイドは近づいていく。シルバーもユウも瞼を閉じたまま、互いに凭れかかったままだ。カリムの歌は途切れずジャミルも踊り始めているので、リドル以外誰もフロイドのしようとすることに気づかなかった。
「いいじゃん。クラゲちゃんも寝てるし、起きた小エビちゃんおもしれえって」
そう言ってフロイドがユウに手を伸ばす。リドルはマジカルペンでユニーク魔法を発動させようとしたが、バッグの中にペンが入っていることに気が付いた時には遅かった。間に合わない、とリドルが背後にいたアズールを呼ぼうとした瞬間だった。
一瞬で踊りと歌に満ちていた賑やかな洞窟内は、ジャミルが思わずカリムを庇い、ラギーが歯をむき出してしまうほどの殺気に満ちた。リドルが制止しようとしたフロイドの首元に警棒が突き付けられている。フロイドは本能で危険を察知したためとっさに後ろに下がっていたが、あのまま近づけば大きな痣が首元につけられていただろう。そしてその警棒の持ち主は、どこまでも澄んだオーロラシルバーの瞳を開いていた。
「……寝ていない」
一体いつの間に起きていたんだと言うリドルの問いは喉奥へと押し込められ、その場には緊張した空気が漂っている。フロイドはいかにも不機嫌そうに眉根を寄せた。
「なに? 俺今小エビちゃんで遊びたい気分なんだけど。邪魔しないでくんね?」
シルバーは警棒を構える腕を一寸たりとも下ろさないまま、もたれかかって寝ているユウの肩を左腕で抱えていた。焚火の炎が彼の瞳の中で揺れた。
「悪いが監督生は寝ている。起きたら相手をするよう伝えよう」
「はあ? クラゲちゃん生意気。それとも、クラゲちゃんが俺と遊んでくれんの?」
フロイドがにんまりと笑った瞬間、シルバーが今にも挑まんとばかりに闘気をみなぎらせた。
リドルはシルバーのこれほどまで冷静さを欠く態度を初めて見た。同郷であろうセベクにどうにかできないのかと視線を投げかけるが、彼は常にない困惑した顔をしていた。セベクも制止しようとは思うが、あそこまで怒っているシルバーはマレウスや育ての親であるリリアが宥めていたため、どうすればいいのか分からないのだ。
フロイドがマジカルペンを取り出し、シルバーがユウを背後に庇いながら同じく警棒を構える。まさに一触即発と思われたその時。
「フロイド、そこまでにしておきなさい」
フロイドが声のする方へ振り返ると、そこには先ほどまで契約書を眺めていたアズールがフロイドにマジカルペンを向けていた。フロイドの瞳孔が一瞬で小さくなるが、アズールはそんな凄みもお構いなしに淡々と叱りつけた。
「シルバーさんはうちでも重要な顧客。お前がそれ以上お客様の気分を害すなら、オーナーの僕が相手をしましょう」
シルバーとアズール、二人を相手にするには分が悪いと察したフロイドはマジカルペンをさっさと下ろした。舌打ちと共に彼はジェイドの傍へ行って腰を下ろす。ジェイドは不満げな兄弟と違い、珍しいものが見られたようで常にない深い笑みをたたえていた。
「あれ!? ユウ寝ちまったのか? そこじゃ冷えるぞ?」
ジャミルに庇われて倒れていたカリムは身を起こしてから、一体何が起きているのか分かっていなかった。寒さで冷えては大変だとユウを起こそうとするカリムを、ジャミルは肩を掴んで制止した。
「カリム放っておけ。あれに関わるとろくなことにならない」
「人の恋を邪魔する奴はヌーに踏まれて死んじまうって知らないんすか?」
ラギーがシシシッと笑うと、一体どういうことなんだ? とカリムが大声で周囲に聞いて回る。やっと賑やかさがもどってきたところで、シルバーが再び口を開いた。
「悪いが、静かにしてくれないか。監督生が起きる」
水を打ったように静かになったその場は、明らかにシルバーがユウに並々ならぬ好意を抱いていることに気が付き始めた。エペルが男らしくてかっこいい! と目を輝かせている隣で、ジャックが首を傾げた。
「つーか、ユウは何でシルバー先輩の隣にいるんだ? 寝るならもっと場所はあるだろ」
ラギーがジャックに向かって、意味ありげな笑みを向ける。どうやら彼は事の一部始終からそのことに気が付いているらしかった。
「ジャックくん、それくらい察してやらねーとだめっすよ? あの二人は」
その続きを言おうとした瞬間、セベクがこれまでに聞いたこともないような声量で大声を出した。岩肌がビリビリと震えるほどのそれにラギーやジャックは眩暈がし、その場にいた他の生徒も耳を塞いだ。そして、シルバーの肩で安らぎを得ていたユウもその重い瞼をうっすらと開けた。
「え? なに? 敵襲?」
ユウはぶつぶつと言いながら、武器……武器……と手を地面に這わせている。どこか上の空な彼女に、シルバーが普段の落ち着いた声で大丈夫だと囁いた。
「あれはセベクの声だ」
「そっか……くぅ」
ユウはそのまま二度寝をした。しかも、今度はシルバーの膝に頭を乗せて、小動物が甘えるように頬をこすりつけた。それを嫌がる様子もなく、シルバーは膝に乗せられたその頭を愛おしそうに撫でる。
さすがの光景に一同は二人の関係に気づかざるを得なかった。
大声で叫ばれたことに怒り狂いそうだったラギーが思わずこめかみに汗をかいてユウの神経のずぶとさに感心し、リドルが似た者同士だとユウとシルバーに嘆息する。本当に二人は仲がいいな! 羨ましいぜ! と笑顔を浮かべるカリムの的外れな言葉に、こんな距離感の壊れた友情は存在しないとジャミルが呆れて目を細めた。
おやおやと面白いものを見たオクタヴィネル寮一行はユウとシルバーの面白い関係にどうやって茶々を入れては契約を結んでもらおうか考えているようだ。
ジャックとエペルは恋愛について年相応の恥じらいを抱えているらしく、二人を直視できない。そして唯一怒りにも似た目をユウに向けているセベクを煽ろうと、ジェイドは言った。
「セベクくんが邪魔しなくても、分かってしまいましたね」
「せっかく僕が気を使ってやったというのに! お前という奴は!」
そんなセベクの声もむなしく、幸せそうにユウはシルバーの膝の上で寝息を立てていた。
前日が雨だったせいか足元は悪く、ぬかるんでいて、特に体力育成もそこそこで魔法も使えないユウが最も体力を奪われていた。ジャックやエペルが手を貸そうとするが、ユウは固辞した。こんなところで足を引っ張りたくなかったので。
ようやくついた洞窟ではまず焚火を起こした。雨が降り始めていたので、体を冷やすのは危ないと言う山を愛する会会長からの指示だった。枝や松の葉を拾い集め、ファイアショットで火をつければ完成だ。座って休憩をし始めた一行のうち、真っ先に舟をこいでいたのはシルバーだった。
ユウは前日の準備と宿題が重なり寝不足であったのと、今回の登山で大分体力を削られたことで限界に近かった。カリムやフロイドが踊りながら歌を歌っているのをジャミルやジェイドが眺めている。ラギーは手拍子ではやし立てている。アズールはリドルに何やら契約しようと話しかけているらしい。ジャックとエペル、セベクも踊りに見とれながら、その空気感を楽しんでいた。
だから、ユウはほんのちょっとだけ寝てもばれないと思っていた。セベク以外誰も自分たちが恋仲だとは知らない。ちょっとくっついて寝たぐらい、真実を知らなければ後輩と先輩の寝落ち姿だ。岩壁に凭れかかって寝ている彼にくっついてみれば、シルバーと焚火の暖かさで瞼がどんどん落ちていく。気が付けば彼女は意識を手放していた。
そして彼女が眠りについたころ、踊りに飽きたフロイドがそれを見た瞬間、にやりと口角を上げた。
「小エビちゃん寝ちゃったぁ。ちょっかい出してやろ」
足音を立てないよう慎重に近づくフロイドだが、それはシルバーを警戒してではなかった。シルバーは普段から眠気に抗えないところがあるため、強く揺らしても起きない時もある。むしろ、気配に敏感なユウを起こさせないため、そして驚かして起こした時の反応を見たくてフロイドは気配すら消そうとしていた。
眠っている二人に近づくフロイドを見たリドルは眉をひそめた。
「フロイド、よしたらどうだい。人の眠りを妨げるものじゃないよ」
それでも制止を聞かず、フロイドは近づいていく。シルバーもユウも瞼を閉じたまま、互いに凭れかかったままだ。カリムの歌は途切れずジャミルも踊り始めているので、リドル以外誰もフロイドのしようとすることに気づかなかった。
「いいじゃん。クラゲちゃんも寝てるし、起きた小エビちゃんおもしれえって」
そう言ってフロイドがユウに手を伸ばす。リドルはマジカルペンでユニーク魔法を発動させようとしたが、バッグの中にペンが入っていることに気が付いた時には遅かった。間に合わない、とリドルが背後にいたアズールを呼ぼうとした瞬間だった。
一瞬で踊りと歌に満ちていた賑やかな洞窟内は、ジャミルが思わずカリムを庇い、ラギーが歯をむき出してしまうほどの殺気に満ちた。リドルが制止しようとしたフロイドの首元に警棒が突き付けられている。フロイドは本能で危険を察知したためとっさに後ろに下がっていたが、あのまま近づけば大きな痣が首元につけられていただろう。そしてその警棒の持ち主は、どこまでも澄んだオーロラシルバーの瞳を開いていた。
「……寝ていない」
一体いつの間に起きていたんだと言うリドルの問いは喉奥へと押し込められ、その場には緊張した空気が漂っている。フロイドはいかにも不機嫌そうに眉根を寄せた。
「なに? 俺今小エビちゃんで遊びたい気分なんだけど。邪魔しないでくんね?」
シルバーは警棒を構える腕を一寸たりとも下ろさないまま、もたれかかって寝ているユウの肩を左腕で抱えていた。焚火の炎が彼の瞳の中で揺れた。
「悪いが監督生は寝ている。起きたら相手をするよう伝えよう」
「はあ? クラゲちゃん生意気。それとも、クラゲちゃんが俺と遊んでくれんの?」
フロイドがにんまりと笑った瞬間、シルバーが今にも挑まんとばかりに闘気をみなぎらせた。
リドルはシルバーのこれほどまで冷静さを欠く態度を初めて見た。同郷であろうセベクにどうにかできないのかと視線を投げかけるが、彼は常にない困惑した顔をしていた。セベクも制止しようとは思うが、あそこまで怒っているシルバーはマレウスや育ての親であるリリアが宥めていたため、どうすればいいのか分からないのだ。
フロイドがマジカルペンを取り出し、シルバーがユウを背後に庇いながら同じく警棒を構える。まさに一触即発と思われたその時。
「フロイド、そこまでにしておきなさい」
フロイドが声のする方へ振り返ると、そこには先ほどまで契約書を眺めていたアズールがフロイドにマジカルペンを向けていた。フロイドの瞳孔が一瞬で小さくなるが、アズールはそんな凄みもお構いなしに淡々と叱りつけた。
「シルバーさんはうちでも重要な顧客。お前がそれ以上お客様の気分を害すなら、オーナーの僕が相手をしましょう」
シルバーとアズール、二人を相手にするには分が悪いと察したフロイドはマジカルペンをさっさと下ろした。舌打ちと共に彼はジェイドの傍へ行って腰を下ろす。ジェイドは不満げな兄弟と違い、珍しいものが見られたようで常にない深い笑みをたたえていた。
「あれ!? ユウ寝ちまったのか? そこじゃ冷えるぞ?」
ジャミルに庇われて倒れていたカリムは身を起こしてから、一体何が起きているのか分かっていなかった。寒さで冷えては大変だとユウを起こそうとするカリムを、ジャミルは肩を掴んで制止した。
「カリム放っておけ。あれに関わるとろくなことにならない」
「人の恋を邪魔する奴はヌーに踏まれて死んじまうって知らないんすか?」
ラギーがシシシッと笑うと、一体どういうことなんだ? とカリムが大声で周囲に聞いて回る。やっと賑やかさがもどってきたところで、シルバーが再び口を開いた。
「悪いが、静かにしてくれないか。監督生が起きる」
水を打ったように静かになったその場は、明らかにシルバーがユウに並々ならぬ好意を抱いていることに気が付き始めた。エペルが男らしくてかっこいい! と目を輝かせている隣で、ジャックが首を傾げた。
「つーか、ユウは何でシルバー先輩の隣にいるんだ? 寝るならもっと場所はあるだろ」
ラギーがジャックに向かって、意味ありげな笑みを向ける。どうやら彼は事の一部始終からそのことに気が付いているらしかった。
「ジャックくん、それくらい察してやらねーとだめっすよ? あの二人は」
その続きを言おうとした瞬間、セベクがこれまでに聞いたこともないような声量で大声を出した。岩肌がビリビリと震えるほどのそれにラギーやジャックは眩暈がし、その場にいた他の生徒も耳を塞いだ。そして、シルバーの肩で安らぎを得ていたユウもその重い瞼をうっすらと開けた。
「え? なに? 敵襲?」
ユウはぶつぶつと言いながら、武器……武器……と手を地面に這わせている。どこか上の空な彼女に、シルバーが普段の落ち着いた声で大丈夫だと囁いた。
「あれはセベクの声だ」
「そっか……くぅ」
ユウはそのまま二度寝をした。しかも、今度はシルバーの膝に頭を乗せて、小動物が甘えるように頬をこすりつけた。それを嫌がる様子もなく、シルバーは膝に乗せられたその頭を愛おしそうに撫でる。
さすがの光景に一同は二人の関係に気づかざるを得なかった。
大声で叫ばれたことに怒り狂いそうだったラギーが思わずこめかみに汗をかいてユウの神経のずぶとさに感心し、リドルが似た者同士だとユウとシルバーに嘆息する。本当に二人は仲がいいな! 羨ましいぜ! と笑顔を浮かべるカリムの的外れな言葉に、こんな距離感の壊れた友情は存在しないとジャミルが呆れて目を細めた。
おやおやと面白いものを見たオクタヴィネル寮一行はユウとシルバーの面白い関係にどうやって茶々を入れては契約を結んでもらおうか考えているようだ。
ジャックとエペルは恋愛について年相応の恥じらいを抱えているらしく、二人を直視できない。そして唯一怒りにも似た目をユウに向けているセベクを煽ろうと、ジェイドは言った。
「セベクくんが邪魔しなくても、分かってしまいましたね」
「せっかく僕が気を使ってやったというのに! お前という奴は!」
そんなセベクの声もむなしく、幸せそうにユウはシルバーの膝の上で寝息を立てていた。