中編
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正午が過ぎてようやく洞窟に帰ってきた一行は雨に濡れないよう魔法を使いながら、リュックに山菜やキノコを詰めていた。特にラギーははちきれんばかりに膨らんだリュックをこれ見よがしに自慢してくるので、ユウはただ感心することしかできなかった。おそらく午後だけであれほど取れるとは思わないが、ラギーの次くらいなら狙いたいと意気込む。
「なぁ腹減ったー!」
カリムの大きな一言でそれもそうだなと同意の声があちこちで上がる。それぞれに持ち寄ってきた弁当が出てくるので、ユウも弁当を取り出した。
「ねえねえ! 皆の弁当紹介しようよ~」
「お! それいいな!」
得意科目:音楽のコンビが弁当の中身についてそれぞれ紹介しようと言い出すと、これはまた賑やかになった。それはタコ焼きの詰め合わせだったり、りんごの飾り切りが大層美しいものだったり、ほぼ野草でできているにもかかわらず舌なめずりしたくなるほど美味しそうなものがあったりと様々だ。豪華な食事が一同の前に出てきた時はさすがに場違いとフロイドはカリムに言ったが、皆で食うものだから手を付けてくれて構わないと言うと、真っ先にラギーが食いついた。一方のアズールは完ぺきなカロリー計算ですと自らの弁当を見せつけ、ジェイドが忘れていますよとから揚げを入れると慌てていた。
「ユウの弁当はどんなものなんだ?」
屈託なくカリムに言われ、ユウは今までの豪華絢爛なものから整った弁当を見てしまい気が引けていた。見せるほどのものでもないと遠慮するが、見せてきたんだからお前も見せろと言う同調圧力に押され仕方なく蓋を開けた。
「なんだ? 米?」
カリムが首を傾げると、それにしては丸いな、と呟く。ユウは自分の過ごしていた国での料理だと付け加えた。
「おにぎりです。それとサムさんの購買で買った野菜ジュース」
「肉はないんすか?」
「そんな高価なものうちにはないですよ」
賢者の島は輸送費だけで物価が高くなるため、この野菜ジュースも週に一回くらいしか飲めない貴重なものだ。グリムが欲しがっているツナ缶だって、ユウの懐が涼しくなるくらいの値段はする。安いだろうと一言で割り切る人もいるが、生憎ユウの収入源は「私って優しい!」と自画自賛する学園長のポケットマネーなのだ。
リドルが顔を引きつらせてから呆れたようにため息を吐くと「僕の弁当を少し分けてあげよう」と差し出す。弁当の中身はトレイが作ったものらしく、甘いお菓子まで詰めあわされているそれにユウは目を輝かせた。
「こんな美味しそうなもの頂いていいんですか!」
「構わないよ。なにより、そんな寂しいお弁当じゃせっかくのピクニックも台無しだ」
やった! と喜びながら、いそいそとリドルのおかずを弁当の蓋の上に乗せるユウに、それぞれが弁当を突き出した。
「ジャミルの作った料理もおいしいぞ! あっはっは!」
「何を言うんですか。うちのフロイドとジェイドの作る賄は絶品です!」
「どうぞ遠慮しないでください」
「小エビちゃんのおにぎりってうめえの?」
「野草のお浸しもうまいっすよ」
突然突き出された弁当たちに目を丸くしながら、ユウはそれぞれに箸を伸ばした。
「な……なんですか。でも、おかずはあって損はないので、少しずついただきますね」
ユウのおにぎりと交換ということでおかずを受け取っていたら、ユウの弁当は全く違う食べ物が脈絡もなく並んでいる弁当へと様変わりした。おにぎりだけの弁当よりも明らかに賑やかだ。
ラギーが何やらニヤニヤしながらユウを見ている。変なものでも入っているのかとラギー特製野草のお浸しを食べたが、飛び切りのうまみが口に広がっただけで、何も起こらない。お浸しが喉を通り過ぎると、またも嫌な予感に心拍数が上がる音がした。
「ユウくん、シルバーくんにご飯恵んでもらったらどうっすか?」
「え?」
「だって、律儀にユウくんの分だけ残して待ってるっすよ」
隣を見れば、シルバーがこちらをじっと見ている。二段の弁当箱の中に詰められたものの中には、明らかに他の具材と分けて置かれている卵焼きが隅に佇んでいる。
ユウはこめかみに嫌な汗が流れるのを感じた。明らかにラギーは自分をからかっているに違いない。からかっているなら応じないのが常であるが、目の前の恋人の可愛い頼みを無下にできるほど性根はヴィランじゃない。
ユウは蚊の鳴くような声で「いただきます……」と言って、シルバーの卵焼きを受け取った。おかげでユウの弁当箱はもうしっちゃかめっちゃかだ。しかし、受け取ってもらえたシルバーの慈しむような目に、文句など微塵も沸かなかった。
「なあなあ。シルバーの弁当は美味いか?」
カリムが食い気味に聞くと、面白い匂いを嗅ぎつけたのかオクタヴィネル寮の三人がどうなんですかねえ? とこちらを見ている。ラギーもジャミルも助け舟を出す様子もなく、むしろ反応を心待ちにしているようだ。なにより、隣にいるシルバーの視線が彼女に突き刺さった。明らかにこちらの反応を心待ちにしていることくらいユウには分かる。
あまり好きだと言う感情をほのめかしたり見せつけるような真似はしたくないのだが、ユウはぐっとこらえた。これは自分の沽券にもかかわる。本当は最後まで取っておこうと思ったのだ。涙を呑んでユウは卵焼きを一口で食べきった。何度も咀嚼をし、味わう。嚥下するまでじっくりと食べているユウに、周囲の反応はなぜか待ちきれない様子だ。
「美味しいです!」
弾けそうな笑顔にカリムが良かったな! と太陽顔負けの笑顔で答える。オクタヴィネル寮の三人はおやおやと意味ありげに笑い、ジャミルとラギーはくつくつと喉で笑っている。隣で反応を窺っていたシルバーは安堵したのか、良かったとため息を漏らしている。唯一リドルと一年生たちがじっと見ているのが、ユウは気になった。
「リドル先輩も食べますか?」
「いや、僕はいいよ。それは君のためにシルバーが用意したものだからね」
やけに強く断るなぁ、とユウが首を傾げると、セベクが洞窟に響く声で𠮟責した。
「貴様! シルバーが朝から目をこすって作ったものを他人に渡すと言うのか! この恩知らずめ!」
恩知らずとまでなぜか罵られてしまった。シルバーの料理は絶品とまで行かなくても優しい味をしているのだから、ぜひみんなに知ってほしいだけなのだ。それなのに、ジャックもエペルもその通りだと首を一緒になって縦に振っている。
「ユウサン、むしろシルバーサンにご飯を毎日作ってもらったりしたらどうでしょう」
「返しになるようなもんが作れなくても、一緒に料理くらいはできるだろ。まともな食材を選んでもらえ」
なんだこの結束力は。ユウはセベクのように叫んでしまいたかったが、シルバーの料理の良さを伝える機会はまた改めようと他のおかずに手を付け始めた。
「なぁ腹減ったー!」
カリムの大きな一言でそれもそうだなと同意の声があちこちで上がる。それぞれに持ち寄ってきた弁当が出てくるので、ユウも弁当を取り出した。
「ねえねえ! 皆の弁当紹介しようよ~」
「お! それいいな!」
得意科目:音楽のコンビが弁当の中身についてそれぞれ紹介しようと言い出すと、これはまた賑やかになった。それはタコ焼きの詰め合わせだったり、りんごの飾り切りが大層美しいものだったり、ほぼ野草でできているにもかかわらず舌なめずりしたくなるほど美味しそうなものがあったりと様々だ。豪華な食事が一同の前に出てきた時はさすがに場違いとフロイドはカリムに言ったが、皆で食うものだから手を付けてくれて構わないと言うと、真っ先にラギーが食いついた。一方のアズールは完ぺきなカロリー計算ですと自らの弁当を見せつけ、ジェイドが忘れていますよとから揚げを入れると慌てていた。
「ユウの弁当はどんなものなんだ?」
屈託なくカリムに言われ、ユウは今までの豪華絢爛なものから整った弁当を見てしまい気が引けていた。見せるほどのものでもないと遠慮するが、見せてきたんだからお前も見せろと言う同調圧力に押され仕方なく蓋を開けた。
「なんだ? 米?」
カリムが首を傾げると、それにしては丸いな、と呟く。ユウは自分の過ごしていた国での料理だと付け加えた。
「おにぎりです。それとサムさんの購買で買った野菜ジュース」
「肉はないんすか?」
「そんな高価なものうちにはないですよ」
賢者の島は輸送費だけで物価が高くなるため、この野菜ジュースも週に一回くらいしか飲めない貴重なものだ。グリムが欲しがっているツナ缶だって、ユウの懐が涼しくなるくらいの値段はする。安いだろうと一言で割り切る人もいるが、生憎ユウの収入源は「私って優しい!」と自画自賛する学園長のポケットマネーなのだ。
リドルが顔を引きつらせてから呆れたようにため息を吐くと「僕の弁当を少し分けてあげよう」と差し出す。弁当の中身はトレイが作ったものらしく、甘いお菓子まで詰めあわされているそれにユウは目を輝かせた。
「こんな美味しそうなもの頂いていいんですか!」
「構わないよ。なにより、そんな寂しいお弁当じゃせっかくのピクニックも台無しだ」
やった! と喜びながら、いそいそとリドルのおかずを弁当の蓋の上に乗せるユウに、それぞれが弁当を突き出した。
「ジャミルの作った料理もおいしいぞ! あっはっは!」
「何を言うんですか。うちのフロイドとジェイドの作る賄は絶品です!」
「どうぞ遠慮しないでください」
「小エビちゃんのおにぎりってうめえの?」
「野草のお浸しもうまいっすよ」
突然突き出された弁当たちに目を丸くしながら、ユウはそれぞれに箸を伸ばした。
「な……なんですか。でも、おかずはあって損はないので、少しずついただきますね」
ユウのおにぎりと交換ということでおかずを受け取っていたら、ユウの弁当は全く違う食べ物が脈絡もなく並んでいる弁当へと様変わりした。おにぎりだけの弁当よりも明らかに賑やかだ。
ラギーが何やらニヤニヤしながらユウを見ている。変なものでも入っているのかとラギー特製野草のお浸しを食べたが、飛び切りのうまみが口に広がっただけで、何も起こらない。お浸しが喉を通り過ぎると、またも嫌な予感に心拍数が上がる音がした。
「ユウくん、シルバーくんにご飯恵んでもらったらどうっすか?」
「え?」
「だって、律儀にユウくんの分だけ残して待ってるっすよ」
隣を見れば、シルバーがこちらをじっと見ている。二段の弁当箱の中に詰められたものの中には、明らかに他の具材と分けて置かれている卵焼きが隅に佇んでいる。
ユウはこめかみに嫌な汗が流れるのを感じた。明らかにラギーは自分をからかっているに違いない。からかっているなら応じないのが常であるが、目の前の恋人の可愛い頼みを無下にできるほど性根はヴィランじゃない。
ユウは蚊の鳴くような声で「いただきます……」と言って、シルバーの卵焼きを受け取った。おかげでユウの弁当箱はもうしっちゃかめっちゃかだ。しかし、受け取ってもらえたシルバーの慈しむような目に、文句など微塵も沸かなかった。
「なあなあ。シルバーの弁当は美味いか?」
カリムが食い気味に聞くと、面白い匂いを嗅ぎつけたのかオクタヴィネル寮の三人がどうなんですかねえ? とこちらを見ている。ラギーもジャミルも助け舟を出す様子もなく、むしろ反応を心待ちにしているようだ。なにより、隣にいるシルバーの視線が彼女に突き刺さった。明らかにこちらの反応を心待ちにしていることくらいユウには分かる。
あまり好きだと言う感情をほのめかしたり見せつけるような真似はしたくないのだが、ユウはぐっとこらえた。これは自分の沽券にもかかわる。本当は最後まで取っておこうと思ったのだ。涙を呑んでユウは卵焼きを一口で食べきった。何度も咀嚼をし、味わう。嚥下するまでじっくりと食べているユウに、周囲の反応はなぜか待ちきれない様子だ。
「美味しいです!」
弾けそうな笑顔にカリムが良かったな! と太陽顔負けの笑顔で答える。オクタヴィネル寮の三人はおやおやと意味ありげに笑い、ジャミルとラギーはくつくつと喉で笑っている。隣で反応を窺っていたシルバーは安堵したのか、良かったとため息を漏らしている。唯一リドルと一年生たちがじっと見ているのが、ユウは気になった。
「リドル先輩も食べますか?」
「いや、僕はいいよ。それは君のためにシルバーが用意したものだからね」
やけに強く断るなぁ、とユウが首を傾げると、セベクが洞窟に響く声で𠮟責した。
「貴様! シルバーが朝から目をこすって作ったものを他人に渡すと言うのか! この恩知らずめ!」
恩知らずとまでなぜか罵られてしまった。シルバーの料理は絶品とまで行かなくても優しい味をしているのだから、ぜひみんなに知ってほしいだけなのだ。それなのに、ジャックもエペルもその通りだと首を一緒になって縦に振っている。
「ユウサン、むしろシルバーサンにご飯を毎日作ってもらったりしたらどうでしょう」
「返しになるようなもんが作れなくても、一緒に料理くらいはできるだろ。まともな食材を選んでもらえ」
なんだこの結束力は。ユウはセベクのように叫んでしまいたかったが、シルバーの料理の良さを伝える機会はまた改めようと他のおかずに手を付け始めた。