後編
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男は走った。ひたすら遠くへ逃げるために。そのためになら何でもする。背後から追ってくるおぞましいものから逃げられるなら、なんだって。
「おい、お前。どうしたんだよ」
そう声をかけた彼の友人だが、生憎彼の目と耳を支配しているのは様々な武器を持って追いかけてくる魔物だ。おかしなことに彼以外の誰も見えないらしい。彼はひたすら走った。誰かが腕をつかんだ気がするけれど、邪魔をするなら彼はそいつらがケガすることも構わずリーフショットを放つ。気が付けば魔物は目の前にいた。闇すら吸い込まれる真っ暗な口がこちらを飲み込もうとしている。
「ひっ……く、来るんじゃねぇ! うあああ!!」
彼は走り出し、そのまま階段から転げ落ちた。何度も体を打ち付け、全身打撲と骨折は免れないだろう。絵画たちの悲鳴と周囲に動揺の声が広がる。
「またかよ」
「これで6件目だろ?」
「誰が一体こんなこと」
幻想を見て精神を犯された挙句全身打撲と骨折をするこの事故が起こりだしたのは、つい一週間前からだった。この事故は学園でも問題として取り沙汰されるが、その真相のほどは誰も知らない。いずれも隠れてオンボロ寮の監督生にいじめを行っていたという共通点があるが、彼女は事故発生とは全く無関係な場所でアリバイを持っている。どこにも事件の痕跡は残されていないので、このことは事故として処理されるだろう。
リリアはそう屋根の上で笑った。今日は具合のいい曇りだ。トマトジュースがひときわ美味しく感じる。生暖かい風が頬を撫でた時、リリアはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「わし仕込みの幻覚はどうじゃ? 恐ろしいじゃろ? 夢の中まで追いかけてくるその魔物はお主ら自身が引き寄せた。シルバーの領分にいるものに手を出すと、ろくなことにならんというのに」
眷属であるコウモリが何やら急いで飛んでくる。右手を差し出し人差し指の上にとまらせると、逆さまになった眷属は息子の様子を教えてくれた。リアルタイムで表示されている息子は、肩まで短くなった髪のユウとどうやら話しているようだ。
「監督生、体調はどうだ?」
「すっかり良くなりました! 先輩、助けてくれてありがとうございます」
周りに花が散るような笑顔にシルバーも頬を緩めている。これは珍しい上に、めでたいものだとリリアは胸が暖かくなった。
「あれはあれで、ハッピーエンドと言うやつか」
いや、告白してわしに紹介までするようになる時のために、色事の一つや二つも教えてやらんとだな! とリリアはほくそ笑んだ。これからまだまだ忙しいぞ、シルバー、と心の中で語り掛ければ、風が不意に凪いだ。
その昔、地中に埋めていた宝を荒らした人間に怒り狂ったドラゴンがいたと聞く。今回のシルバーはまさにそれだとリリアはため息を吐いた。
「やはり宝物を隠すなら手の中が1番じゃ」
そうすれば誰も取れなくなるからな。
トマトジュースの入った缶の底をぐいっと天に仰ぎ、飲み干す。空になった音が、曇り空に吸い込まれていった。
END
「おい、お前。どうしたんだよ」
そう声をかけた彼の友人だが、生憎彼の目と耳を支配しているのは様々な武器を持って追いかけてくる魔物だ。おかしなことに彼以外の誰も見えないらしい。彼はひたすら走った。誰かが腕をつかんだ気がするけれど、邪魔をするなら彼はそいつらがケガすることも構わずリーフショットを放つ。気が付けば魔物は目の前にいた。闇すら吸い込まれる真っ暗な口がこちらを飲み込もうとしている。
「ひっ……く、来るんじゃねぇ! うあああ!!」
彼は走り出し、そのまま階段から転げ落ちた。何度も体を打ち付け、全身打撲と骨折は免れないだろう。絵画たちの悲鳴と周囲に動揺の声が広がる。
「またかよ」
「これで6件目だろ?」
「誰が一体こんなこと」
幻想を見て精神を犯された挙句全身打撲と骨折をするこの事故が起こりだしたのは、つい一週間前からだった。この事故は学園でも問題として取り沙汰されるが、その真相のほどは誰も知らない。いずれも隠れてオンボロ寮の監督生にいじめを行っていたという共通点があるが、彼女は事故発生とは全く無関係な場所でアリバイを持っている。どこにも事件の痕跡は残されていないので、このことは事故として処理されるだろう。
リリアはそう屋根の上で笑った。今日は具合のいい曇りだ。トマトジュースがひときわ美味しく感じる。生暖かい風が頬を撫でた時、リリアはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「わし仕込みの幻覚はどうじゃ? 恐ろしいじゃろ? 夢の中まで追いかけてくるその魔物はお主ら自身が引き寄せた。シルバーの領分にいるものに手を出すと、ろくなことにならんというのに」
眷属であるコウモリが何やら急いで飛んでくる。右手を差し出し人差し指の上にとまらせると、逆さまになった眷属は息子の様子を教えてくれた。リアルタイムで表示されている息子は、肩まで短くなった髪のユウとどうやら話しているようだ。
「監督生、体調はどうだ?」
「すっかり良くなりました! 先輩、助けてくれてありがとうございます」
周りに花が散るような笑顔にシルバーも頬を緩めている。これは珍しい上に、めでたいものだとリリアは胸が暖かくなった。
「あれはあれで、ハッピーエンドと言うやつか」
いや、告白してわしに紹介までするようになる時のために、色事の一つや二つも教えてやらんとだな! とリリアはほくそ笑んだ。これからまだまだ忙しいぞ、シルバー、と心の中で語り掛ければ、風が不意に凪いだ。
その昔、地中に埋めていた宝を荒らした人間に怒り狂ったドラゴンがいたと聞く。今回のシルバーはまさにそれだとリリアはため息を吐いた。
「やはり宝物を隠すなら手の中が1番じゃ」
そうすれば誰も取れなくなるからな。
トマトジュースの入った缶の底をぐいっと天に仰ぎ、飲み干す。空になった音が、曇り空に吸い込まれていった。
END
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