後編
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その夜、今日も今日とてオンラインゲームじゃ! と張り切るリリアの部屋の扉が叩かれた。この時間帯に自室を尋ねるのは誰じゃと誰何すれば、見上げるほど大きくなった銀髪が扉の向こうから姿を現した。
「親父殿、探し物の呪文はどの本に書いてありましたか?」
「おおう。わしの棚の1番右端、下から二段目の本じゃ」
何じゃシルバーか、とリリアは一瞬だけ緊張を緩めると、自分の嫌いな探し物をしようとするシルバーに違和感を覚えた。そもそも、この部屋に来ること自体、リリアがゲームに誘わない限り来ないというのに。
「なんじゃ、シルバー。おぬし、失せ物でもしたのか?」
「いえ、俺ではなく、知り合いが」
訳を尋ねてみれば、シルバーの言葉の端々ににじみ出る剣呑な雰囲気に、何かあったなとリリアは察した。本棚を物色する彼の異変に、リリアは机に腰掛け、いたって平静な口調で更に尋ねた。
「シルバー。何がお主にそのような目をさせる」
「なんのことでしょう」
本棚に向けていたはずの視線をリリアに向けた瞬間、彼の本能がぞわりと本性を戻そうとしてしまうほどの殺気を感じた。シルバーが怒っている。口ぶりもふるまいも普段通りでありながら、隠しきれていない怒りが確かにあった。
リリアは帰ってきてからシルバーの様子がおかしいと言うセベクを思い出した。自分の本能すら刺激するほどの怒りを抱いていたのかと納得したリリアは、これはセベクが怖がるわけだと、小さく笑う。
「騎士らしく平然と動揺を悟られんようにしとるのは感心するが、わしの目から逃れられると思うな。今のお主はさながら牙を向ける相手を探しておる猛獣じゃ。その目には常の凪のような静けさが全くないぞ」
見事にリリアに言い当てられたシルバーは逡巡した後、諦めたようにため息を吐いた。拳が作られ皺が寄った手袋が悲鳴を上げる。
「……俺は未熟です。力量を勝手に推し量ってしまい油断した結果、監督生が暴力に巻き込まれました」
暴力……そういえばシルバーが監督生を見つけて治療したんじゃったか、とリリアは眷属たちが拾い集めた情報を思い出す。こうして情報を集めるのは、マレウスに怪しいことを企んでいる奴がいないか警備するためなのだが、思いもよらぬところで役に立つものだと感心する。
シルバーは俯き、許されないことかもしれません、と呟いた。
「俺は自分の浅慮で彼女が傷つくのは見ていられません。マレウス様から、許可は頂いています。俺自身で守れるものは守りたい」
シルバーがまさかマレウスに許しを求めてまで守ろうとする存在ができたことに、リリアは目を瞠った。それほどまで心の奥に住まわせた存在がいたことに、リリアは口角が持ち上がった。
「シルバー。何もわしは止めん。じゃが、ここで年長者のアドバイスじゃ。お主は気づいておらんじゃろうが、殺気が漏れておる。それでは相手を見つけた時、真っ先に先手を取られてしまう」
リリアが宙に浮き、シルバーと同じ目線で彼の鼻先に人差し指を突きつける。ぽん、と指で鼻を押してやれば、シルバーはますます困惑しているようで目を丸くさせて幼いころと変わらない驚き顔を見せた。そんなところも可愛くて仕方ないと、リリアは笑う。
「……じゃから、念入りに計画を立てるんじゃ。決して誰にも悟られぬよう、そして疑われぬよう」
「申し訳ありません、親父殿。まだ鍛錬が足りていませんでした」
リリアはけらけら笑うと、手招きした。近寄ったシルバーの頭を遠慮なしに撫でると、シルバーは無言で唇を引き結んだ。手を離してほしいが、親父殿に向かってそんなぶしつけな願いはできないので。
「よいよい。勝手に領分を踏み荒らされるその怒りは十二分にわかる。何よりお主はまだ若い。今からなら、本番までには立て直せるじゃろ」
満足したリリアは、さらに上昇し本棚の上に置かれた大きなトランクケースを引っ張り出した。古い魔法でかけられたこのトランクの中身には、禁術ともいえる魔法がしまってある。そのうち最も薄いものを手に取ると、シルバーへ振り返り本を見せた。
「ちょうど良い。ここで久しぶりにわしが稽古をつけてやろう。暗殺と似たようなものじゃが、姑息なのはあちらも同じ。それ相応の罰を受けさせよう」
おそらく、これは報復と誰もが言うであろう行為だ。しかし、愛する息子が肩入れをする存在を守ろうとしているのだ。親が手を貸さずどうする、とリリアは妖艶に笑った。
「親父殿、探し物の呪文はどの本に書いてありましたか?」
「おおう。わしの棚の1番右端、下から二段目の本じゃ」
何じゃシルバーか、とリリアは一瞬だけ緊張を緩めると、自分の嫌いな探し物をしようとするシルバーに違和感を覚えた。そもそも、この部屋に来ること自体、リリアがゲームに誘わない限り来ないというのに。
「なんじゃ、シルバー。おぬし、失せ物でもしたのか?」
「いえ、俺ではなく、知り合いが」
訳を尋ねてみれば、シルバーの言葉の端々ににじみ出る剣呑な雰囲気に、何かあったなとリリアは察した。本棚を物色する彼の異変に、リリアは机に腰掛け、いたって平静な口調で更に尋ねた。
「シルバー。何がお主にそのような目をさせる」
「なんのことでしょう」
本棚に向けていたはずの視線をリリアに向けた瞬間、彼の本能がぞわりと本性を戻そうとしてしまうほどの殺気を感じた。シルバーが怒っている。口ぶりもふるまいも普段通りでありながら、隠しきれていない怒りが確かにあった。
リリアは帰ってきてからシルバーの様子がおかしいと言うセベクを思い出した。自分の本能すら刺激するほどの怒りを抱いていたのかと納得したリリアは、これはセベクが怖がるわけだと、小さく笑う。
「騎士らしく平然と動揺を悟られんようにしとるのは感心するが、わしの目から逃れられると思うな。今のお主はさながら牙を向ける相手を探しておる猛獣じゃ。その目には常の凪のような静けさが全くないぞ」
見事にリリアに言い当てられたシルバーは逡巡した後、諦めたようにため息を吐いた。拳が作られ皺が寄った手袋が悲鳴を上げる。
「……俺は未熟です。力量を勝手に推し量ってしまい油断した結果、監督生が暴力に巻き込まれました」
暴力……そういえばシルバーが監督生を見つけて治療したんじゃったか、とリリアは眷属たちが拾い集めた情報を思い出す。こうして情報を集めるのは、マレウスに怪しいことを企んでいる奴がいないか警備するためなのだが、思いもよらぬところで役に立つものだと感心する。
シルバーは俯き、許されないことかもしれません、と呟いた。
「俺は自分の浅慮で彼女が傷つくのは見ていられません。マレウス様から、許可は頂いています。俺自身で守れるものは守りたい」
シルバーがまさかマレウスに許しを求めてまで守ろうとする存在ができたことに、リリアは目を瞠った。それほどまで心の奥に住まわせた存在がいたことに、リリアは口角が持ち上がった。
「シルバー。何もわしは止めん。じゃが、ここで年長者のアドバイスじゃ。お主は気づいておらんじゃろうが、殺気が漏れておる。それでは相手を見つけた時、真っ先に先手を取られてしまう」
リリアが宙に浮き、シルバーと同じ目線で彼の鼻先に人差し指を突きつける。ぽん、と指で鼻を押してやれば、シルバーはますます困惑しているようで目を丸くさせて幼いころと変わらない驚き顔を見せた。そんなところも可愛くて仕方ないと、リリアは笑う。
「……じゃから、念入りに計画を立てるんじゃ。決して誰にも悟られぬよう、そして疑われぬよう」
「申し訳ありません、親父殿。まだ鍛錬が足りていませんでした」
リリアはけらけら笑うと、手招きした。近寄ったシルバーの頭を遠慮なしに撫でると、シルバーは無言で唇を引き結んだ。手を離してほしいが、親父殿に向かってそんなぶしつけな願いはできないので。
「よいよい。勝手に領分を踏み荒らされるその怒りは十二分にわかる。何よりお主はまだ若い。今からなら、本番までには立て直せるじゃろ」
満足したリリアは、さらに上昇し本棚の上に置かれた大きなトランクケースを引っ張り出した。古い魔法でかけられたこのトランクの中身には、禁術ともいえる魔法がしまってある。そのうち最も薄いものを手に取ると、シルバーへ振り返り本を見せた。
「ちょうど良い。ここで久しぶりにわしが稽古をつけてやろう。暗殺と似たようなものじゃが、姑息なのはあちらも同じ。それ相応の罰を受けさせよう」
おそらく、これは報復と誰もが言うであろう行為だ。しかし、愛する息子が肩入れをする存在を守ろうとしているのだ。親が手を貸さずどうする、とリリアは妖艶に笑った。