前編
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ホリデーが明ける前、珍しくリリアが城を開けると言った。どうやらマレウスがホリデーカードを出す相手が見つかったらしい、とリリアは喜んでいた。シルバーもそれはいいことですね、と思わず口角を上げてしまうほどに嬉しかった。それじゃ、これをとある者へ届けてくる、シルバー、留守はおぬしに任せたぞ、と残してリリアは眷属たるコウモリとなって吹雪の中飛び去った。
シルバーは城内に戻り、静まり返った廊下を慣れた足取りで進む。石畳のここは茨の魔女が建てた時からあるらしく、歩いているだけで胸を張れる気分にさせてくれる。自室に入ったシルバーは一番下の引き出しの底に眠っているホリデーカードを出した。宛名もメッセージもかいていないそれは、幼い時リリアが旅行先で買ってきてくれた土産だ。もし自分が監督生にホリデーカードを送るならこれがいい。大分古いデザインではあるが、黒いカラスが監督生の髪を思い出させた。
ホリデーが明けてから、スカラビア寮でジャミルがカリムに謀反を企てオーバーブロットしたことをカリムから内緒の話ということで聞かされた。現在ではネット中継されていると思われた謀反映像はデマだと知ったので、カリムは誰にも広めるような真似はしていないが、シルバーは友人のよしみだからと深く関わらないことにした。ただ、今回のオーバーブロットにも彼は関わっている。監督生――カリムから初めて聞いたがユウというそうだ――はまたこう言った大きな事件に関わっていた。
ユウは自分と違い魔力もなければこの世界の住人でもないと聞く。自らのように多少訓練されているならまだしも、果たしてそんな人の子がこれほど大きな事件に立て続けに関わっているなら、その負担はいかほどだろう。シルバーは言いようのない不安に駆られた。
ホリデーが明けてから話しかける。そんな些細なことがシルバーの脳内を授業中でも鍛錬の最中でも寝ているときですら夢に見るほど支配していた。シルバーは授業に行くのを見計らって声をかけようと考えていた。授業を一緒に受ける申し出くらい、どこでもある普通の会話だ。
シルバーはまず中庭で彼を待つことにした。ユウは決まってこの中庭を通り教室へ向かう。木陰がいい塩梅で日差しを遮る木漏れ日の中、寒さ続きの学園にやってきた小春日和がシルバーの意識を遠のかせる。ここで寝てはならないと意志だけで意識を保とうとするが、くらりと尻もちをついてしまえばすぐさま首はうなだれ寝息が聞こえた。
シルバーの傍には小鳥やリスが集い、その様子を慈しむように離れようとはしない。すると遠くで「なんなんだゾ!」と何かが叫んだ。小鳥が集うシルバーの居眠りに急いで足音が近づくと、灰の毛色にシアンの瞳が美しい魔獣ことグリムはじっと彼を見ていた。
「おい! お前! 寝てる場合か!」
グリムが声をかけるも、シルバーは依然気持ちよさそうに寝ている。その様子を見て、グリムはふなぁ! と怒りの声を上げた。
「俺様はこれから授業なんだゾ! 勝手にお前だけサボりなんて狡いんだゾ!」
初対面の相手にいけしゃあしゃあとさぼりたいと言うグリムは遠くから駆け寄ってくる制止の声も振り切り、思い切りシルバーの頬をぶった。小鳥が驚いて飛び立ち、リスも慌ててその場を走り去る。
そうして静かになったその場に悲鳴を上げながら近づく人影があった。カラスの髪を思わせる黒い髪が鞭のように波打つ。
シルバーは頬をぶたれた衝撃とその悲鳴に瞼を上げた。
「う……」
何が起こったのか把握できていないシルバーに対し、ユウはすぐさまスライディングをしてシルバーの前に正座になって出る。グリムの頭を下げさせると、セベクも顔負けの声量で同じく頭を下げた。
「ほんっっっっっとうにごめんなさい!!!」
シルバーはジンジンと痛む頬を抑えて、目の前の状況を整理しようとしたが、如何せん寝ぼけた頭なので何もわからなかった。
「すまない。今俺には何が起こっているんだ」
「うちのグリムが寝ている貴方のほっぺたを殴って起こしてしまいました! 本当にごめんなさい。謝って許されることじゃないと思いますが、どうかこの愛くるしい顔に免じて! 何卒!」
グリムに頬を殴られたことへの怒りなど元から微塵もなかったシルバーは、あまりの必死さに哀れみすら覚えた。
「そんなに怯えなくてもいい。俺は怒っていない」
「本当ですか!」
ばっと上げた顔の晴れ晴れしさと言ったら、シルバーにある種の清々しさをもたらした。それにしっかり頷くと、ユウは安堵から周囲の頬すら緩ませるような柔らかい笑みを浮かべた。
「よかったぁ……」
シルバーはそんな彼女の様子に、じんわりと胸が暖かくなる感覚がした。あまりにもはっきりしているので、思わずシルバーは安堵のため息を吐いた。
「この後、授業か?」
「はい。魔法史です」
シルバーが同伴してもいいかと申し出ると、ユウは目を丸くして自分と? と問い返した。あまりに意外だったのだろう。そもそも話しかけたのはこれが初めてだ。シルバーはしっかりと頷き、頼むと言い切る。ユウは笑顔で手を差し伸べた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
シルバーは城内に戻り、静まり返った廊下を慣れた足取りで進む。石畳のここは茨の魔女が建てた時からあるらしく、歩いているだけで胸を張れる気分にさせてくれる。自室に入ったシルバーは一番下の引き出しの底に眠っているホリデーカードを出した。宛名もメッセージもかいていないそれは、幼い時リリアが旅行先で買ってきてくれた土産だ。もし自分が監督生にホリデーカードを送るならこれがいい。大分古いデザインではあるが、黒いカラスが監督生の髪を思い出させた。
ホリデーが明けてから、スカラビア寮でジャミルがカリムに謀反を企てオーバーブロットしたことをカリムから内緒の話ということで聞かされた。現在ではネット中継されていると思われた謀反映像はデマだと知ったので、カリムは誰にも広めるような真似はしていないが、シルバーは友人のよしみだからと深く関わらないことにした。ただ、今回のオーバーブロットにも彼は関わっている。監督生――カリムから初めて聞いたがユウというそうだ――はまたこう言った大きな事件に関わっていた。
ユウは自分と違い魔力もなければこの世界の住人でもないと聞く。自らのように多少訓練されているならまだしも、果たしてそんな人の子がこれほど大きな事件に立て続けに関わっているなら、その負担はいかほどだろう。シルバーは言いようのない不安に駆られた。
ホリデーが明けてから話しかける。そんな些細なことがシルバーの脳内を授業中でも鍛錬の最中でも寝ているときですら夢に見るほど支配していた。シルバーは授業に行くのを見計らって声をかけようと考えていた。授業を一緒に受ける申し出くらい、どこでもある普通の会話だ。
シルバーはまず中庭で彼を待つことにした。ユウは決まってこの中庭を通り教室へ向かう。木陰がいい塩梅で日差しを遮る木漏れ日の中、寒さ続きの学園にやってきた小春日和がシルバーの意識を遠のかせる。ここで寝てはならないと意志だけで意識を保とうとするが、くらりと尻もちをついてしまえばすぐさま首はうなだれ寝息が聞こえた。
シルバーの傍には小鳥やリスが集い、その様子を慈しむように離れようとはしない。すると遠くで「なんなんだゾ!」と何かが叫んだ。小鳥が集うシルバーの居眠りに急いで足音が近づくと、灰の毛色にシアンの瞳が美しい魔獣ことグリムはじっと彼を見ていた。
「おい! お前! 寝てる場合か!」
グリムが声をかけるも、シルバーは依然気持ちよさそうに寝ている。その様子を見て、グリムはふなぁ! と怒りの声を上げた。
「俺様はこれから授業なんだゾ! 勝手にお前だけサボりなんて狡いんだゾ!」
初対面の相手にいけしゃあしゃあとさぼりたいと言うグリムは遠くから駆け寄ってくる制止の声も振り切り、思い切りシルバーの頬をぶった。小鳥が驚いて飛び立ち、リスも慌ててその場を走り去る。
そうして静かになったその場に悲鳴を上げながら近づく人影があった。カラスの髪を思わせる黒い髪が鞭のように波打つ。
シルバーは頬をぶたれた衝撃とその悲鳴に瞼を上げた。
「う……」
何が起こったのか把握できていないシルバーに対し、ユウはすぐさまスライディングをしてシルバーの前に正座になって出る。グリムの頭を下げさせると、セベクも顔負けの声量で同じく頭を下げた。
「ほんっっっっっとうにごめんなさい!!!」
シルバーはジンジンと痛む頬を抑えて、目の前の状況を整理しようとしたが、如何せん寝ぼけた頭なので何もわからなかった。
「すまない。今俺には何が起こっているんだ」
「うちのグリムが寝ている貴方のほっぺたを殴って起こしてしまいました! 本当にごめんなさい。謝って許されることじゃないと思いますが、どうかこの愛くるしい顔に免じて! 何卒!」
グリムに頬を殴られたことへの怒りなど元から微塵もなかったシルバーは、あまりの必死さに哀れみすら覚えた。
「そんなに怯えなくてもいい。俺は怒っていない」
「本当ですか!」
ばっと上げた顔の晴れ晴れしさと言ったら、シルバーにある種の清々しさをもたらした。それにしっかり頷くと、ユウは安堵から周囲の頬すら緩ませるような柔らかい笑みを浮かべた。
「よかったぁ……」
シルバーはそんな彼女の様子に、じんわりと胸が暖かくなる感覚がした。あまりにもはっきりしているので、思わずシルバーは安堵のため息を吐いた。
「この後、授業か?」
「はい。魔法史です」
シルバーが同伴してもいいかと申し出ると、ユウは目を丸くして自分と? と問い返した。あまりに意外だったのだろう。そもそも話しかけたのはこれが初めてだ。シルバーはしっかりと頷き、頼むと言い切る。ユウは笑顔で手を差し伸べた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」