それからシルバーは監督生をよく見かけるようになった。時にはあの時見かけたハーツラビュル寮生たち――リドルから聞いたところでは、エース・トラッポラとデュース・スペードというらしい。どちらも手が付けられない問題児だと彼は言う――と共に学園内を魔獣――こちらはグリムといって、ツナ缶が大好物なのだそうだ――と共に駆けずり回っていたり、リドルのオーバーブロットをエースとデュースたちと共に解決したり、それこそサバナクロー寮での陰謀から自分の主の危機を救ってくれた。
　リドルからサバナクロー寮が一連のマジフト選手負傷事件に関わっているとの話を聞いた時は、流石に激昂しそうになった。あれほど主人であるマレウスが親しくしようとしていたのに、と拳を握り、手袋に深い皺を作らずにいられなかった。リリアは静かな声であいわかったと答えていたが、その声に滲むわずかな怒りにシルバーは共感していた。シルバーは見ていないが、レオナが起こしたオーバーブロットに監督生は対峙していた。見事な連携とグリムへの采配に、他者に厳しいリドルが褒めていたのを今でも思い出せる。
　マジフト大会が終わった後、今度はエースとデュース、そしてグリムにイソギンチャクがついていたらしい。普段から勉学も鍛錬のうちと自力で努力できる習慣のあるシルバーには全く無縁の出来事だったが、監督生は自分の寮を担保にイソギンチャクたちの解放を望んだそうだ。果たしてどうやってあの狡賢いアズールを出し抜いたのかは知らないが、彼のオーバーブロットを収め、そして無事に契約を果たしたらしい。なぜかマレウスはご機嫌な様子で、オンボロ寮の監督生がアズールを出し抜いたことを大笑いしながらシルバーとセベク、リリアに聞かせていた。
　それからウィンターホリデーが始まり、誰もが帰省をする中、監督生とグリムは鏡の間から顔なじみの友人たちを見送っていた。この時、彼らに帰る場所がないのだと改めて思い知らされた。どうやらオクタヴィネル寮とスカラビア寮も帰省する予定はないらしいので、彼らと温かいホリデーを過ごしてくれたらとシルバーはそっと願った。
　ホリデーの間、監督生が寂しくはないだろうかと心配になって、なぜか雪のちらつく窓を見ては物思いをする日々が続く。そんなシルバーの様子を見守っていたリリアは、シルバーに言った。
「のぉシルバー。どうせなら思い切って話しかけてみんか？」
　人との交わりが始まるのは会話からだ。それは文字であれ、肉声であれ、変わらない。シルバーはそのことを聞いて、ホリデーが明けたら真っ先に話しかけに行こうと決めた。その瞬間、重かった胸のうちもすっかり軽くなったので、やはり親父殿には敵わないと嘆息した。