前編
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ひときわシルバーの目を引いたのは、主人と同じ漆黒の髪だった。烏の濡れ羽色が陽光を弾いて深い緑になるその髪は、肩口でまとめられている。ブレザーを見てもどこの寮なのか所属すら分からないのが彼が抱いた最初の謎だった。その生徒は狸のようなサイズの魔獣とぐるぐる食堂を見回しながら、ハーツラビュル寮の生徒と何か話している。四人いるハーツラビュル寮生で顔を見かけたことのある人物が二人。リリアのクラスメイト、トレイ・クローバーとこれまたリリアと共に軽音部に所属するケイト・ダイヤモンドだ。
お、トレイとケイトじゃ、とシルバーが気づいた瞬間にリリアが呟く。何やらリリアには話の内容が聞こえているのか、先ほどからくふふふと怪しい笑みをたたえている。どうやら、自分たちの話をされているのだろう。あの五人の視線がこちらに向いていた。
その瞬間、隣で食事をとっていたはずのリリアが一瞬で消え、セベクが「リリア様!」と狼狽えた。しかし、シルバーはリリアの姿をいち早く見つけていた。先ほどまで彼が見ていたところに、リリアはさかさまになって驚かしに行っていた。
びっくりしている新入生を見て喜んでいるのは微笑ましいが、慣れていない者には心臓に悪いだろう。シルバーはキノコを頬張ることも忘れて、じっと様子を窺った。リリアの人間離れした(妖精なので元から人でもないが)技に、一同表情が引き攣っていることだけは分かった。
驚かしきってせいせいしたのか、リリアはご満悦の様子でまたシルバーの隣に帰ってきていた。
「親父殿。あそこにいるのは」
「ああ。この学園で噂になっておる、オンボロ寮の監督生とその友人じゃ。なに、トレイがわしのことを話しておるからちょいと顔を出しに行った」
なるほど。あながち自分の予想は間違っていなかったようだとシルバーはリゾットを口に運ぶ。先ほどより冷えてはいるものの、美味しいことに変わりはない。
「ふん。リリア様を話のタネにするなど、無礼な」
「くふふ。そう怒るでない、セベク。わしは閉鎖的なこの寮を少しでも賑やかにしていきたいのじゃ。ああした人間との交わりはきっとマレウスの考えを豊かにするじゃろう」
こうした先見の明に、シルバーは自分の未熟さを思い知らされる。シルバーは口数も少なく、しかも突然眠くなると言う奇妙な症状に悩まされて早17年。体質に慣れはしたが、その実シルバーと深くかかわる者は茨の谷でもごくわずかで、折角始まった学生生活でもリリアたち以外の新しい友人とは浅い会話しかしていなかった。
セベクが感銘の涙を目に湛え、きらりと陽光が弾いた。
「流石リリア様! 先まで見据えてらしての行動! 感激いたしました!」
「そう大きな声で褒めたたえるな。わしが注目されるじゃろ」
ふうとため息を吐くリリアに、申し訳ありません! とセベクが先ほどよりも声を張り上げて謝罪した。おかげで自分たちに向けられる奇異の目は減らない。その中に、あの監督生の姿はなかった。
「元からだと思いますが……」
シルバーはリリアにそう返すと、残り少なくなったリゾットを口に運んだ。
お、トレイとケイトじゃ、とシルバーが気づいた瞬間にリリアが呟く。何やらリリアには話の内容が聞こえているのか、先ほどからくふふふと怪しい笑みをたたえている。どうやら、自分たちの話をされているのだろう。あの五人の視線がこちらに向いていた。
その瞬間、隣で食事をとっていたはずのリリアが一瞬で消え、セベクが「リリア様!」と狼狽えた。しかし、シルバーはリリアの姿をいち早く見つけていた。先ほどまで彼が見ていたところに、リリアはさかさまになって驚かしに行っていた。
びっくりしている新入生を見て喜んでいるのは微笑ましいが、慣れていない者には心臓に悪いだろう。シルバーはキノコを頬張ることも忘れて、じっと様子を窺った。リリアの人間離れした(妖精なので元から人でもないが)技に、一同表情が引き攣っていることだけは分かった。
驚かしきってせいせいしたのか、リリアはご満悦の様子でまたシルバーの隣に帰ってきていた。
「親父殿。あそこにいるのは」
「ああ。この学園で噂になっておる、オンボロ寮の監督生とその友人じゃ。なに、トレイがわしのことを話しておるからちょいと顔を出しに行った」
なるほど。あながち自分の予想は間違っていなかったようだとシルバーはリゾットを口に運ぶ。先ほどより冷えてはいるものの、美味しいことに変わりはない。
「ふん。リリア様を話のタネにするなど、無礼な」
「くふふ。そう怒るでない、セベク。わしは閉鎖的なこの寮を少しでも賑やかにしていきたいのじゃ。ああした人間との交わりはきっとマレウスの考えを豊かにするじゃろう」
こうした先見の明に、シルバーは自分の未熟さを思い知らされる。シルバーは口数も少なく、しかも突然眠くなると言う奇妙な症状に悩まされて早17年。体質に慣れはしたが、その実シルバーと深くかかわる者は茨の谷でもごくわずかで、折角始まった学生生活でもリリアたち以外の新しい友人とは浅い会話しかしていなかった。
セベクが感銘の涙を目に湛え、きらりと陽光が弾いた。
「流石リリア様! 先まで見据えてらしての行動! 感激いたしました!」
「そう大きな声で褒めたたえるな。わしが注目されるじゃろ」
ふうとため息を吐くリリアに、申し訳ありません! とセベクが先ほどよりも声を張り上げて謝罪した。おかげで自分たちに向けられる奇異の目は減らない。その中に、あの監督生の姿はなかった。
「元からだと思いますが……」
シルバーはリリアにそう返すと、残り少なくなったリゾットを口に運んだ。
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