目覚め
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ユウは眠る少し前から目覚めるまでの間の記憶がなかった。そのため、リリアが実際にオンボロ寮へ出向き、夜中の彼女を見ることにしたのだ。そうすれば、彼女の異変の正体もつかめる可能性がある。
「その、本当に大丈夫ですか?」
寝室のベッドに転がっているユウは、申し訳なさそうに眉をハの字に曲げている。遠慮がちなところも控えめで愛らしいと、リリアは微笑んだ。
「ああ。夜更かしは得意分野じゃ!」
腕を組んで弾けるような笑顔を見せる彼に、ユウはますます困り顔になる。
「それは得意ではないと思うんですけど……」
「まあ、お主はゆっくり眠れ。このリリア・ヴァンルージュが、お主の眠りを守るんじゃからな。今日は木の上で寝させるような真似はさせん」
彼のジョークにユウはくすくすと笑うと、目を閉じた。「おやすみなさい。リリア先輩」柔らかな微笑みが頭上のランプに照らされる。それすらも眩しいだろうと、リリアはランプの明りを消した。「ああ、また明日も会おう」月光に飲まれた呟きに返事はなかった。
夜目のきくリリアは、音量をオフにしてオンラインゲームに励んでいた。別にゲームをしていても彼女に異変があれば、即座に対応できるよう彼の足元には様々な魔法の道具が用意されている。それは一つのトランクの中に仕舞われていて、彼女にはただの荷物にしか認知されていない。
ほーぅ、ほーぅ、と遠くで声がする。「フクロウ?」リリアが画面から顔を上げると、そこには安らかに眠っているユウがいるだけだ。月光にさらされた白い腕があまりにも細くて、リリアは目をすがめた。「トマトジュースでも飲むかの」立ちあがった彼はゲーム機の電源を落とし、部屋を後にした。念のため施錠をして、対魔法用の防御壁を張る。確かトマトジュースは談話室にまだもう一缶残っていたはずだ。リリアは階段を一段ずつ降り、机の上に見事に散乱している観たちの中で唯一開けられていないものを見つける。魔法で引き寄せた彼の手の中で、プルタブがひとりでに開いた。彼をそのままそれに口をつけ、喉の奥に渇きを忘れるように流し込む。ひんやりと喉の奥を通っていく感覚と独特のうまみに舌鼓をうつ。感が真っ逆さまになるまで持ち上げると、もう喉の奥に流れ込んでこなくなった。突然、鳥の羽ばたきがオンボロ寮内にした。全く感じられなかった気配がユウの部屋にある。リリアは缶を投げ、寝室へと向かった。
「ユウ!」
彼の鼻を血の匂いが突き刺した。月光が差し込む部屋で、整えられていたはずの調度品たちが倒れ込んでいる。鈍い音を立てながら、窓にぶつかっている彼女がいた。その背中には大きな猛禽類の翼が生えており、生えたせいで破れた布には真っ赤な鮮血が羽のように広がっている。丸い大きな瞳がこちらを見ると、彼女の顔には模様が浮かび上がっていた。それを見たリリアは呆然と呟いた。
「フクロウ……」
「……ぎゃ!」
彼女の手だったはずの四本の指が、力強くリリアの肩に食い込む。骨まで軋ませる怪力で彼を掴んで睨む彼女に、リリアはたまらずマジカルペンを振りあげた。拘束魔法により出現した不可視の糸で締め付けられた彼女は、床に転がり、ぎゃあぎゃあと泣き叫んでいる。
『離して! 離して!』
習ったこともない動物言語をこれほど流ちょうに話す彼女は、リリアの知っているユウではない。彼はユウの肩を掴んで揺さぶった。
「ユウ! 目を覚ませ!」
『お願い……』
彼女の白い頬を涙が伝った。涙ながらに請われると、リリアの心は波立つ。もしこのまま離したとして彼女が戻ってくる保証はない。かといってこのまま縛り付けるのは、彼が望むことではない。どうすべきか考えあぐねた結果、彼は不可視の糸に触れた。
「分かった」
魔法が解かれ、再び飛びあがった彼女は、嵌め殺しの窓をひっかいている。リリアはそれも魔法で開けようとして、彼女は一度窓から距離を取った。風も切り裂くその翼で身を包み、ロケットのように突っ込んだ。派手な音を立てて割られた窓ガラスは光が具現化したかのように、彼女の周りでゆっくりと落下しながら煌く。ユウはそのまま夜のナイトレイブンカレッジの周囲を飛び回りはじめた。
飛び去った彼女を、窓際まで歩み寄ったリリアは見送った。夜の森を威風堂々と飛ぶ彼女の翼は羽音すらしない。ほーぅ、ほーぅ、と夜にその声が響く。月の白い光が、夜の森を淡く照らしていた。
「その、本当に大丈夫ですか?」
寝室のベッドに転がっているユウは、申し訳なさそうに眉をハの字に曲げている。遠慮がちなところも控えめで愛らしいと、リリアは微笑んだ。
「ああ。夜更かしは得意分野じゃ!」
腕を組んで弾けるような笑顔を見せる彼に、ユウはますます困り顔になる。
「それは得意ではないと思うんですけど……」
「まあ、お主はゆっくり眠れ。このリリア・ヴァンルージュが、お主の眠りを守るんじゃからな。今日は木の上で寝させるような真似はさせん」
彼のジョークにユウはくすくすと笑うと、目を閉じた。「おやすみなさい。リリア先輩」柔らかな微笑みが頭上のランプに照らされる。それすらも眩しいだろうと、リリアはランプの明りを消した。「ああ、また明日も会おう」月光に飲まれた呟きに返事はなかった。
夜目のきくリリアは、音量をオフにしてオンラインゲームに励んでいた。別にゲームをしていても彼女に異変があれば、即座に対応できるよう彼の足元には様々な魔法の道具が用意されている。それは一つのトランクの中に仕舞われていて、彼女にはただの荷物にしか認知されていない。
ほーぅ、ほーぅ、と遠くで声がする。「フクロウ?」リリアが画面から顔を上げると、そこには安らかに眠っているユウがいるだけだ。月光にさらされた白い腕があまりにも細くて、リリアは目をすがめた。「トマトジュースでも飲むかの」立ちあがった彼はゲーム機の電源を落とし、部屋を後にした。念のため施錠をして、対魔法用の防御壁を張る。確かトマトジュースは談話室にまだもう一缶残っていたはずだ。リリアは階段を一段ずつ降り、机の上に見事に散乱している観たちの中で唯一開けられていないものを見つける。魔法で引き寄せた彼の手の中で、プルタブがひとりでに開いた。彼をそのままそれに口をつけ、喉の奥に渇きを忘れるように流し込む。ひんやりと喉の奥を通っていく感覚と独特のうまみに舌鼓をうつ。感が真っ逆さまになるまで持ち上げると、もう喉の奥に流れ込んでこなくなった。突然、鳥の羽ばたきがオンボロ寮内にした。全く感じられなかった気配がユウの部屋にある。リリアは缶を投げ、寝室へと向かった。
「ユウ!」
彼の鼻を血の匂いが突き刺した。月光が差し込む部屋で、整えられていたはずの調度品たちが倒れ込んでいる。鈍い音を立てながら、窓にぶつかっている彼女がいた。その背中には大きな猛禽類の翼が生えており、生えたせいで破れた布には真っ赤な鮮血が羽のように広がっている。丸い大きな瞳がこちらを見ると、彼女の顔には模様が浮かび上がっていた。それを見たリリアは呆然と呟いた。
「フクロウ……」
「……ぎゃ!」
彼女の手だったはずの四本の指が、力強くリリアの肩に食い込む。骨まで軋ませる怪力で彼を掴んで睨む彼女に、リリアはたまらずマジカルペンを振りあげた。拘束魔法により出現した不可視の糸で締め付けられた彼女は、床に転がり、ぎゃあぎゃあと泣き叫んでいる。
『離して! 離して!』
習ったこともない動物言語をこれほど流ちょうに話す彼女は、リリアの知っているユウではない。彼はユウの肩を掴んで揺さぶった。
「ユウ! 目を覚ませ!」
『お願い……』
彼女の白い頬を涙が伝った。涙ながらに請われると、リリアの心は波立つ。もしこのまま離したとして彼女が戻ってくる保証はない。かといってこのまま縛り付けるのは、彼が望むことではない。どうすべきか考えあぐねた結果、彼は不可視の糸に触れた。
「分かった」
魔法が解かれ、再び飛びあがった彼女は、嵌め殺しの窓をひっかいている。リリアはそれも魔法で開けようとして、彼女は一度窓から距離を取った。風も切り裂くその翼で身を包み、ロケットのように突っ込んだ。派手な音を立てて割られた窓ガラスは光が具現化したかのように、彼女の周りでゆっくりと落下しながら煌く。ユウはそのまま夜のナイトレイブンカレッジの周囲を飛び回りはじめた。
飛び去った彼女を、窓際まで歩み寄ったリリアは見送った。夜の森を威風堂々と飛ぶ彼女の翼は羽音すらしない。ほーぅ、ほーぅ、と夜にその声が響く。月の白い光が、夜の森を淡く照らしていた。
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