目覚め
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リリアは学園から賢者の島全体に眷属であるコウモリを飛ばした。彼らの視界のどこにもユウの姿は見えない。焦って吐いた息が彼の胸を重くした。
「ユウ! どこじゃ」
学園内しか飛び回れないリリアは、オンボロ寮をはじめとする全ての寮へ足を運んでいた。鏡は転送魔法そのものなので、鏡舎を中心に彼は飛び回る。しかし、それでも彼の目の前に恋人の姿は現れなかった。まさか本当に帰ってしまったのだろうか。「これからもリリア先輩のお傍にいさせてください」そう慎ましく笑った彼女を疑いたくない気持ちと相反して、彼の捜索で彼女の姿は一向に見つからない。
転送魔法で校舎の屋根の上に飛び移る。実践魔法で空気の塊を足元に出現させて飛んでいるだけなのだが、彼の足元では驚きの喚声が上がった。
「わっ。なんか浮いていないか?」
「箒なしで?」
「あれ、ディアソムニア寮じゃね?」
「なんで飛べるんだよ。こわ……」
リリアはぐっと拳を握り、眷属たちの視界を頼りながらくまなく校舎中を見て回る。この校舎から外につながる道はただ一つ。しかし、彼女は鏡の間の近くにもいない。
「魔力を辿れれば、楽なんじゃが」
知らず口にしていた言葉を脳内で反芻して、リリアは歯噛みした。魔力のない彼女の痕跡が辿れないくらいで弱音を吐くなど、今までの自分にはありえない。口元に手を当てた彼は、鋭く息を吐いた。
見上げたマゼンタはナイトレイブンカレッジを見下ろしている。春を告げる生ぬるい風が、彼の頬を叩いた。運動場では飛行術をしているオクタヴィネルの生徒が箒にしがみついたり、バルガスに「筋肉が足りん!」と言われて追加で走らされているケイトがいる。魔法薬学室ではクルーウェルが薬品を掲げて説明している。グリムがエースたちと騒いでいるところをクルーウェルの鞭が打つ。体育館ではジャミルがバスケ部で鍛えた反射神経でパスを繰り出すが、フロイドがそれを掠めとる。白熱した空気に、誰もが皆息を飲んでいるようだ。オンボロ寮では彼女の名前を呼びながら探し回るゴーストしかいない。生憎物体はつかめないので、呼びかけることしかできないようだ。植物園ではレオナが温帯ゾーンで居眠りをして授業からふけている。その近くでは植物を採取に来たセベクとエペルがいる。図書室には課題図書を借りに来たリドルが数センチ頭上にある本に手を伸ばしている。それをジェイドが代わりに取ったようで、他に怪しい影は見当たらない。学園の裏の森は相変わらず静かだ。木の枝が腕のようにだらりと垂れている。動物たちがころころと野原を駆けまわり、くるくると首を回している。購買部ではサムがリリアも見たことのない不思議な人形を生徒に見せている。食えない笑顔で売りつけているのか、生徒たちも若干引き気味だ。
む、とリリアは目を見開いた。学園裏の森の枝を眷属の目でしっかりと見る。腕のように垂れていると見えた枝は、明らかに他の枝に比べて角度がおかしい。彼の目にはその枝が徐々に人の腕のように思えてきた。
すぐさま彼は屋根を蹴り上げ、宙へ身を投げる。足元にいた生徒たちは、徐々に大きくなっていくその人影に巻き込まれまいと予測される落下地点から逃げ出す。しかし、リリアはすぐさま足元に空気を集約し、まるでトランポリンのようにそれを踏みつけさらに跳躍する。三度それを繰り返したリリアは、森の地面に音もなく着地すると残像だけを残して走り出した。彼が駆け抜けたあとには、枝たちがざわめく。風に攫われた木の葉は瞬く間に彼の足跡のように続いた。
眷属の反応が近い。リリアは呼吸が乱れる前に息を止めた。でなければ無駄な力を使う、と数多の戦場を駆け抜けてきた体は覚えているからだ。彼が予想だにしなかった場所に、たおやかな腕が一本の木から垂れ下がっている。どうか胴体と繋がっていてくれと彼が懇願する間もなく、全貌が見えた。
幾重にも折り重なっている枝たちの間に体を挟んだユウは、目を閉じている。かろうじて両足と首がおさまりのいいところにあったおかげで、引っかかっているらしい。
「ユウ!」
リリアはすぐさま飛び上がり、彼女の体を両腕にしっかりと抱きかかえる。見たところ、怪我もない。呪いをかけられたようにも見えない上、呼吸は正常だ。
「眠っておるじゃと……?」
思わず瞬きをした彼の瞳はゆっくりと開かれたユウの瞳と交わった。初めは口元で小さく、次に大きくあくびをしたユウは何度か目をまたたかせた。
「あれ? リリア先輩。なんでここにいるんですか?」
「それはこっちの台詞じゃ。お主こそ、なぜ学園裏の森で寝ておる」
「森? 私は確かベッドで寝てたはずじゃ」
ユウは首を左右に振って視界を確認すると、そのままリリアの顔を見返した。先ほどとは異なり、縋りつくように不安の色をあらわにした目で見上げている。
「リリア先輩……私、誘拐でもされましたか?」
「考えたくはないが、それはありうる。しかし、先ずはお主の無事を喜ぶとしよう」
抱えている腕に力を入れ、リリアは自分の頬を彼女の額に押し付ける。彼の幼い行動にユウは目を丸くしながらも、彼の胸に縋りついた。
「ユウ! どこじゃ」
学園内しか飛び回れないリリアは、オンボロ寮をはじめとする全ての寮へ足を運んでいた。鏡は転送魔法そのものなので、鏡舎を中心に彼は飛び回る。しかし、それでも彼の目の前に恋人の姿は現れなかった。まさか本当に帰ってしまったのだろうか。「これからもリリア先輩のお傍にいさせてください」そう慎ましく笑った彼女を疑いたくない気持ちと相反して、彼の捜索で彼女の姿は一向に見つからない。
転送魔法で校舎の屋根の上に飛び移る。実践魔法で空気の塊を足元に出現させて飛んでいるだけなのだが、彼の足元では驚きの喚声が上がった。
「わっ。なんか浮いていないか?」
「箒なしで?」
「あれ、ディアソムニア寮じゃね?」
「なんで飛べるんだよ。こわ……」
リリアはぐっと拳を握り、眷属たちの視界を頼りながらくまなく校舎中を見て回る。この校舎から外につながる道はただ一つ。しかし、彼女は鏡の間の近くにもいない。
「魔力を辿れれば、楽なんじゃが」
知らず口にしていた言葉を脳内で反芻して、リリアは歯噛みした。魔力のない彼女の痕跡が辿れないくらいで弱音を吐くなど、今までの自分にはありえない。口元に手を当てた彼は、鋭く息を吐いた。
見上げたマゼンタはナイトレイブンカレッジを見下ろしている。春を告げる生ぬるい風が、彼の頬を叩いた。運動場では飛行術をしているオクタヴィネルの生徒が箒にしがみついたり、バルガスに「筋肉が足りん!」と言われて追加で走らされているケイトがいる。魔法薬学室ではクルーウェルが薬品を掲げて説明している。グリムがエースたちと騒いでいるところをクルーウェルの鞭が打つ。体育館ではジャミルがバスケ部で鍛えた反射神経でパスを繰り出すが、フロイドがそれを掠めとる。白熱した空気に、誰もが皆息を飲んでいるようだ。オンボロ寮では彼女の名前を呼びながら探し回るゴーストしかいない。生憎物体はつかめないので、呼びかけることしかできないようだ。植物園ではレオナが温帯ゾーンで居眠りをして授業からふけている。その近くでは植物を採取に来たセベクとエペルがいる。図書室には課題図書を借りに来たリドルが数センチ頭上にある本に手を伸ばしている。それをジェイドが代わりに取ったようで、他に怪しい影は見当たらない。学園の裏の森は相変わらず静かだ。木の枝が腕のようにだらりと垂れている。動物たちがころころと野原を駆けまわり、くるくると首を回している。購買部ではサムがリリアも見たことのない不思議な人形を生徒に見せている。食えない笑顔で売りつけているのか、生徒たちも若干引き気味だ。
む、とリリアは目を見開いた。学園裏の森の枝を眷属の目でしっかりと見る。腕のように垂れていると見えた枝は、明らかに他の枝に比べて角度がおかしい。彼の目にはその枝が徐々に人の腕のように思えてきた。
すぐさま彼は屋根を蹴り上げ、宙へ身を投げる。足元にいた生徒たちは、徐々に大きくなっていくその人影に巻き込まれまいと予測される落下地点から逃げ出す。しかし、リリアはすぐさま足元に空気を集約し、まるでトランポリンのようにそれを踏みつけさらに跳躍する。三度それを繰り返したリリアは、森の地面に音もなく着地すると残像だけを残して走り出した。彼が駆け抜けたあとには、枝たちがざわめく。風に攫われた木の葉は瞬く間に彼の足跡のように続いた。
眷属の反応が近い。リリアは呼吸が乱れる前に息を止めた。でなければ無駄な力を使う、と数多の戦場を駆け抜けてきた体は覚えているからだ。彼が予想だにしなかった場所に、たおやかな腕が一本の木から垂れ下がっている。どうか胴体と繋がっていてくれと彼が懇願する間もなく、全貌が見えた。
幾重にも折り重なっている枝たちの間に体を挟んだユウは、目を閉じている。かろうじて両足と首がおさまりのいいところにあったおかげで、引っかかっているらしい。
「ユウ!」
リリアはすぐさま飛び上がり、彼女の体を両腕にしっかりと抱きかかえる。見たところ、怪我もない。呪いをかけられたようにも見えない上、呼吸は正常だ。
「眠っておるじゃと……?」
思わず瞬きをした彼の瞳はゆっくりと開かれたユウの瞳と交わった。初めは口元で小さく、次に大きくあくびをしたユウは何度か目をまたたかせた。
「あれ? リリア先輩。なんでここにいるんですか?」
「それはこっちの台詞じゃ。お主こそ、なぜ学園裏の森で寝ておる」
「森? 私は確かベッドで寝てたはずじゃ」
ユウは首を左右に振って視界を確認すると、そのままリリアの顔を見返した。先ほどとは異なり、縋りつくように不安の色をあらわにした目で見上げている。
「リリア先輩……私、誘拐でもされましたか?」
「考えたくはないが、それはありうる。しかし、先ずはお主の無事を喜ぶとしよう」
抱えている腕に力を入れ、リリアは自分の頬を彼女の額に押し付ける。彼の幼い行動にユウは目を丸くしながらも、彼の胸に縋りついた。