好きなれば語る口に熱がこもる
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セベクからすれば人間とはあまりに愚かで弱い存在だ。その人間に部類する彼女を選んだ理由を、彼はいまだに答えられない。あえて言うとしたら、理解が周囲の人間よりもあるからということになる。例えば、先日デートと称してオンボロ寮に遊びに行った時だ。
彼女はセベクが苦手だというブラックコーヒーを封印して、コーヒー牛乳を出してくれた。「話が分かっているじゃないか」とセベクは自慢げに笑う。「つい最近飲めるようになったんだ」鼻高々に甘党であることを話している彼に、ユウはにっこりと笑う。「良かったね。ブラックコーヒーまであとちょっとだ」ユウの言葉にますます気を良くしたセベクは、さっそくデートを始めることにした。
「若様はそれはそれは」
英雄の話を物語る吟遊詩人のように、セベクの声はその場にマレウスの活躍をありありと思い浮かばせる。ユウはその話を一つ一つ聞きながら相槌を打つ。
「ふんふん」
「そして、若様のこういうところがうんぬん」
「ほお」
こうして、二人のデートは日が暮れるまで続くのである。
*
ある放課後、エースとデュース、そしてセベクが空き教室を貸し切りの状態で話し込んでいた。テスト期間ということで部活もない。暇だという気分と、彼女と付き合い始めたというセベクにユウの親友として事情を聴きたいという好奇心が二人にあった。しかし、エースたちは先ほどから聞かされている内容が、どうしても自分たちの知っているデートではないと頭を抱えている。一通り話し終えたセベクは、一息ついて腕を組んだ。
「……で、デートの終わりだ」
「いやそれデートじゃねえよ!」
「ただのドラコニア先輩自慢だ……」
思わず机を叩いたエースの隣で、デュースが諦めたように頭に手を当て目を閉じる。彼らが知るユウはそもそも自分の話を良く話すタイプだ。その上興味もないディアソムニア寮の寮長の話を黙って聞いているとは、とても思えなかった。
「それ、本当にユウが喜んで聞いてんの?」
エースが怪訝な顔で尋ねると、セベクが犬歯をむき出しにした。
「当たり前だろう!」
「ユウがそれを自分から聞きたいと言ってるのか?」
デュースがより的確に尋ねると、セベクの表情は少し曇る。彼は自らが望むままに話していたが、彼女は一度も自分から聞きたいとは言わなかった。それに今更気づいたセベクは、先ほどの威勢を失って、声量が落ちた。
「そんなことは……言わないが」
「そこがだめだって! 絶対ユウは退屈に思ってるだろ」
「な! 若様の話のどこが退屈なんだ!」
エースに思わず反論したセベクだが、その胸にふと不安がよぎる。もし本当にユウが自分との時間を退屈と思っていたなら。そう考えるだけで、彼の足元にぽっかりと穴が開いたような気分になった。
*
とはいうものの、ユウが退屈して聞いているようにも見えない。しかし、彼女は気遣いができる人間だから、と思考は堂々巡りを繰り返し、彼はいつの間にか寮に戻ってきていた。珍しく廊下にまで笑い声が聞こえる。セベクは談話室の方からだと気づき、大きな扉を押し開けた。
「あははっ! シルバー先輩、面白いですね!」
楽しそうに笑い声を上げているのは、ユウだ。その隣には同郷のよしみで同じく護衛のシルバーがいる。いかにも楽しそうな雰囲気に、セベクの腹に言いようのないものがぐつぐつと煮えたぎった。
確かに百歩譲ってユウが自分から聞きたいとまでは言っていないマレウスの武勇伝を話したことは認める。それを彼女が心から楽しんでいるのか分からないことも認める。だが、自分よりも他の男と楽しそうに話すのは気に食わない。それもシルバー相手に出し抜かれるような真似をされては、彼の闘争本能が否応にも燃え上がらざるを得なかった。
楽しそうに笑っているユウに、シルバーは首をかしげて言う。
「そうだろうか? お前の感性が豊かなんだと思うが」
セベクはそんな当たり前のことを口にするシルバーに、かちんと怒りの着火剤をつけられた。燃え上がった心のまま、セベクは二人の間に割って入る。
「当たり前だ!」
「え、セベク?」
驚いて見上げることしかできないユウを隠すように、セベクはシルバーの前に立ちはだかる。腕を組んだセベクに阻まれ、ユウは彼の大きな背中を見つめることしかできない。見下ろしてくるアンティークゴールドの瞳は愚か者めとシルバーを非難している。
「ユウの感受性が豊かなど……当たり前だろう! 何を今更言っているんだ。シルバー。お前は分かっていないようだから、この際特別に教えてやろう。彼女は自ら負った判断に責任を持つ強さや、どんな場面でも動じない芯がある。それに、僕の弱点も見抜く視点の鋭さ……悔しいが正確無比だ。その上、彼女は勉学に励む勤勉さを持ち合わせているうえに、周囲に分け与える優しさもある。人間という種族である以上ひ弱ではあるが、母のような夜の眷属に臆しない強い心の持ち主だ。そういうところが僕は好ましいと思う。だが強さだけでなく、彼女は愛情深い。僕のことを気遣って、この前はコーヒー牛乳も出してくれた。ブラックコーヒーはいつか絶対飲めるようになるとも励ましてくれた。そういう彼女の優しさに日々救われていると言っても」
「セベク!」
突然背中にぶつけられた言葉に、セベクは振り返った。彼女のいいところを言葉で表すには、まだまだ言い足りない。
「なんだ? 突然大きな声を出すな」
「そ……それ以上言わなくてもいい……。わ、わかった。わかったから……」
とぎれとぎれになった言葉にセベクは若干の不審を覚える。まさか体調でも悪いのだろうか。セベクはすかさず恋人の顔を見つめた。
「どうした? なぜ顔が赤い」
「――聞かないで!」
セベクに素直に尋ねられたユウは、脱兎のごとくその場から逃走した。彼女の小さな背中が遠のいていったことに、セベクは疑問を抱く。彼からすれば全く悪いことなど言っていない。むしろ、マレウスと同じ熱量で話せるからシルバーに語ってやっただけなのだ。それをあのように顔を赤くして逃げる必要がどこにあるだろう。
「いったい何なんだ」
そんなセベクを見ているオーロラシルバーの瞳は、若干の憐れみと呆れの色を滲ませている。ため息を吐いたシルバーは、セベクに注意した。
「流石にあれはかわいそうだと思うぞ」
END
彼女はセベクが苦手だというブラックコーヒーを封印して、コーヒー牛乳を出してくれた。「話が分かっているじゃないか」とセベクは自慢げに笑う。「つい最近飲めるようになったんだ」鼻高々に甘党であることを話している彼に、ユウはにっこりと笑う。「良かったね。ブラックコーヒーまであとちょっとだ」ユウの言葉にますます気を良くしたセベクは、さっそくデートを始めることにした。
「若様はそれはそれは」
英雄の話を物語る吟遊詩人のように、セベクの声はその場にマレウスの活躍をありありと思い浮かばせる。ユウはその話を一つ一つ聞きながら相槌を打つ。
「ふんふん」
「そして、若様のこういうところがうんぬん」
「ほお」
こうして、二人のデートは日が暮れるまで続くのである。
*
ある放課後、エースとデュース、そしてセベクが空き教室を貸し切りの状態で話し込んでいた。テスト期間ということで部活もない。暇だという気分と、彼女と付き合い始めたというセベクにユウの親友として事情を聴きたいという好奇心が二人にあった。しかし、エースたちは先ほどから聞かされている内容が、どうしても自分たちの知っているデートではないと頭を抱えている。一通り話し終えたセベクは、一息ついて腕を組んだ。
「……で、デートの終わりだ」
「いやそれデートじゃねえよ!」
「ただのドラコニア先輩自慢だ……」
思わず机を叩いたエースの隣で、デュースが諦めたように頭に手を当て目を閉じる。彼らが知るユウはそもそも自分の話を良く話すタイプだ。その上興味もないディアソムニア寮の寮長の話を黙って聞いているとは、とても思えなかった。
「それ、本当にユウが喜んで聞いてんの?」
エースが怪訝な顔で尋ねると、セベクが犬歯をむき出しにした。
「当たり前だろう!」
「ユウがそれを自分から聞きたいと言ってるのか?」
デュースがより的確に尋ねると、セベクの表情は少し曇る。彼は自らが望むままに話していたが、彼女は一度も自分から聞きたいとは言わなかった。それに今更気づいたセベクは、先ほどの威勢を失って、声量が落ちた。
「そんなことは……言わないが」
「そこがだめだって! 絶対ユウは退屈に思ってるだろ」
「な! 若様の話のどこが退屈なんだ!」
エースに思わず反論したセベクだが、その胸にふと不安がよぎる。もし本当にユウが自分との時間を退屈と思っていたなら。そう考えるだけで、彼の足元にぽっかりと穴が開いたような気分になった。
*
とはいうものの、ユウが退屈して聞いているようにも見えない。しかし、彼女は気遣いができる人間だから、と思考は堂々巡りを繰り返し、彼はいつの間にか寮に戻ってきていた。珍しく廊下にまで笑い声が聞こえる。セベクは談話室の方からだと気づき、大きな扉を押し開けた。
「あははっ! シルバー先輩、面白いですね!」
楽しそうに笑い声を上げているのは、ユウだ。その隣には同郷のよしみで同じく護衛のシルバーがいる。いかにも楽しそうな雰囲気に、セベクの腹に言いようのないものがぐつぐつと煮えたぎった。
確かに百歩譲ってユウが自分から聞きたいとまでは言っていないマレウスの武勇伝を話したことは認める。それを彼女が心から楽しんでいるのか分からないことも認める。だが、自分よりも他の男と楽しそうに話すのは気に食わない。それもシルバー相手に出し抜かれるような真似をされては、彼の闘争本能が否応にも燃え上がらざるを得なかった。
楽しそうに笑っているユウに、シルバーは首をかしげて言う。
「そうだろうか? お前の感性が豊かなんだと思うが」
セベクはそんな当たり前のことを口にするシルバーに、かちんと怒りの着火剤をつけられた。燃え上がった心のまま、セベクは二人の間に割って入る。
「当たり前だ!」
「え、セベク?」
驚いて見上げることしかできないユウを隠すように、セベクはシルバーの前に立ちはだかる。腕を組んだセベクに阻まれ、ユウは彼の大きな背中を見つめることしかできない。見下ろしてくるアンティークゴールドの瞳は愚か者めとシルバーを非難している。
「ユウの感受性が豊かなど……当たり前だろう! 何を今更言っているんだ。シルバー。お前は分かっていないようだから、この際特別に教えてやろう。彼女は自ら負った判断に責任を持つ強さや、どんな場面でも動じない芯がある。それに、僕の弱点も見抜く視点の鋭さ……悔しいが正確無比だ。その上、彼女は勉学に励む勤勉さを持ち合わせているうえに、周囲に分け与える優しさもある。人間という種族である以上ひ弱ではあるが、母のような夜の眷属に臆しない強い心の持ち主だ。そういうところが僕は好ましいと思う。だが強さだけでなく、彼女は愛情深い。僕のことを気遣って、この前はコーヒー牛乳も出してくれた。ブラックコーヒーはいつか絶対飲めるようになるとも励ましてくれた。そういう彼女の優しさに日々救われていると言っても」
「セベク!」
突然背中にぶつけられた言葉に、セベクは振り返った。彼女のいいところを言葉で表すには、まだまだ言い足りない。
「なんだ? 突然大きな声を出すな」
「そ……それ以上言わなくてもいい……。わ、わかった。わかったから……」
とぎれとぎれになった言葉にセベクは若干の不審を覚える。まさか体調でも悪いのだろうか。セベクはすかさず恋人の顔を見つめた。
「どうした? なぜ顔が赤い」
「――聞かないで!」
セベクに素直に尋ねられたユウは、脱兎のごとくその場から逃走した。彼女の小さな背中が遠のいていったことに、セベクは疑問を抱く。彼からすれば全く悪いことなど言っていない。むしろ、マレウスと同じ熱量で話せるからシルバーに語ってやっただけなのだ。それをあのように顔を赤くして逃げる必要がどこにあるだろう。
「いったい何なんだ」
そんなセベクを見ているオーロラシルバーの瞳は、若干の憐れみと呆れの色を滲ませている。ため息を吐いたシルバーは、セベクに注意した。
「流石にあれはかわいそうだと思うぞ」
END
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