夫婦は一日にしてならず
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ユウはスマホで通話ボタンを押し、狭い画面をシルバーと覗き込む。賢者の島と通話が繋がった先の画面では、共に卒業したグリムがオンボロ寮でゴーストたちと「これ繋がってんのか?」とスマホを触っていた。
「グリム? 久しぶりー」
ゴーストが「グリ坊、乱暴にしちゃダメだって!」と叫んだところを見るに、彼お得意の火の魔法で何かしようとしたのだろう。
「聞こえてる? そっちは見えないの?」と聞くと「ユウー!」と真っ先にシアンの瞳が画面を埋め尽くした。ユウが嬉しそうな彼に頬を緩める。しかし、緩みきった表情をしたグリムは先ほどの喜びの声はどこへやら、偉そうにロッキングチェアにふんぞり返った。
「お前、結婚しても俺様に連絡するのかよ。暇なのか?」
「違う違う。グリムに相談したいことがあって」
「ふな?」と首を傾げたグリムに、ユウはシルバ―への敬語と敬称を抑止するペナルティについてあらかた経緯を話した。グリムはふむふむと頷いて、肉球で頬を軽く叩く。
「そーいうなら、やっぱりあの銀髪野郎の言うこと聞くのがいーんじゃねえのか? おめーが悪いことしてんだから、銀髪野郎のお願いを一つ聞くとかいいと思うぞ」
その手があったか、とシルバーが頷く。
「いい案だ。ぜひそうしたい」
「ちょっと! シルバー!」
思わず敬語も敬称も外れたユウに、グリムとゴーストたちは拍手を送った。
「おっ、さっそくいい感じじゃねえか。んじゃ、俺様はこれからツナ缶タイムだから、またなー」
「グリム! ……切れちゃった」
電源が落ちた画面を不満げに見つめるユウに、シルバーは首を傾げた。
「俺はそれで満足だが、お前は不満じゃないか?」
「大丈夫で……大丈夫!」
一瞬言いかけたユウは危ない危ないとため息を吐く。この世の良心が煮込まれて体現したようなシルバーとはいえ、罰ゲームに何をされるか分からない。なにより愛おしい彼の願い事なら、彼女はそれを拒むことなどできないのだ。
「すまない」
ふわりと包んできた腕に、ユウは目を瞠った。そろりと視線を上げた先のオーロラシルバーが、驚いた彼女を映している。
「お前に名前で呼ばれたくて始まったことだ。俺のわがままに、無理に付き合う必要はない」
消え入りそうな語尾に、無理強いをするまいと自制する彼の葛藤が見える。ユウは、膝の上の拳を強く握りしめ、彼の背に手を這わせた。
「……わ、私だって、貴方の妻なんですから! 名前くらい呼べます! あ、呼べる!」
真っ直ぐ言い切った彼女の耳元に、くすりと笑い声が触れる。絶対に言えないと軽く見られたユウは、頬をむくれた。「し」とたった一言、彼女の桜色の唇から零れる。抱きしめてくる腕が石のように固まった。
その先を言わなければいけないと思うのに言ってしまっては取り返しのつかないことが起きそうで、ユウの息がつまる。彼女の背中を締め付けた腕が、その先を吐かせた。
「し、シルバー……」
案外すんなりと零れた夫の名前は馴染みがなくて、彼女はこのまま舌が焼き切れるような気がした。シルバーはユウの髪に熱がこもった頬を押し付ける。彼とそのまま溶け込んでいこうと鍛え上げられた胸に顔を埋めている彼女の真っ赤な耳が、彼の見下ろした先で咲いていた。花弁のようなそれに、シルバーは小さく笑った。
「名前だけで照れるのか?」
「尊敬している人を呼び捨てにするのは気が引けるんですよ……。あ、気が引ける!」
急いで言い直した彼女は「ゲームのようで楽しいです!」と笑い声をあげる。頬を預けた頭から、くせっ毛がシルバーの顔を撫でた。
「お前のペースでいい。少しずつ、夫婦になろう」
「グリム? 久しぶりー」
ゴーストが「グリ坊、乱暴にしちゃダメだって!」と叫んだところを見るに、彼お得意の火の魔法で何かしようとしたのだろう。
「聞こえてる? そっちは見えないの?」と聞くと「ユウー!」と真っ先にシアンの瞳が画面を埋め尽くした。ユウが嬉しそうな彼に頬を緩める。しかし、緩みきった表情をしたグリムは先ほどの喜びの声はどこへやら、偉そうにロッキングチェアにふんぞり返った。
「お前、結婚しても俺様に連絡するのかよ。暇なのか?」
「違う違う。グリムに相談したいことがあって」
「ふな?」と首を傾げたグリムに、ユウはシルバ―への敬語と敬称を抑止するペナルティについてあらかた経緯を話した。グリムはふむふむと頷いて、肉球で頬を軽く叩く。
「そーいうなら、やっぱりあの銀髪野郎の言うこと聞くのがいーんじゃねえのか? おめーが悪いことしてんだから、銀髪野郎のお願いを一つ聞くとかいいと思うぞ」
その手があったか、とシルバーが頷く。
「いい案だ。ぜひそうしたい」
「ちょっと! シルバー!」
思わず敬語も敬称も外れたユウに、グリムとゴーストたちは拍手を送った。
「おっ、さっそくいい感じじゃねえか。んじゃ、俺様はこれからツナ缶タイムだから、またなー」
「グリム! ……切れちゃった」
電源が落ちた画面を不満げに見つめるユウに、シルバーは首を傾げた。
「俺はそれで満足だが、お前は不満じゃないか?」
「大丈夫で……大丈夫!」
一瞬言いかけたユウは危ない危ないとため息を吐く。この世の良心が煮込まれて体現したようなシルバーとはいえ、罰ゲームに何をされるか分からない。なにより愛おしい彼の願い事なら、彼女はそれを拒むことなどできないのだ。
「すまない」
ふわりと包んできた腕に、ユウは目を瞠った。そろりと視線を上げた先のオーロラシルバーが、驚いた彼女を映している。
「お前に名前で呼ばれたくて始まったことだ。俺のわがままに、無理に付き合う必要はない」
消え入りそうな語尾に、無理強いをするまいと自制する彼の葛藤が見える。ユウは、膝の上の拳を強く握りしめ、彼の背に手を這わせた。
「……わ、私だって、貴方の妻なんですから! 名前くらい呼べます! あ、呼べる!」
真っ直ぐ言い切った彼女の耳元に、くすりと笑い声が触れる。絶対に言えないと軽く見られたユウは、頬をむくれた。「し」とたった一言、彼女の桜色の唇から零れる。抱きしめてくる腕が石のように固まった。
その先を言わなければいけないと思うのに言ってしまっては取り返しのつかないことが起きそうで、ユウの息がつまる。彼女の背中を締め付けた腕が、その先を吐かせた。
「し、シルバー……」
案外すんなりと零れた夫の名前は馴染みがなくて、彼女はこのまま舌が焼き切れるような気がした。シルバーはユウの髪に熱がこもった頬を押し付ける。彼とそのまま溶け込んでいこうと鍛え上げられた胸に顔を埋めている彼女の真っ赤な耳が、彼の見下ろした先で咲いていた。花弁のようなそれに、シルバーは小さく笑った。
「名前だけで照れるのか?」
「尊敬している人を呼び捨てにするのは気が引けるんですよ……。あ、気が引ける!」
急いで言い直した彼女は「ゲームのようで楽しいです!」と笑い声をあげる。頬を預けた頭から、くせっ毛がシルバーの顔を撫でた。
「お前のペースでいい。少しずつ、夫婦になろう」