夫婦は一日にしてならず
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「ユウ、そろそろ俺は限界だ」
頑として譲るつもりのないオーロラシルバーがギラリと輝く。ユウはその瞳に辟易して、思わず視線を左に逸らした。
「いや……先輩のことをそうそう簡単に見方変えられないですよ」
弱弱しく反論した彼女に、シルバーは机の上の彼女の手を握る。彼の澄んだ瞳はしきりにユウに訴えかけている。シルバーの呻くような低い声が、夕日の射したリビングに響いた。
「その敬語と敬称は何とかならないか?」
ユウは先ほどからこの一点張りを続けるシルバーに、目を閉じて耐え続けていた。
そもそもどうしてこうなったのかと言えば、遡ること三十分前。ひと月経ってここの暮らしには慣れたかとシルバーに尋ねられたことから始まる。慣れてはいないが、徐々に順応していくことはできるとユウが前向きに返した時だった。シルバーが突然無言になったかと思うと、真剣な眼差しでユウを見つめた。「いつまでも俺に敬称と敬語を使う必要はない」至極当たり前に使っていたせいで、呼び方に気を遣うことすらユウは忘れていた。
そして、話は冒頭へ戻る。
「な、なんとかって言われましても……」
「俺はお前の夫になった。家族に敬語……は使うとしても、俺はお前に遠慮されている気がしてあまり嬉しくない」
「でも今更じゃないですか……?」とユウなりに抵抗を必死に見せていた。ただでさえシルバーと会話できるだけで胸が詰まりそうなのだ。今まで敬称と敬語があったから、喉を詰まらせるような多幸感は緩和されていた。その装甲すら剥がれてしまえば、幸せで頭が湧く気がする。
シルバーは真剣な顔で考え込むと、何やらひらめいたと人差し指を立てた。
「……敬語を使う度にペナルティを設けるのはどうだ」
これはユウの言い分を聞くつもりはなさそうだ、と哀愁を瞳に漂わせて彼女は頷いた。
「たとえば何がありますか?」
シルバーが再び顎に手を当てて考え込む。唇に沿って指を這わせる憂いに満ちた表情にユウが見惚れていると、彼の顔は突然険しくなった。苦肉の策と言わんばかりの雰囲気に緊迫感がリビングに広がる。ユウは思わず唾を飲んだ。
「……キスを減らす」
シルバーの決死の策に、ユウは両腕を交差させて首を横に振った。彼女の表情は地蔵よりも硬く、悲哀に満ちている。
「そんなことして無事で済まないのは先輩もですよ」
「そうだな。自分で想像して落ち込んでしまった」
では没案だと先ほどの発言を水に流したユウは挙手した。
「はい! 100マドルを貯金!」
「それはお前の趣味だろう。効果がない」
シルバーの鋭い指摘にぎくりとユウは肩をすくめる。シルバーは呆れたようにため息を吐いた。
「なるべく自分が進んでしたくないことを考えるんだ」
ユウは将来設計とシルバーで埋め尽くされた脳内を必死に回転させた。うんうんと呻き声を上げながら、頭上に渦巻きをいくつも並べる彼女と沈思黙考を続けているうちに眠り出したシルバーの間を西日が通り過ぎていく。
薄暗くなった部屋に、乾いた音が響いた。シルバーが顔を上げた先には、頭上で電球を光らせているユウがいる。両手を合わせていた彼女は、ようやく思いついた名案に瞳を輝かせていた。
「進んでしたくないこと、ありました!」
「……聞かせてくれ」
「別居です!」
ユウが自信満々に放ったその一言で、室内の気温が二度下がった。シルバーがなぜそんな酷いことをするんだと捨て犬のような顔をしているのを見て、ユウはそっと首を横に振る。
「冗談です。私も耐えられないので、しませんよ」
「よかった。なら違うものだ」
しかし二人の討論は平行線のまま、腹の虫が鳴きだした。シルバーがマジカルペンを振って、家の照明をつける。明るくなった天井を見上げた先に名案らしきものは浮かんでこない。
「はーあ、難しいです」
「難しいな」
どうにかして敬称と敬語をやめさせることはできないかと一緒になって苦しんでいるこの新婚夫婦は、とある友人に頼ることにした。
頑として譲るつもりのないオーロラシルバーがギラリと輝く。ユウはその瞳に辟易して、思わず視線を左に逸らした。
「いや……先輩のことをそうそう簡単に見方変えられないですよ」
弱弱しく反論した彼女に、シルバーは机の上の彼女の手を握る。彼の澄んだ瞳はしきりにユウに訴えかけている。シルバーの呻くような低い声が、夕日の射したリビングに響いた。
「その敬語と敬称は何とかならないか?」
ユウは先ほどからこの一点張りを続けるシルバーに、目を閉じて耐え続けていた。
そもそもどうしてこうなったのかと言えば、遡ること三十分前。ひと月経ってここの暮らしには慣れたかとシルバーに尋ねられたことから始まる。慣れてはいないが、徐々に順応していくことはできるとユウが前向きに返した時だった。シルバーが突然無言になったかと思うと、真剣な眼差しでユウを見つめた。「いつまでも俺に敬称と敬語を使う必要はない」至極当たり前に使っていたせいで、呼び方に気を遣うことすらユウは忘れていた。
そして、話は冒頭へ戻る。
「な、なんとかって言われましても……」
「俺はお前の夫になった。家族に敬語……は使うとしても、俺はお前に遠慮されている気がしてあまり嬉しくない」
「でも今更じゃないですか……?」とユウなりに抵抗を必死に見せていた。ただでさえシルバーと会話できるだけで胸が詰まりそうなのだ。今まで敬称と敬語があったから、喉を詰まらせるような多幸感は緩和されていた。その装甲すら剥がれてしまえば、幸せで頭が湧く気がする。
シルバーは真剣な顔で考え込むと、何やらひらめいたと人差し指を立てた。
「……敬語を使う度にペナルティを設けるのはどうだ」
これはユウの言い分を聞くつもりはなさそうだ、と哀愁を瞳に漂わせて彼女は頷いた。
「たとえば何がありますか?」
シルバーが再び顎に手を当てて考え込む。唇に沿って指を這わせる憂いに満ちた表情にユウが見惚れていると、彼の顔は突然険しくなった。苦肉の策と言わんばかりの雰囲気に緊迫感がリビングに広がる。ユウは思わず唾を飲んだ。
「……キスを減らす」
シルバーの決死の策に、ユウは両腕を交差させて首を横に振った。彼女の表情は地蔵よりも硬く、悲哀に満ちている。
「そんなことして無事で済まないのは先輩もですよ」
「そうだな。自分で想像して落ち込んでしまった」
では没案だと先ほどの発言を水に流したユウは挙手した。
「はい! 100マドルを貯金!」
「それはお前の趣味だろう。効果がない」
シルバーの鋭い指摘にぎくりとユウは肩をすくめる。シルバーは呆れたようにため息を吐いた。
「なるべく自分が進んでしたくないことを考えるんだ」
ユウは将来設計とシルバーで埋め尽くされた脳内を必死に回転させた。うんうんと呻き声を上げながら、頭上に渦巻きをいくつも並べる彼女と沈思黙考を続けているうちに眠り出したシルバーの間を西日が通り過ぎていく。
薄暗くなった部屋に、乾いた音が響いた。シルバーが顔を上げた先には、頭上で電球を光らせているユウがいる。両手を合わせていた彼女は、ようやく思いついた名案に瞳を輝かせていた。
「進んでしたくないこと、ありました!」
「……聞かせてくれ」
「別居です!」
ユウが自信満々に放ったその一言で、室内の気温が二度下がった。シルバーがなぜそんな酷いことをするんだと捨て犬のような顔をしているのを見て、ユウはそっと首を横に振る。
「冗談です。私も耐えられないので、しませんよ」
「よかった。なら違うものだ」
しかし二人の討論は平行線のまま、腹の虫が鳴きだした。シルバーがマジカルペンを振って、家の照明をつける。明るくなった天井を見上げた先に名案らしきものは浮かんでこない。
「はーあ、難しいです」
「難しいな」
どうにかして敬称と敬語をやめさせることはできないかと一緒になって苦しんでいるこの新婚夫婦は、とある友人に頼ることにした。
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