前編
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学生が溢れかえる食堂の一角で、サンドイッチを前に胸を押さえて深呼吸をしている学生がいた。そのブレザーには寮章がない。ユウは爆ぜそうな心臓に手を当て、長い息を吐く。脳裏で煌いたオーロラシルバーの瞳が彼女を射抜く。再び忙しなくなった心臓に辟易して、彼女はくしゃりを前髪をかき上げた。
「あーもう、視線が合ったくらいで何を期待してるんだ」
「大きな独り言だな」
ギャッと飛び退いた彼女の背後に、ミストグリーンの髪をした学生が立っている。無言で隣の席を空けたユウが「リリア先輩は?」と尋ねると、「お一人で散歩されたいそうだ」と返された。セベクは空いたそのスペースに体を押し込み、どうにか座る。「ここは狭い」と彼が文句を言うと、「お昼に話すのは今日でお終いだから大人しくしなさい」とユウはサンドイッチを前に手を合わせた。
頬張ったサンドイッチの優しい味が口の中で広がる。ハムの甘みや卵のふわふわとした触感に舌鼓を打っていると、ユウは自分の制服を指さした。
「セベク、洗剤を貸してくれてありがとう」
笑顔で制服を見せつけるユウに、セベクの脳内はつい一週間前に巻き戻る。彼がディアソムニア寮で護衛のたしなみとして読書をしているとけたたましくスマホが鳴った。何の用だと彼が通話に出れば、洗剤をたまたま切らしてしまったから分けてほしいと涙声で訴えるユウの声とグリムの騒ぐ声が思い出した彼の耳元でした。
全くだと頷いたセベクは、怪訝に顔を顰める。
「あんな簡単な魔法でなぜ制服を汚せるんだ」
「グリムが途中で色変え魔法の練習に飽きてふざけちゃったからだよ。でもおかげ様で、この通り! 汚れは落ちたから安心!」
嬉しそうにしているユウの笑顔に力がない。セベクは小さく息を吐き、アンティークゴールドの瞳を目の前の風景に向ける。
「……まだ、シルバーのことを気にかけているか?」
セベクの隠す気もない質問に、ユウは視線を下げ、肩を縮こまらせた。困ったように笑う彼女の目に薄い膜が張る。
「ていうか、まだ好きだよ」
喧騒にかき消されそうな震える言葉を、彼の耳は拾っていた。
「なら諦めなければいい」
はっきりと告げられた言葉にユウが顔を上げる。セベクは何も聞いていなかったかのように、買っていたメンチカツサンドを頬張っている。咀嚼音しか出さなくなった彼の横顔は、一切ユウの方を向こうとしない。ユウは彼なりに気遣ってくれているのだと思うと、嬉しさで笑顔を滲ませた。
「本当にありがとう」
「ふん、貴様に礼を言われても嬉しくない。だが、受け取っておこう」
「セベクはもう少し素直になってもいいと思うよ?」
普段通り人を見下す物言いになったセベクに、ユウは苦笑を見せた。
「おーいユウ!」
今日は一緒に食事をとらないと言ったグリムが、急いで走ってきた。彼の背中には何やら袋が括りつけられている。ユウとセベクの間に入ってきたグリムは、ぜえぜえと肩で息をしている。
「グリム、一体どうしたの?」
「お前、最近元気なかっただろ?」とグリムが背負っていた袋を下ろす。星のマークが眩しくラッピングされたそれを、グリムはユウに差し出した。
「エースたちとクッキー焼いたんだゾ」
「本当!?」
思わぬプレゼントに、ユウは頬を紅潮させる。そっと包み紙を受け取ったユウは、まるで宝石でも眺めるようにそれを見つめた。
「今食べたい……」
「ここでは学食を作ってくれているゴーストたちに無礼だ。さっさと寮に帰って食べるんだな」
セベクの言葉に「確かにそうかも」と頷いたユウは、改めて彼に向き直った。その目にはまだ寂しさが光っている。
「セベク、話聞いてくれてありがとう」
それでも笑って見せる彼女に踏み込めるほど、セベクは身勝手になれなかった。腕を組んで彼は凛とした横顔をユウに見せつける。
「ふん。次は独り言をオンボロ寮の絵画にでも話すんだな」
「それは名案」
嫌味に笑みを返す彼女に、セベクは辟易した様子で顔をひきつらせた。
「あーもう、視線が合ったくらいで何を期待してるんだ」
「大きな独り言だな」
ギャッと飛び退いた彼女の背後に、ミストグリーンの髪をした学生が立っている。無言で隣の席を空けたユウが「リリア先輩は?」と尋ねると、「お一人で散歩されたいそうだ」と返された。セベクは空いたそのスペースに体を押し込み、どうにか座る。「ここは狭い」と彼が文句を言うと、「お昼に話すのは今日でお終いだから大人しくしなさい」とユウはサンドイッチを前に手を合わせた。
頬張ったサンドイッチの優しい味が口の中で広がる。ハムの甘みや卵のふわふわとした触感に舌鼓を打っていると、ユウは自分の制服を指さした。
「セベク、洗剤を貸してくれてありがとう」
笑顔で制服を見せつけるユウに、セベクの脳内はつい一週間前に巻き戻る。彼がディアソムニア寮で護衛のたしなみとして読書をしているとけたたましくスマホが鳴った。何の用だと彼が通話に出れば、洗剤をたまたま切らしてしまったから分けてほしいと涙声で訴えるユウの声とグリムの騒ぐ声が思い出した彼の耳元でした。
全くだと頷いたセベクは、怪訝に顔を顰める。
「あんな簡単な魔法でなぜ制服を汚せるんだ」
「グリムが途中で色変え魔法の練習に飽きてふざけちゃったからだよ。でもおかげ様で、この通り! 汚れは落ちたから安心!」
嬉しそうにしているユウの笑顔に力がない。セベクは小さく息を吐き、アンティークゴールドの瞳を目の前の風景に向ける。
「……まだ、シルバーのことを気にかけているか?」
セベクの隠す気もない質問に、ユウは視線を下げ、肩を縮こまらせた。困ったように笑う彼女の目に薄い膜が張る。
「ていうか、まだ好きだよ」
喧騒にかき消されそうな震える言葉を、彼の耳は拾っていた。
「なら諦めなければいい」
はっきりと告げられた言葉にユウが顔を上げる。セベクは何も聞いていなかったかのように、買っていたメンチカツサンドを頬張っている。咀嚼音しか出さなくなった彼の横顔は、一切ユウの方を向こうとしない。ユウは彼なりに気遣ってくれているのだと思うと、嬉しさで笑顔を滲ませた。
「本当にありがとう」
「ふん、貴様に礼を言われても嬉しくない。だが、受け取っておこう」
「セベクはもう少し素直になってもいいと思うよ?」
普段通り人を見下す物言いになったセベクに、ユウは苦笑を見せた。
「おーいユウ!」
今日は一緒に食事をとらないと言ったグリムが、急いで走ってきた。彼の背中には何やら袋が括りつけられている。ユウとセベクの間に入ってきたグリムは、ぜえぜえと肩で息をしている。
「グリム、一体どうしたの?」
「お前、最近元気なかっただろ?」とグリムが背負っていた袋を下ろす。星のマークが眩しくラッピングされたそれを、グリムはユウに差し出した。
「エースたちとクッキー焼いたんだゾ」
「本当!?」
思わぬプレゼントに、ユウは頬を紅潮させる。そっと包み紙を受け取ったユウは、まるで宝石でも眺めるようにそれを見つめた。
「今食べたい……」
「ここでは学食を作ってくれているゴーストたちに無礼だ。さっさと寮に帰って食べるんだな」
セベクの言葉に「確かにそうかも」と頷いたユウは、改めて彼に向き直った。その目にはまだ寂しさが光っている。
「セベク、話聞いてくれてありがとう」
それでも笑って見せる彼女に踏み込めるほど、セベクは身勝手になれなかった。腕を組んで彼は凛とした横顔をユウに見せつける。
「ふん。次は独り言をオンボロ寮の絵画にでも話すんだな」
「それは名案」
嫌味に笑みを返す彼女に、セベクは辟易した様子で顔をひきつらせた。