後編
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「というわけで、私は先輩と付き合うことになりました!」
学生でにぎわう食堂で、嬉しそうに一人で拍手をしているユウを、エースは呆れ顔で見つめる。知らないうちに失恋してた上に、その相手と結ばれたというのだ。相手も相手でユウに恋人がいると勘違いしていたらしい。あまりの展開にデュースは難しい表情を浮かべながら、頭から煙を上げていた。
「お前と先輩……壮絶なすれ違いしてるじゃん。一歩間違えればそのままお別れって」
「まあ、そこはグリムが間違えて持って来てくれたおかげだから。本当にありがとう」
ユウが隣に目を配ると、グリムは腰に肉球を当て、胸を張った。
「ま、俺様は初めからわかってて持ってきたんだゾ」
「どうだか」
得意げなグリムに怪訝な視線をエースは送る。ユウは一瞬視界を掠めた銀の髪に目を向けた。瞬時に彼女の頬は色づき、席を立ちあがる。
「あ、先輩だ! シルバー先輩!」
この風景にももう慣れてきたグリムは購買のドリンクを飲む。エースも同じく半目になってため息を吐いた。
「まーた手を振ってるんだゾ」
「見せつけんのやめてくれね? 本当に」
ユウの声で振り向いたシルバーは、彼女に向けて手を振る。その表情にエースもグリムもデュースも目を瞠った。
「笑った……?」
エースが何度も瞬きをする横で、デュースが目を丸くしてユウとシルバーを交互に見る。
「あのシルバー先輩が、笑ってる」
「すげー優しい顔してたゾ」
ぼんやりと呟くことしかできないグリムたちをよそに、ユウはシルバーとの挨拶を終え、席に着く。満足そうな彼女の背後に大きな影が差した。
「ユウさん」
とっさに振り向いたユウは、双子の気まぐれじゃない方の人魚だと気づいた。彼がユウに話しかけるのは珍しい。
「ジェイド先輩、どうされたんですか?」
「いえ、今日は少しお話をしようかと思いまして」
そう言いながらジェイドは、そっとユウの前に雑誌でも入っていそうな紙袋を出す。「これは、なんでしょう?」首を傾げたユウに、ジェイドはにっこりと笑った。
「アズールが考えた、珊瑚の海おすすめのデートスポットです」
ぎょっと目を剥いたユウは、ジェイドの綺麗な笑顔に徐々に恐怖を覚える。「な、なんでジェイド先輩が知ってるんですか?」シルバーと付き合い始めたことはまだ親友たちとグリムにしか言っていない。ジェイドは目を丸くした後、すぐさま楽しそうに笑った。「貴方とシルバーさんが深い仲であることは、存じ上げていますよ」そういう話ではないと突っ込みたいユウは、手の中の紙袋に視線をやった。
「さ、珊瑚の海はもちろん好きですけど……先輩を付き合わせるのはちょっと」
「今すぐにとは言いません。今後、旅行などの目安にしていただければと思って作成しました」
にこにこと笑っているジェイドの言葉に、ユウはますます不安になる。「その、対価などは……」しりすぼみになった言葉に、ジェイドは鮫歯をしっかり見せて笑った。
「要りませんよ。それ以上のものをお二人からは頂いているので」
「え?」
思わず見上げたユウの視線の先で、ジェイドは普段とは何も変わらない笑顔を向けている。てっきりアズール辺りに関係するようゆすられると覚悟していたのだが、目論見が外れてユウは目を丸くした。対価を要求してこない彼に、ユウの表情は引き攣る。
「……分かりました。後からねだってきても、何もあげませんよ」
「構いません。今後とも、お二人のことを応援しています」
いやに気遣う言葉にますますユウの表情は曇る。ジェイドはそれだけを言ってさっさと立ち去った。ちょうど双子の片割れと合流したので、今から昼食にでもするのだろう。ユウはさっさと雑談を始めているエースたちを脇に紙袋を開く。
海が全面にプリントされたパンフレットの表紙を見るだけで、ユウの心拍数は上がった。彼女はそっと紙袋を閉じ、それを胸に当てる。
「今度、先輩を誘おうかな……」
ユウから少し離れたテーブルで、フロイドがはしゃぐ。彼は自分の兄弟がいつになく嬉しそうな顔をしているので、何があったのか問い詰めていた。
「ねーねー。ジェイド。何考えてんの? それって面白れぇ?」
キノコをフォークで突き刺したジェイドは、にやりと鮫歯を見せて笑う。
「ええ。とても楽しいですよ。予定が早まりそうなので、準備をしておかないといけません」
ジェイドの様子に、フロイドは「それって小エビちゃんとクラゲちゃんのこと?」と尋ねる。ジェイドは薄く笑ったまま人差し指を口の前に持ってきた。
「気づかれたらせっかくの楽しみが台無しです。静かに見守ってくださいね」
END
学生でにぎわう食堂で、嬉しそうに一人で拍手をしているユウを、エースは呆れ顔で見つめる。知らないうちに失恋してた上に、その相手と結ばれたというのだ。相手も相手でユウに恋人がいると勘違いしていたらしい。あまりの展開にデュースは難しい表情を浮かべながら、頭から煙を上げていた。
「お前と先輩……壮絶なすれ違いしてるじゃん。一歩間違えればそのままお別れって」
「まあ、そこはグリムが間違えて持って来てくれたおかげだから。本当にありがとう」
ユウが隣に目を配ると、グリムは腰に肉球を当て、胸を張った。
「ま、俺様は初めからわかってて持ってきたんだゾ」
「どうだか」
得意げなグリムに怪訝な視線をエースは送る。ユウは一瞬視界を掠めた銀の髪に目を向けた。瞬時に彼女の頬は色づき、席を立ちあがる。
「あ、先輩だ! シルバー先輩!」
この風景にももう慣れてきたグリムは購買のドリンクを飲む。エースも同じく半目になってため息を吐いた。
「まーた手を振ってるんだゾ」
「見せつけんのやめてくれね? 本当に」
ユウの声で振り向いたシルバーは、彼女に向けて手を振る。その表情にエースもグリムもデュースも目を瞠った。
「笑った……?」
エースが何度も瞬きをする横で、デュースが目を丸くしてユウとシルバーを交互に見る。
「あのシルバー先輩が、笑ってる」
「すげー優しい顔してたゾ」
ぼんやりと呟くことしかできないグリムたちをよそに、ユウはシルバーとの挨拶を終え、席に着く。満足そうな彼女の背後に大きな影が差した。
「ユウさん」
とっさに振り向いたユウは、双子の気まぐれじゃない方の人魚だと気づいた。彼がユウに話しかけるのは珍しい。
「ジェイド先輩、どうされたんですか?」
「いえ、今日は少しお話をしようかと思いまして」
そう言いながらジェイドは、そっとユウの前に雑誌でも入っていそうな紙袋を出す。「これは、なんでしょう?」首を傾げたユウに、ジェイドはにっこりと笑った。
「アズールが考えた、珊瑚の海おすすめのデートスポットです」
ぎょっと目を剥いたユウは、ジェイドの綺麗な笑顔に徐々に恐怖を覚える。「な、なんでジェイド先輩が知ってるんですか?」シルバーと付き合い始めたことはまだ親友たちとグリムにしか言っていない。ジェイドは目を丸くした後、すぐさま楽しそうに笑った。「貴方とシルバーさんが深い仲であることは、存じ上げていますよ」そういう話ではないと突っ込みたいユウは、手の中の紙袋に視線をやった。
「さ、珊瑚の海はもちろん好きですけど……先輩を付き合わせるのはちょっと」
「今すぐにとは言いません。今後、旅行などの目安にしていただければと思って作成しました」
にこにこと笑っているジェイドの言葉に、ユウはますます不安になる。「その、対価などは……」しりすぼみになった言葉に、ジェイドは鮫歯をしっかり見せて笑った。
「要りませんよ。それ以上のものをお二人からは頂いているので」
「え?」
思わず見上げたユウの視線の先で、ジェイドは普段とは何も変わらない笑顔を向けている。てっきりアズール辺りに関係するようゆすられると覚悟していたのだが、目論見が外れてユウは目を丸くした。対価を要求してこない彼に、ユウの表情は引き攣る。
「……分かりました。後からねだってきても、何もあげませんよ」
「構いません。今後とも、お二人のことを応援しています」
いやに気遣う言葉にますますユウの表情は曇る。ジェイドはそれだけを言ってさっさと立ち去った。ちょうど双子の片割れと合流したので、今から昼食にでもするのだろう。ユウはさっさと雑談を始めているエースたちを脇に紙袋を開く。
海が全面にプリントされたパンフレットの表紙を見るだけで、ユウの心拍数は上がった。彼女はそっと紙袋を閉じ、それを胸に当てる。
「今度、先輩を誘おうかな……」
ユウから少し離れたテーブルで、フロイドがはしゃぐ。彼は自分の兄弟がいつになく嬉しそうな顔をしているので、何があったのか問い詰めていた。
「ねーねー。ジェイド。何考えてんの? それって面白れぇ?」
キノコをフォークで突き刺したジェイドは、にやりと鮫歯を見せて笑う。
「ええ。とても楽しいですよ。予定が早まりそうなので、準備をしておかないといけません」
ジェイドの様子に、フロイドは「それって小エビちゃんとクラゲちゃんのこと?」と尋ねる。ジェイドは薄く笑ったまま人差し指を口の前に持ってきた。
「気づかれたらせっかくの楽しみが台無しです。静かに見守ってくださいね」
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