後編
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セベクは人気のない放課後の実験室で、思わぬ客人に怪訝に顔をしかめていた。追加課題のために使った実験器具を片付けている横で、銀髪の麗人がただならぬ雰囲気を漂わせながら、かれこれ十分何も言わずに立っている。「さっさと用事が何なのか言え。僕はお前に構っていられるほど暇じゃないんだ」険を滲ませた言葉に、弾かれるように顔を上げたシルバーは、目元をこすった。「まさか寝ていないだろうな」セベクが厳かに尋ねると、シルバーは眉間にしわを寄せながら「すまない」と目を閉じた。しかし、シルバーは寝るためにセベクに会いに来たわけではない。シルバーはそのまま彼に向けて頭を下げた。
「それと、訳があるとはいえ、お前の恋人に手を出してしまった。すまない」
今度こそセベクの怒号が飛んでくるに違いないとシルバーは構えた。こう見えてもセベクという男は、義理堅く、(一部に対して)謙虚で、(一部に対して)尊敬の念を忘れない。そんな彼の恋人を抱きしめてしまったことは罰せられて当然だ。
シルバーは決死の覚悟で、頭を下げ続けていた。一方セベクは怪訝に寄せていた眉間の皺をさらに深くする。
「……そもそも僕に恋人などいないが」
シルバーは下げていた頭をようやく上げ、目を丸くした。
「監督生と付き合っていないのか?」
「何を言っているんだ。むしろ、あいつが惚れているのはお前だ! 髪を切って失恋の痛みを慰め、僕に相談するくらいにはな!」
がちゃん、とガラスの割れる音がした。しかし、セベクが片付けている器具たちには傷一つない。入口の方を見れば、ユウが立ち竦んでこちらを見ている。足元のガラスの破片が散らばって、陽光を乱反射した。
「監督生?」
シルバーがそう呟くと、ユウは弾かれるように身を翻す。走り出した彼女を見て、シルバーの足は自然と駆け出していた。
「待ってくれ!」
それでも彼女の足は止まらず、曲がり角でブレザーの切れ端が揺れては木の幹に吸い込まれていく。一向に縮まることのない距離に焦れたシルバーは思わず叫んだ。
「ユウ!」
彼女はそのまま植物園に駆け込んだ。温室に行けば彼を眠らせられると踏んだうえでの判断に、シルバーは思わず舌打ちする。しかし、彼もここで寝るほど意気地なしではない。
ユウの軽い足音が徐々に近づいていく。シルバーはもう少しで腕を伸ばせば届く距離までユウに迫っていた。しかし、彼女へ伸ばした腕は宙を掻いた。
「きゃあ!」
シルバーが見上げた先で、ユウは足を植物のつたに捕らえられ、逆さづりにされていた。怯えに染まった琥珀の瞳がシルバーに縋る。それだけでシルバーは何のためらいもなく警棒を振った。火魔法で燃やされた植物が悲鳴を上げ、ユウを手放す。落下している彼女をシルバーはすかさず受け止めた。
「先輩、離してください!」
「しゃべるな。舌を噛むぞ」
身震いしてしまうほど冷たい声で放たれた言葉に、ユウは大人しく口を閉じる。シルバーは彼女を腕に抱いたまま、植物園を駆け抜けた。地震に似た振動で振り落とされると思ったユウは彼の首筋に縋りつく。彼女を抱える腕は、決して離さないと言わんばかりに抱く力をこめた。
「それと、訳があるとはいえ、お前の恋人に手を出してしまった。すまない」
今度こそセベクの怒号が飛んでくるに違いないとシルバーは構えた。こう見えてもセベクという男は、義理堅く、(一部に対して)謙虚で、(一部に対して)尊敬の念を忘れない。そんな彼の恋人を抱きしめてしまったことは罰せられて当然だ。
シルバーは決死の覚悟で、頭を下げ続けていた。一方セベクは怪訝に寄せていた眉間の皺をさらに深くする。
「……そもそも僕に恋人などいないが」
シルバーは下げていた頭をようやく上げ、目を丸くした。
「監督生と付き合っていないのか?」
「何を言っているんだ。むしろ、あいつが惚れているのはお前だ! 髪を切って失恋の痛みを慰め、僕に相談するくらいにはな!」
がちゃん、とガラスの割れる音がした。しかし、セベクが片付けている器具たちには傷一つない。入口の方を見れば、ユウが立ち竦んでこちらを見ている。足元のガラスの破片が散らばって、陽光を乱反射した。
「監督生?」
シルバーがそう呟くと、ユウは弾かれるように身を翻す。走り出した彼女を見て、シルバーの足は自然と駆け出していた。
「待ってくれ!」
それでも彼女の足は止まらず、曲がり角でブレザーの切れ端が揺れては木の幹に吸い込まれていく。一向に縮まることのない距離に焦れたシルバーは思わず叫んだ。
「ユウ!」
彼女はそのまま植物園に駆け込んだ。温室に行けば彼を眠らせられると踏んだうえでの判断に、シルバーは思わず舌打ちする。しかし、彼もここで寝るほど意気地なしではない。
ユウの軽い足音が徐々に近づいていく。シルバーはもう少しで腕を伸ばせば届く距離までユウに迫っていた。しかし、彼女へ伸ばした腕は宙を掻いた。
「きゃあ!」
シルバーが見上げた先で、ユウは足を植物のつたに捕らえられ、逆さづりにされていた。怯えに染まった琥珀の瞳がシルバーに縋る。それだけでシルバーは何のためらいもなく警棒を振った。火魔法で燃やされた植物が悲鳴を上げ、ユウを手放す。落下している彼女をシルバーはすかさず受け止めた。
「先輩、離してください!」
「しゃべるな。舌を噛むぞ」
身震いしてしまうほど冷たい声で放たれた言葉に、ユウは大人しく口を閉じる。シルバーは彼女を腕に抱いたまま、植物園を駆け抜けた。地震に似た振動で振り落とされると思ったユウは彼の首筋に縋りつく。彼女を抱える腕は、決して離さないと言わんばかりに抱く力をこめた。