後編
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夕日が赤く照らす砂浜を攫うように、波が岸へと寄せては帰って行く。陽光を弾く銀の髪が風に揺れると、その隣でベリーショートの黒髪が毛先だけ揺れた。二人は校門までの道のりを転送魔法を使わず、歩く。
一週間が長いと思っていたシルバーは、案外あっという間だったなと迫ってくる宵の空を見上げる。結果的に彼女の手を繋ぐこともなく、言葉でも彼女への愛情を伝えられなかった。しかし、少なくとも大事な人の好きな相手を奪うような真似をしなくて済んだ。それでも十分幸せなことだと、シルバーは隣の黒髪を見下ろした。
不意にユウの足が止まり、シルバーはその三歩先で立ち止まる。振り返った彼に、ユウは両手を背に隠して肩を竦めた。
「先輩! 今日、とっても楽しかったです! ありがとうございました!」
「ああ、俺も楽しかった」
きっとこんなに幸せな思いをすることは、この先そうそうないだろう。いずれユウはセベクと結ばれる。この時間のほとんどは薬が生んでいても、幸せになってほしい気持ちだけは偽りじゃない。
「先輩……」
ユウのねだるような瞳が、シルバーの心を掴んだ。色っぽく掠れた彼女の言葉に、彼の頭の中で警鐘が鳴らされる。
「だ、抱きついてもいいですか?」
ユウとシルバーの間に一陣の風が吹く。シルバーはこれを拒絶しなければならないと思いながら、喉から全く声が出ない。一週間彼女ととってきた境界線を本当に越えてしまう。彼にセベクを裏切ることはできない。この関係は所詮、明日には消えてしまう幻なのだから。
シルバーはできないと言おうとした。「ど、ドッキリ大成功!」彼女は大きく両手を広げて笑う。あまりに突然のことでシルバーはただ、ユウを見つめることしかできない。彼女はシルバーが一切手を出してこないと分かっていた。
シルバーは優しい男だ。急に込み上げてくるこの愛おしさを受け止め続けている。だから、我がままを多少は聞いてもらえると期待していた。オーロラシルバーが困惑の色を見せるまでは。
「び、びっくりしました!? その、こうすれば、先輩ちょっとはドキドキしてくれるかなぁなんて」
自分勝手にもほどがある。自分がいくら思っていたところで、彼には微塵も伝わらない。それどころか迷惑でしかないのだと、ユウの薬が切れ始めた頭は理解し始めていた。今、シルバーを困らせているのは自分なのだ。ならば、困らないように適当に嘘を吐けばいい。
シルバーは幸い嘘に弱い。全くと言っていいほど見抜けないせいで、皮肉すら伝わらないのだ。だからユウは必死に張り付けた笑顔を外すまいと、明るく振舞った。
そんな彼女の体を逞しい腕が抱き込んだ。呼吸すら苦しくなるほど力強い抱擁に、ユウの頬に一筋の光が流れる。
「せんぱい……」
銀の髪が彼女の頬を撫でる。小さく震えている彼女を腕に抱えながら、シルバーは喜びと悲しみで体がばらばらになりそうだった。愛する人を腕に抱けて心から喜んでいる一方、彼女はセベクの恋人なのだと思い知る。
だが、この抱擁に一切の後悔はしていない。ユウの傷付く顔を見るくらいなら、セベクに殺されてもいいのだ。これが薬の見せる夢ならば、彼はそれに酔わされたかった。
身を少しだけ離して、シルバーはユウをうっとりと見つめた。熱のこもったその視線に、自然とユウの体温も上がっていく。
「ユウ。俺はお前が好きだ」
彼女の頬に触れた手が熱くて仕方ない。夕焼けを反射した燃えるような琥珀の瞳は、ただ真っ直ぐ、初めて会った時のように彼を映していた。今はただ彼女が眩しくて仕方ない。きっと名も知らなかったあの頃、臆せず話しかけてきた時からシルバーはこの瞳に囚われていたのだ。そこから抜け出そうとすることがどれほど愚かだったか、シルバーは身をもって思い知った。
見上げている彼女はただ泣いていた。
「私も、大好きです」
夕日が沈む一歩手前、黒くなった波が二人の足跡を攫って行った。
一週間が長いと思っていたシルバーは、案外あっという間だったなと迫ってくる宵の空を見上げる。結果的に彼女の手を繋ぐこともなく、言葉でも彼女への愛情を伝えられなかった。しかし、少なくとも大事な人の好きな相手を奪うような真似をしなくて済んだ。それでも十分幸せなことだと、シルバーは隣の黒髪を見下ろした。
不意にユウの足が止まり、シルバーはその三歩先で立ち止まる。振り返った彼に、ユウは両手を背に隠して肩を竦めた。
「先輩! 今日、とっても楽しかったです! ありがとうございました!」
「ああ、俺も楽しかった」
きっとこんなに幸せな思いをすることは、この先そうそうないだろう。いずれユウはセベクと結ばれる。この時間のほとんどは薬が生んでいても、幸せになってほしい気持ちだけは偽りじゃない。
「先輩……」
ユウのねだるような瞳が、シルバーの心を掴んだ。色っぽく掠れた彼女の言葉に、彼の頭の中で警鐘が鳴らされる。
「だ、抱きついてもいいですか?」
ユウとシルバーの間に一陣の風が吹く。シルバーはこれを拒絶しなければならないと思いながら、喉から全く声が出ない。一週間彼女ととってきた境界線を本当に越えてしまう。彼にセベクを裏切ることはできない。この関係は所詮、明日には消えてしまう幻なのだから。
シルバーはできないと言おうとした。「ど、ドッキリ大成功!」彼女は大きく両手を広げて笑う。あまりに突然のことでシルバーはただ、ユウを見つめることしかできない。彼女はシルバーが一切手を出してこないと分かっていた。
シルバーは優しい男だ。急に込み上げてくるこの愛おしさを受け止め続けている。だから、我がままを多少は聞いてもらえると期待していた。オーロラシルバーが困惑の色を見せるまでは。
「び、びっくりしました!? その、こうすれば、先輩ちょっとはドキドキしてくれるかなぁなんて」
自分勝手にもほどがある。自分がいくら思っていたところで、彼には微塵も伝わらない。それどころか迷惑でしかないのだと、ユウの薬が切れ始めた頭は理解し始めていた。今、シルバーを困らせているのは自分なのだ。ならば、困らないように適当に嘘を吐けばいい。
シルバーは幸い嘘に弱い。全くと言っていいほど見抜けないせいで、皮肉すら伝わらないのだ。だからユウは必死に張り付けた笑顔を外すまいと、明るく振舞った。
そんな彼女の体を逞しい腕が抱き込んだ。呼吸すら苦しくなるほど力強い抱擁に、ユウの頬に一筋の光が流れる。
「せんぱい……」
銀の髪が彼女の頬を撫でる。小さく震えている彼女を腕に抱えながら、シルバーは喜びと悲しみで体がばらばらになりそうだった。愛する人を腕に抱けて心から喜んでいる一方、彼女はセベクの恋人なのだと思い知る。
だが、この抱擁に一切の後悔はしていない。ユウの傷付く顔を見るくらいなら、セベクに殺されてもいいのだ。これが薬の見せる夢ならば、彼はそれに酔わされたかった。
身を少しだけ離して、シルバーはユウをうっとりと見つめた。熱のこもったその視線に、自然とユウの体温も上がっていく。
「ユウ。俺はお前が好きだ」
彼女の頬に触れた手が熱くて仕方ない。夕焼けを反射した燃えるような琥珀の瞳は、ただ真っ直ぐ、初めて会った時のように彼を映していた。今はただ彼女が眩しくて仕方ない。きっと名も知らなかったあの頃、臆せず話しかけてきた時からシルバーはこの瞳に囚われていたのだ。そこから抜け出そうとすることがどれほど愚かだったか、シルバーは身をもって思い知った。
見上げている彼女はただ泣いていた。
「私も、大好きです」
夕日が沈む一歩手前、黒くなった波が二人の足跡を攫って行った。