前編
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瞼を開いたシルバーがまず頭に思い浮かべるのは、ベリーショートの黒髪だ。その人物が誰だか名前が出るより先に、胸に込み上げる甘美な苦しみで彼は体を起こす。その次に名前が不意に口から飛び出そうになって、シルバーは口元を押さえ、ようやく覚醒した。
「またか」
動揺を敵に悟られないために、常日頃から表情を出さないようにしている彼の耳が闇の中でぼんやりと色づく。己の意思とは反対に熱くなる頬を、彼は手の甲で冷ました。
窓を見ればまだ日は登っていない。そもそもディアソムニア寮自体が昼でもロウソクを灯さなければならないほど薄暗い。そのため、彼はすぐさま体操着に着替えて静まり返った寮をそっと出る。
鏡をくぐった先には光が射していた。鏡舎を出れば、森で暮らしていた時に彼を起こしてくれた太陽があった。思わず腕をかざし目を細める彼は徐々にその明るさに慣れて、目が開くようになる。
完全に体のスイッチが入った彼は、必要な準備運動をして走り出した。徐々に顔を出していく太陽は、ナイトレイブンカレッジの荘厳な校舎をさんさんと照らしている。常にペースは苦しいラインのすれすれを保って走る。リリアに言い聞かされたその思考は、今でも彼の走りの基本である。彼を見かけた動物たちが、彼と並走したり、横に並んで飛び回ったりして挨拶をする。
「ああ、おはよう」
返事を返した彼に、ますます小鳥が高らかに歌い上げ、足元の兎たちは先ほどよりも高く、小刻みに飛び跳ねる。そしてオンボロ寮の近くになると、彼は立ち止まった。ひっそりと木陰に入り、二階の窓からは見えないよう身を潜める。
彼の見つめる先には、分厚い紺のカーテンで塞がれでいる窓があった。嵌め格子のガラス窓の背景であった紺色が真っ二つに割かれ、その間からあくびをする監督生が現れる。ぐりぐりと目元をこすっては、太陽を見ようと目を細めている姿は幼い。ベリーショートの黒髪を後頭部に回した手で乱暴に掻きまわすと、拳を突きあげ体を伸ばした。伸びあがった服を押し上げるふくらみが、彼の視線をさまよわせた。
そして監督生がきょろきょろと探るように視線を行き来させていると、シルバーと視線が合った。不覚にも驚いたシルバーの息が一瞬乱れる。一歩下がったところで枝が折れ、彼はとっさに来た道へ走り出した。
「君子危うきに近寄らず」とはまさにこのことで、シルバーは寮の自室に戻るまで生きた心地がしなかった。強く閉じた扉に背を凭れさせ、彼は両手で顔を覆い天を仰ぐ。体の中心で跳ねまわる心臓が目覚めた時と同じ苦しみをシルバーに味わわせた。
「またか」
動揺を敵に悟られないために、常日頃から表情を出さないようにしている彼の耳が闇の中でぼんやりと色づく。己の意思とは反対に熱くなる頬を、彼は手の甲で冷ました。
窓を見ればまだ日は登っていない。そもそもディアソムニア寮自体が昼でもロウソクを灯さなければならないほど薄暗い。そのため、彼はすぐさま体操着に着替えて静まり返った寮をそっと出る。
鏡をくぐった先には光が射していた。鏡舎を出れば、森で暮らしていた時に彼を起こしてくれた太陽があった。思わず腕をかざし目を細める彼は徐々にその明るさに慣れて、目が開くようになる。
完全に体のスイッチが入った彼は、必要な準備運動をして走り出した。徐々に顔を出していく太陽は、ナイトレイブンカレッジの荘厳な校舎をさんさんと照らしている。常にペースは苦しいラインのすれすれを保って走る。リリアに言い聞かされたその思考は、今でも彼の走りの基本である。彼を見かけた動物たちが、彼と並走したり、横に並んで飛び回ったりして挨拶をする。
「ああ、おはよう」
返事を返した彼に、ますます小鳥が高らかに歌い上げ、足元の兎たちは先ほどよりも高く、小刻みに飛び跳ねる。そしてオンボロ寮の近くになると、彼は立ち止まった。ひっそりと木陰に入り、二階の窓からは見えないよう身を潜める。
彼の見つめる先には、分厚い紺のカーテンで塞がれでいる窓があった。嵌め格子のガラス窓の背景であった紺色が真っ二つに割かれ、その間からあくびをする監督生が現れる。ぐりぐりと目元をこすっては、太陽を見ようと目を細めている姿は幼い。ベリーショートの黒髪を後頭部に回した手で乱暴に掻きまわすと、拳を突きあげ体を伸ばした。伸びあがった服を押し上げるふくらみが、彼の視線をさまよわせた。
そして監督生がきょろきょろと探るように視線を行き来させていると、シルバーと視線が合った。不覚にも驚いたシルバーの息が一瞬乱れる。一歩下がったところで枝が折れ、彼はとっさに来た道へ走り出した。
「君子危うきに近寄らず」とはまさにこのことで、シルバーは寮の自室に戻るまで生きた心地がしなかった。強く閉じた扉に背を凭れさせ、彼は両手で顔を覆い天を仰ぐ。体の中心で跳ねまわる心臓が目覚めた時と同じ苦しみをシルバーに味わわせた。
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