邂逅
白鷺家に突如現れた悟と、遂に本当の想いを通わせて恋人となった北都。
子供の時から婚約していた二人だったが、様々な要因が複雑に絡まりあっていたため、恋愛関係といったものから程遠く。更に16年という空白の時間もあり、今日のこの日が本当の意味で二人の始まりとも言える日となった。
そうして朝食を食べた部屋から北都の部屋に戻った二人。
悟に抱き締められながら、北都は16年間離れていた間を埋めるため彼の過去を龍眼で視る覚悟を決める。
それは儀式も何もする必要などなく、北都がそっと確かめるように彼の頬に触れ。悟も大丈夫だとその手に自らの手を重ねると、深呼吸した彼女の金色の瞳が濃く煌めく。
更に瞳孔が縦に細く開き、悟の耳に微かに鈴の音が響けば北都がそこからピクリとも動かなくなり。六眼からは酷く曖昧な情報しか読み取れなかったが、半ばトランス状態となっている彼女と意識が『繋がっている』感覚だけがあった。
「─────」
それからどれくらい経ったのか。
悟にとっては十数分ほど経った感覚しかなかったが、時折響いていた鈴の音のようなものが聞こえなくなる。
そして微動だにしなかった北都が息を吐き、瞳も普段と変わらないものに戻ると突然傾いた身体。
「北都!?」
慌てて悟が抱き締めなおし、脱力したかのように目を閉じた彼女を六眼で視ると、まるで大量の氣を消費したかのような状態になっていた。
「大丈夫?身体は何ともない?」
「…………ああ、大丈夫」
けれど北都はまだ夢から醒めやらぬ感じか、16年もの膨大な記憶を視たことによって思考がまだうまく働かないようで。
「悟さん………」
「っ!」
突然悟を抱き締めたかと思えば、ギュッと強くしがみついてくる。
それだけで彼女が何を思ったのか理解し。
五条悟にとって唯一の親友だった男の『別れ』と『死』、北都との『約束』を護るため、少年は自ら少女と逢うことを禁じて努力をし続けていたこと。北都の母親が亡くなった時も彼女を護ろうと暗躍し、それでも何もできなかった無念さや新たな決意など。
その空白を経て今の五条悟が在るのだとようやく識る事ができた。
龍眼で視たそれはどんな悟であろうととても大切であり、やっと全てを『共有』できたという事実が北都を満たしていけば愛しくて。
「今更ながら恥ずかしくなってきた」
そこでフッと苦笑した悟が見つめると、目を開けた彼女は至って真面目か。
「あれだけ視て欲しいと言ってきたのに。もうなかった事にはできないが?」
「勿論。だからこそ君に全てを視せたんだ。これでもう僕から離れようなんて思わないだろ?」
そこだけは絶対に変わることのない意志であり、ニヤリと笑った悟を見て北都も苦笑すると頷いた。
しかも悟にとってやはり北都は自分の事を最も理解してくれているひとで。唯一の親友だと認めていた彼よりも、何も言わずとも全てを理解してくれる。
記憶についての感想や慰めなど悟は端から望んでなどなく、まるで包み込んでくれるかのようにただ抱き締めてくれた。
どんなに壮絶な過去を歩んできても、前を向いていられたのは悟の心の中にずっと『北都』がいたからであり。彼女が傍にいてくれるならどんなに苦しみ抜いたとしても、絶対に諦めることなく進み続けられる。
そうして得たもの全てを、北都を護るための力に変えて行ける。
それが五条悟の総てだから。
「ね、もうこのまま結婚しよう?」
「────え?」
ふと悟が言葉にすると、事の展開の速さについて行けずに驚く北都。
突然何を言い出すのかと思えば、すぐにでも結婚したいと言い出した男の突拍子のなさに開いた口が塞がらない。
「そんな急に………それだとあなたの家が何と言うか」
「ん?それなら何の心配もないよ?そのために僕がずっと根回ししてきたし、白鷺家も君が現当主だから何の問題もないよね?」
その行動力はさすがと言うべきか。悟は北都と約束したあの日から、五条家や白鷺家に対して根気強くやり取りをしてきた。
特に白鷺家の重鎮たちを黙らせるため、五条家に北都を迎え入れた後も白鷺家を存続させると約束。且つ子供が生まれた時は五条家と白鷺家の子供として育てることを約束し、決して他からの圧力を受けず、子供のしたいようにさせることを付け加えた。
特に妻となる北都に対しては綿密に計画を練り、悟の伴侶となった後も白鷺家の当主として籍を残すように血判書まで用意させた。
それを聞いた北都はいくら何でもやり過ぎだと頭を抱えたが、悟にとってはまだ甘過ぎると言うべきか。
「生温いくらいだよ。君の母親が亡くなってからの事も、あのジジイたちに文句を言おうとしたけど、呪術師の分際で異能側の事に口をだすなとか言われて門前払いされたんだ。それと僕が君から離れていたのをいいことに、君に相応しい別の男をこっそり探していた。それを知った時は本当に全部ぶち壊してやろうかと思ったよ」
そんな物騒な発言をする彼でさえ、自分への深い愛情からきているものだと理解し。
「だから早く北都と結婚したい。なんなら今でもいいよ?」
グイグイと押してくる悟に思わず及び腰になり、そこはやはり筋を通そうと伝えるもブーイングか。
「だって僕もう28だよ?アラサーだよ?やっとジジイ共を黙らせて準備も整ってるのに。これ以上は待てないからね?」
「っ、待っ………!」
気付けば畳に押し倒され、悟の形の良い唇が近付いてギュッと目を閉じると口付けられる。
そのまま何度も唇を啄まれ、そのたびに震えてしまえば悟が可愛いと囁き。ペロリと唇を舐められると、合図をされる。
しかしそれが何の意味なのか分からず、必死にも唇を引き結んでいると彼の指が触れ。
「口を開けて?北都」
優しく撫でられて反応した北都がうっすらと唇を開くと、悟がもう少しとねだる。
そうしてやっと彼が何をしたいのかを理解し、頬が熱くなってしまえば頭が真っ白で。
「君にもっと触れたいだけだから……」
そう言われて死ぬほど恥ずかしかったけれど。勇気を出して更に唇を開くと、悟が微笑みながら口付けてくる。
「───っ、んっ……!」
すると開いた隙間から彼の舌がそっと忍び込み、歯列をなぞられて震え。その奥へと舌を挿し込むと二人の舌が触れあった。
「……っ、ぁ……」
そこから息もつけないほどに貪られ。舌同士を絡ませるようにして口付ければ二人は吐息さえ絡ませる。
それでも何もかもが初めてで、ただ必死に悟を感じていると唇がそっと離れ。同時に酸素を肺いっぱいに吸い込むと、スッと顔を下へ移動させた悟の唇が首筋を這った。
「───っあ!」
途端に吸い痕を刻まれ、ビクリと震えてしまえば彼がクスリと笑い。
「可愛いな………。ね、もっとしていい?」
耳許で甘く囁かれて震えたが、我に返った北都がふるふると顔を横に振った。
「どうして?」
けれど悟がまた軽く笑い、再び首筋へ痕を残すと彼女の細く長い指先が唇に触れる。
「学校が……あるだろう?」
さすが北都と言うべきか。そのまま溺愛されるかと思いきや、悟に呪術高専に戻らなくていいのかと訊ね。
しかしニッコリと笑った彼が大丈夫だと言えば、ちょっとした技を使ったと言う。
「その事なら、午前中だけ僕は任務に行ってることになってるんだ。だからその間は何をしても構わない。こうして北都とイチャイチャしても、何の問題もないよ?」
そしてすぐさま北都を抱き上げ、まだ敷かれていた布団の上に降ろすといよいよ逃げ場がなく。
「悟さ………駄目、だ」
シュルリと着物の帯を解かれて白い肌が露になり、碧い瞳にじっと見つめられるまま悟の手がその肌に這わされると、たまらず北都が身体をくねらせる。
「凄く綺麗だ、北都……このまま僕のものにしたい」
「あっ………!」
そこで柔肌を強く吸われ、声が出てしまえば恥ずかしくてたまらず。
男の表情を見せた悟が、自身の上着に手を掛けた。
その時────。
「北都様、いらっしゃいますか?」
障子の向こうから執事の声が聞こえてきた。
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子供の時から婚約していた二人だったが、様々な要因が複雑に絡まりあっていたため、恋愛関係といったものから程遠く。更に16年という空白の時間もあり、今日のこの日が本当の意味で二人の始まりとも言える日となった。
そうして朝食を食べた部屋から北都の部屋に戻った二人。
悟に抱き締められながら、北都は16年間離れていた間を埋めるため彼の過去を龍眼で視る覚悟を決める。
それは儀式も何もする必要などなく、北都がそっと確かめるように彼の頬に触れ。悟も大丈夫だとその手に自らの手を重ねると、深呼吸した彼女の金色の瞳が濃く煌めく。
更に瞳孔が縦に細く開き、悟の耳に微かに鈴の音が響けば北都がそこからピクリとも動かなくなり。六眼からは酷く曖昧な情報しか読み取れなかったが、半ばトランス状態となっている彼女と意識が『繋がっている』感覚だけがあった。
「─────」
それからどれくらい経ったのか。
悟にとっては十数分ほど経った感覚しかなかったが、時折響いていた鈴の音のようなものが聞こえなくなる。
そして微動だにしなかった北都が息を吐き、瞳も普段と変わらないものに戻ると突然傾いた身体。
「北都!?」
慌てて悟が抱き締めなおし、脱力したかのように目を閉じた彼女を六眼で視ると、まるで大量の氣を消費したかのような状態になっていた。
「大丈夫?身体は何ともない?」
「…………ああ、大丈夫」
けれど北都はまだ夢から醒めやらぬ感じか、16年もの膨大な記憶を視たことによって思考がまだうまく働かないようで。
「悟さん………」
「っ!」
突然悟を抱き締めたかと思えば、ギュッと強くしがみついてくる。
それだけで彼女が何を思ったのか理解し。
五条悟にとって唯一の親友だった男の『別れ』と『死』、北都との『約束』を護るため、少年は自ら少女と逢うことを禁じて努力をし続けていたこと。北都の母親が亡くなった時も彼女を護ろうと暗躍し、それでも何もできなかった無念さや新たな決意など。
その空白を経て今の五条悟が在るのだとようやく識る事ができた。
龍眼で視たそれはどんな悟であろうととても大切であり、やっと全てを『共有』できたという事実が北都を満たしていけば愛しくて。
「今更ながら恥ずかしくなってきた」
そこでフッと苦笑した悟が見つめると、目を開けた彼女は至って真面目か。
「あれだけ視て欲しいと言ってきたのに。もうなかった事にはできないが?」
「勿論。だからこそ君に全てを視せたんだ。これでもう僕から離れようなんて思わないだろ?」
そこだけは絶対に変わることのない意志であり、ニヤリと笑った悟を見て北都も苦笑すると頷いた。
しかも悟にとってやはり北都は自分の事を最も理解してくれているひとで。唯一の親友だと認めていた彼よりも、何も言わずとも全てを理解してくれる。
記憶についての感想や慰めなど悟は端から望んでなどなく、まるで包み込んでくれるかのようにただ抱き締めてくれた。
どんなに壮絶な過去を歩んできても、前を向いていられたのは悟の心の中にずっと『北都』がいたからであり。彼女が傍にいてくれるならどんなに苦しみ抜いたとしても、絶対に諦めることなく進み続けられる。
そうして得たもの全てを、北都を護るための力に変えて行ける。
それが五条悟の総てだから。
「ね、もうこのまま結婚しよう?」
「────え?」
ふと悟が言葉にすると、事の展開の速さについて行けずに驚く北都。
突然何を言い出すのかと思えば、すぐにでも結婚したいと言い出した男の突拍子のなさに開いた口が塞がらない。
「そんな急に………それだとあなたの家が何と言うか」
「ん?それなら何の心配もないよ?そのために僕がずっと根回ししてきたし、白鷺家も君が現当主だから何の問題もないよね?」
その行動力はさすがと言うべきか。悟は北都と約束したあの日から、五条家や白鷺家に対して根気強くやり取りをしてきた。
特に白鷺家の重鎮たちを黙らせるため、五条家に北都を迎え入れた後も白鷺家を存続させると約束。且つ子供が生まれた時は五条家と白鷺家の子供として育てることを約束し、決して他からの圧力を受けず、子供のしたいようにさせることを付け加えた。
特に妻となる北都に対しては綿密に計画を練り、悟の伴侶となった後も白鷺家の当主として籍を残すように血判書まで用意させた。
それを聞いた北都はいくら何でもやり過ぎだと頭を抱えたが、悟にとってはまだ甘過ぎると言うべきか。
「生温いくらいだよ。君の母親が亡くなってからの事も、あのジジイたちに文句を言おうとしたけど、呪術師の分際で異能側の事に口をだすなとか言われて門前払いされたんだ。それと僕が君から離れていたのをいいことに、君に相応しい別の男をこっそり探していた。それを知った時は本当に全部ぶち壊してやろうかと思ったよ」
そんな物騒な発言をする彼でさえ、自分への深い愛情からきているものだと理解し。
「だから早く北都と結婚したい。なんなら今でもいいよ?」
グイグイと押してくる悟に思わず及び腰になり、そこはやはり筋を通そうと伝えるもブーイングか。
「だって僕もう28だよ?アラサーだよ?やっとジジイ共を黙らせて準備も整ってるのに。これ以上は待てないからね?」
「っ、待っ………!」
気付けば畳に押し倒され、悟の形の良い唇が近付いてギュッと目を閉じると口付けられる。
そのまま何度も唇を啄まれ、そのたびに震えてしまえば悟が可愛いと囁き。ペロリと唇を舐められると、合図をされる。
しかしそれが何の意味なのか分からず、必死にも唇を引き結んでいると彼の指が触れ。
「口を開けて?北都」
優しく撫でられて反応した北都がうっすらと唇を開くと、悟がもう少しとねだる。
そうしてやっと彼が何をしたいのかを理解し、頬が熱くなってしまえば頭が真っ白で。
「君にもっと触れたいだけだから……」
そう言われて死ぬほど恥ずかしかったけれど。勇気を出して更に唇を開くと、悟が微笑みながら口付けてくる。
「───っ、んっ……!」
すると開いた隙間から彼の舌がそっと忍び込み、歯列をなぞられて震え。その奥へと舌を挿し込むと二人の舌が触れあった。
「……っ、ぁ……」
そこから息もつけないほどに貪られ。舌同士を絡ませるようにして口付ければ二人は吐息さえ絡ませる。
それでも何もかもが初めてで、ただ必死に悟を感じていると唇がそっと離れ。同時に酸素を肺いっぱいに吸い込むと、スッと顔を下へ移動させた悟の唇が首筋を這った。
「───っあ!」
途端に吸い痕を刻まれ、ビクリと震えてしまえば彼がクスリと笑い。
「可愛いな………。ね、もっとしていい?」
耳許で甘く囁かれて震えたが、我に返った北都がふるふると顔を横に振った。
「どうして?」
けれど悟がまた軽く笑い、再び首筋へ痕を残すと彼女の細く長い指先が唇に触れる。
「学校が……あるだろう?」
さすが北都と言うべきか。そのまま溺愛されるかと思いきや、悟に呪術高専に戻らなくていいのかと訊ね。
しかしニッコリと笑った彼が大丈夫だと言えば、ちょっとした技を使ったと言う。
「その事なら、午前中だけ僕は任務に行ってることになってるんだ。だからその間は何をしても構わない。こうして北都とイチャイチャしても、何の問題もないよ?」
そしてすぐさま北都を抱き上げ、まだ敷かれていた布団の上に降ろすといよいよ逃げ場がなく。
「悟さ………駄目、だ」
シュルリと着物の帯を解かれて白い肌が露になり、碧い瞳にじっと見つめられるまま悟の手がその肌に這わされると、たまらず北都が身体をくねらせる。
「凄く綺麗だ、北都……このまま僕のものにしたい」
「あっ………!」
そこで柔肌を強く吸われ、声が出てしまえば恥ずかしくてたまらず。
男の表情を見せた悟が、自身の上着に手を掛けた。
その時────。
「北都様、いらっしゃいますか?」
障子の向こうから執事の声が聞こえてきた。
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