邂逅
そして北都が唇を開き、真っ直ぐに呪霊を見れば告げる。
「それは私の母のことだろう?」
『っ!?』
その言葉に恵たちが息を飲み、目の前の女性を見つめるも北都はまるで凪いだ水面のように静かで。
「私が18の時に、単身で仕事に向かった母はそのまま還らぬひととなった。その時の事を知る者は母以外おらず、ただ魔を祓うことに失敗したと報告を受けただけだった」
その仇とも言えるモノが、今目の前にいる。
普通であれば恨み辛みを噴出させ、怒りの情に任せてぶつけるが。北都はただ静かに佇み、怒りからも遠い場所にいるかのように見える。
『ククク…………ハッハッハッ!これは僥倖なりッ!あの人間の、子供だった……とはッ!!貴様も母と同じく、ここで我らに喰われる がいい!!』
「テメェ………いい加減にしとけよ」
けれど北都の横に悠二が立ち、まるで彼女の怒りを代わりに表現しているかのように拳を握ると呪力を纏う。
「テメェのようなクズが、勝手に彼女の母親を侮辱すんじゃねぇよ」
『グハァッ!!』
同時に悠二の拳が呪霊の顔面に炸裂し、北都の刀がズルリと抜けると共に吹っ飛ぶ。
その怒りは野薔薇や恵にも伝染し、木に激しく身体を打ち付けた呪霊目掛けて怒涛のように攻撃を仕掛けると、再生能力すら追い付かない勢いか。
「一対二でマウント取ったくらいで喜んでるアンタは本当にクズね」
「オイ、まだ死ぬんじゃねぇぞ?五条先生が本体倒すまで、テメーはここで地獄の苦しみを味わってろ」
『ぐ………ぁ………ヤメロ!やめ……て、くれ………っ!』
更に悠二が呪力を纏い、止めとばかりに心臓の部分に拳を打ち込むと吼えた。
「あの世 で詫びるんだな、クソ野郎!!」
瞬間、悠二たちの目の前で呪霊の身体がドロドロと溶け。悟が本体を払ったのだと分かれば戦いが終わる。
「白鷺さん!!」
すると悠二が駆け寄り、静かに立っていた北都を見ると彼女が頷いた。
「任務完了だ。ありがとう、みんな……」
そんな彼女の姿に三人ともグッと拳を握り。いまだ感情さえ見せない北都を見れば心惹かれるばかりで。
本来であれば止めを刺す事さえ簡単である彼女が、任務だと敢えて悟や悠二たちに任せた。
それは母親への愛情が希薄なのではなく。ただ、北都にとって凶祓の一族である以上、決して避けては通ることができない道だと知っているから。
「北都、終わったよ」
本体を倒した悟が戻り、彼もまた北都の仇だった事を戦いの最中に知った途端に完膚なきまで叩き潰した。
それを北都自身も龍眼で視ていたからこそ何も言わず。目の前に立った男を見ると、同じくありがとうと微笑んだ。
「これで母も浮かばれることだろう。母に代わってお礼を………本当にありがとう」
「北都………」
そんな彼女はすぐに刀を収め、悠二たちの方を見ると時間はあるかと聞いてくる。
「え……?それなら、先生に聞いて───」
「大丈夫だよ。それに、僕の生徒たちはどうやら君のこと好きになっちゃったみたいだから。高専には午後までに戻ればいいし、僕としては不本意だけどここで親睦でも深めちゃおっか」
「マジで!?センセーやるじゃん!!」
すると担任の許可もおりて悠二が喜び、恵がまた頬を染めると悟から思い切り頬をつねられて忠告される。
「恵、お前は下心があるから北都ちゃんに無闇に近付かないように」
「………っ!つかそれは俺個人のことなんで、あんたに言われる筋合いないっすよ?」
「お前…………さっきと言い、よくそんな口を利けるね?」
更に険悪なムードが漂い、子供相手に悟が凄むも北都から呼ばれてすぐに表情が甘くなる。
「なになに?北都ちゃんの頼みなら、僕は何だって聞くからね?」
「ありがとう悟さん。取り敢えず車を近くまで呼ぶから、そのまま私の家に戻ろう。それと親睦会はそこでしようと思う」
しかも北都が皆を招待すると言った途端に悠二らが奇声を上げて喜び。さっそく移動を始めると雑木林を抜けて開けた場所に戻る。
そうして車が到着し、悟たちが乗り込むそばで北都が運転手に何かを伝え。用が終わった彼女も乗り込めば、車が静かに動き出す。
そこから北都の家へ向かい、結界を抜けて見事なまでの庭園に辿り着くと悠二たちが言葉もなく驚き。更に彼女の家を見た瞬間、ここは本当に現代なのかと疑うものが目の前に広がった。
「こ、これって………俺教科書で見たことあるけど……」
それこそ白鷺家が古の時代から存在していることを証明するもので。
寝殿造と呼ばれる建築用式はまさに圧巻で、朱塗りの廊下や屋根の造りまで、平安時代のものをそのままここに置いたかのようだった。
「これが白鷺家………」
その圧倒的な姿で佇む建造物を恵が眺めていると、ひとりの男が巫女姿の女性を二人引き連れて現れる。
「お帰りなさいませ、北都様。準備はできておりますよ」
「ありがとう、辰次さん」
すると北都が微笑み、悟たちを促すと中に入った。
「急ごしらえだから行き届かないこともあるが、寛いでもらえると嬉しい」
そう言った彼女が案内したのは客人をもてなす場所でもある客間で。百人くらいは収容できるのではないかというほど広い部屋に、漆塗りの見るからに高価な机と座椅子が置かれている。
それも現代の風習に慣れている悠二たちを配慮したものであり、広い部屋を衝立で仕切ることによって個室のような空間にしているのも北都の配慮か。
「ありがとう、至れり尽くせりで嬉しいよ、北都ちゃん」
当然の如く北都の横に座った悟が、表情を崩しに崩しまくるも三人は他のことに夢中で。物珍しくキョロキョロと辺りを見回す姿を北都が見ればクスクスと笑い、すぐに障子が開くと侍女たちがお茶を運んできた。
「時間も丁度いい頃合いだから、昼食を食べながら話そうか」
そうして北都が立ち上がり、着替えてくると悟に伝えると彼も席を立つ。
「僕も行くよ。辰次さんに悠二たちの分も挨拶しとかないといけないし」
そんな会話に特に疑問も持たず北都が頷き、二人して廊下に出るとふいに悟から腕を掴まれた。
「悟さん?」
その動きに軽く瞬き、北都が見つめるが彼に手を引かれるまま廊下を進み。自分の部屋に到着すると、悟が障子を閉めて閉じ込める。
けれど悟は何も言わず、部屋の中央まで来ると北都が何か言う前に強く抱き締めた。
「………っ」
「綾さんのこと………あの時は葬儀に出ることも、君の傍にいることもできなかった………」
それは悟にとってずっと心残りだった事であり、北都の母親である綾は子供の時から自分を可愛がってくれたひとだったのだ。
そんなひとを悟は実の母親より慕い、また彼女の娘である北都と出逢わせてくれた事に感謝以外なく。
幼いながらに北都と結婚させて欲しいと伝えた時、少し驚いた綾はしかし嬉しそうに微笑みながら、娘を宜しく頼むと言ったのを今でも覚えていた。
「それなら悟さんが気に病む必要はないんだ………。あなたも私も、呪霊と戦う以上は絶対に避けることができない事だとわかっているだろう?それに………もしかしたらお母様はあの時、龍眼で視ていたのかもしれない」
自分がそこで死ぬ未来を視たからこそ、北都を伴わず単身で向かった。
「お母様は生まれつき身体があまり強くなくて、更に龍眼を持ったことによって凶祓として身体を酷使しなければならなかった。けれどそんな素振りさえ見せないお母様をずっと見てきたから………。私はお母様のように強くあろうと思った」
たとえどんなに辛くとも、どんなに苦しくとも、それさえも一斉顔に出さなかった母親。
いつも笑顔を絶やすことなく、北都を厳しくも優しく包み込み、導いてくれた。
「僕も綾さんの事は今でも尊敬してる。彼女がいなかったら、僕はこうして北都を抱き締めることさえできなかった。それくらい、綾さんは僕のことも可愛がってくれていたから」
そんな綾を殺した呪霊を偶然にも払うことに成功し、彼女の無念を少しでも晴らすことができた。
「悟さんが仇を討ってくれたと知れば、お母様もきっと喜んでくれるはずだ」
そう言った北都が悟の胸に頬を擦り寄せ、再びありがとうと囁けば彼の鼓動が否応なく高鳴り。
「今そんなことをすると、悠二たちがいる所に戻れなくなっちゃうけどいいの?北都」
強く抱き締めて腕の中に閉じ込め、耳許で甘く囁くと北都が小さく震える。
だがさすがに勘ぐられてしまうとすぐに気付き、慌てた北都が離れようとすれば唇を奪われ。
「………っん」
ちゅ……と濡れた音と共に唇が離れると、クスリと笑った男。
「可愛い、北都。このまま君とイチャイチャしていたいけど……アイツらが煩いしね。僕は辰次さんに挨拶してから戻るから、北都も着替えたら戻ってて?」
そして顔を真っ赤にして頷く北都のおでこに軽くキスをし、手を振りながら悟が部屋から出ていくと、何とも言えぬ甘い雰囲気に溺れてしまいそうで。
「いや………あなたとなら、このまま溺れても構わない………」
もう一時でも待てないと告げた彼を思いだし。
彼女もまた綾たちが結びつけてくれた五条悟となら、どこまでだって溺れる覚悟はできているから。
「悟さん……」
ほぅ……と甘い吐息をこぼし、北都がゆっくり目を閉じると。
悟に口付けられた唇にそっと触れたのだった。
END.
「それは私の母のことだろう?」
『っ!?』
その言葉に恵たちが息を飲み、目の前の女性を見つめるも北都はまるで凪いだ水面のように静かで。
「私が18の時に、単身で仕事に向かった母はそのまま還らぬひととなった。その時の事を知る者は母以外おらず、ただ魔を祓うことに失敗したと報告を受けただけだった」
その仇とも言えるモノが、今目の前にいる。
普通であれば恨み辛みを噴出させ、怒りの情に任せてぶつけるが。北都はただ静かに佇み、怒りからも遠い場所にいるかのように見える。
『ククク…………ハッハッハッ!これは僥倖なりッ!あの人間の、子供だった……とはッ!!貴様も母と同じく、ここで我らに
「テメェ………いい加減にしとけよ」
けれど北都の横に悠二が立ち、まるで彼女の怒りを代わりに表現しているかのように拳を握ると呪力を纏う。
「テメェのようなクズが、勝手に彼女の母親を侮辱すんじゃねぇよ」
『グハァッ!!』
同時に悠二の拳が呪霊の顔面に炸裂し、北都の刀がズルリと抜けると共に吹っ飛ぶ。
その怒りは野薔薇や恵にも伝染し、木に激しく身体を打ち付けた呪霊目掛けて怒涛のように攻撃を仕掛けると、再生能力すら追い付かない勢いか。
「一対二でマウント取ったくらいで喜んでるアンタは本当にクズね」
「オイ、まだ死ぬんじゃねぇぞ?五条先生が本体倒すまで、テメーはここで地獄の苦しみを味わってろ」
『ぐ………ぁ………ヤメロ!やめ……て、くれ………っ!』
更に悠二が呪力を纏い、止めとばかりに心臓の部分に拳を打ち込むと吼えた。
「
瞬間、悠二たちの目の前で呪霊の身体がドロドロと溶け。悟が本体を払ったのだと分かれば戦いが終わる。
「白鷺さん!!」
すると悠二が駆け寄り、静かに立っていた北都を見ると彼女が頷いた。
「任務完了だ。ありがとう、みんな……」
そんな彼女の姿に三人ともグッと拳を握り。いまだ感情さえ見せない北都を見れば心惹かれるばかりで。
本来であれば止めを刺す事さえ簡単である彼女が、任務だと敢えて悟や悠二たちに任せた。
それは母親への愛情が希薄なのではなく。ただ、北都にとって凶祓の一族である以上、決して避けては通ることができない道だと知っているから。
「北都、終わったよ」
本体を倒した悟が戻り、彼もまた北都の仇だった事を戦いの最中に知った途端に完膚なきまで叩き潰した。
それを北都自身も龍眼で視ていたからこそ何も言わず。目の前に立った男を見ると、同じくありがとうと微笑んだ。
「これで母も浮かばれることだろう。母に代わってお礼を………本当にありがとう」
「北都………」
そんな彼女はすぐに刀を収め、悠二たちの方を見ると時間はあるかと聞いてくる。
「え……?それなら、先生に聞いて───」
「大丈夫だよ。それに、僕の生徒たちはどうやら君のこと好きになっちゃったみたいだから。高専には午後までに戻ればいいし、僕としては不本意だけどここで親睦でも深めちゃおっか」
「マジで!?センセーやるじゃん!!」
すると担任の許可もおりて悠二が喜び、恵がまた頬を染めると悟から思い切り頬をつねられて忠告される。
「恵、お前は下心があるから北都ちゃんに無闇に近付かないように」
「………っ!つかそれは俺個人のことなんで、あんたに言われる筋合いないっすよ?」
「お前…………さっきと言い、よくそんな口を利けるね?」
更に険悪なムードが漂い、子供相手に悟が凄むも北都から呼ばれてすぐに表情が甘くなる。
「なになに?北都ちゃんの頼みなら、僕は何だって聞くからね?」
「ありがとう悟さん。取り敢えず車を近くまで呼ぶから、そのまま私の家に戻ろう。それと親睦会はそこでしようと思う」
しかも北都が皆を招待すると言った途端に悠二らが奇声を上げて喜び。さっそく移動を始めると雑木林を抜けて開けた場所に戻る。
そうして車が到着し、悟たちが乗り込むそばで北都が運転手に何かを伝え。用が終わった彼女も乗り込めば、車が静かに動き出す。
そこから北都の家へ向かい、結界を抜けて見事なまでの庭園に辿り着くと悠二たちが言葉もなく驚き。更に彼女の家を見た瞬間、ここは本当に現代なのかと疑うものが目の前に広がった。
「こ、これって………俺教科書で見たことあるけど……」
それこそ白鷺家が古の時代から存在していることを証明するもので。
寝殿造と呼ばれる建築用式はまさに圧巻で、朱塗りの廊下や屋根の造りまで、平安時代のものをそのままここに置いたかのようだった。
「これが白鷺家………」
その圧倒的な姿で佇む建造物を恵が眺めていると、ひとりの男が巫女姿の女性を二人引き連れて現れる。
「お帰りなさいませ、北都様。準備はできておりますよ」
「ありがとう、辰次さん」
すると北都が微笑み、悟たちを促すと中に入った。
「急ごしらえだから行き届かないこともあるが、寛いでもらえると嬉しい」
そう言った彼女が案内したのは客人をもてなす場所でもある客間で。百人くらいは収容できるのではないかというほど広い部屋に、漆塗りの見るからに高価な机と座椅子が置かれている。
それも現代の風習に慣れている悠二たちを配慮したものであり、広い部屋を衝立で仕切ることによって個室のような空間にしているのも北都の配慮か。
「ありがとう、至れり尽くせりで嬉しいよ、北都ちゃん」
当然の如く北都の横に座った悟が、表情を崩しに崩しまくるも三人は他のことに夢中で。物珍しくキョロキョロと辺りを見回す姿を北都が見ればクスクスと笑い、すぐに障子が開くと侍女たちがお茶を運んできた。
「時間も丁度いい頃合いだから、昼食を食べながら話そうか」
そうして北都が立ち上がり、着替えてくると悟に伝えると彼も席を立つ。
「僕も行くよ。辰次さんに悠二たちの分も挨拶しとかないといけないし」
そんな会話に特に疑問も持たず北都が頷き、二人して廊下に出るとふいに悟から腕を掴まれた。
「悟さん?」
その動きに軽く瞬き、北都が見つめるが彼に手を引かれるまま廊下を進み。自分の部屋に到着すると、悟が障子を閉めて閉じ込める。
けれど悟は何も言わず、部屋の中央まで来ると北都が何か言う前に強く抱き締めた。
「………っ」
「綾さんのこと………あの時は葬儀に出ることも、君の傍にいることもできなかった………」
それは悟にとってずっと心残りだった事であり、北都の母親である綾は子供の時から自分を可愛がってくれたひとだったのだ。
そんなひとを悟は実の母親より慕い、また彼女の娘である北都と出逢わせてくれた事に感謝以外なく。
幼いながらに北都と結婚させて欲しいと伝えた時、少し驚いた綾はしかし嬉しそうに微笑みながら、娘を宜しく頼むと言ったのを今でも覚えていた。
「それなら悟さんが気に病む必要はないんだ………。あなたも私も、呪霊と戦う以上は絶対に避けることができない事だとわかっているだろう?それに………もしかしたらお母様はあの時、龍眼で視ていたのかもしれない」
自分がそこで死ぬ未来を視たからこそ、北都を伴わず単身で向かった。
「お母様は生まれつき身体があまり強くなくて、更に龍眼を持ったことによって凶祓として身体を酷使しなければならなかった。けれどそんな素振りさえ見せないお母様をずっと見てきたから………。私はお母様のように強くあろうと思った」
たとえどんなに辛くとも、どんなに苦しくとも、それさえも一斉顔に出さなかった母親。
いつも笑顔を絶やすことなく、北都を厳しくも優しく包み込み、導いてくれた。
「僕も綾さんの事は今でも尊敬してる。彼女がいなかったら、僕はこうして北都を抱き締めることさえできなかった。それくらい、綾さんは僕のことも可愛がってくれていたから」
そんな綾を殺した呪霊を偶然にも払うことに成功し、彼女の無念を少しでも晴らすことができた。
「悟さんが仇を討ってくれたと知れば、お母様もきっと喜んでくれるはずだ」
そう言った北都が悟の胸に頬を擦り寄せ、再びありがとうと囁けば彼の鼓動が否応なく高鳴り。
「今そんなことをすると、悠二たちがいる所に戻れなくなっちゃうけどいいの?北都」
強く抱き締めて腕の中に閉じ込め、耳許で甘く囁くと北都が小さく震える。
だがさすがに勘ぐられてしまうとすぐに気付き、慌てた北都が離れようとすれば唇を奪われ。
「………っん」
ちゅ……と濡れた音と共に唇が離れると、クスリと笑った男。
「可愛い、北都。このまま君とイチャイチャしていたいけど……アイツらが煩いしね。僕は辰次さんに挨拶してから戻るから、北都も着替えたら戻ってて?」
そして顔を真っ赤にして頷く北都のおでこに軽くキスをし、手を振りながら悟が部屋から出ていくと、何とも言えぬ甘い雰囲気に溺れてしまいそうで。
「いや………あなたとなら、このまま溺れても構わない………」
もう一時でも待てないと告げた彼を思いだし。
彼女もまた綾たちが結びつけてくれた五条悟となら、どこまでだって溺れる覚悟はできているから。
「悟さん……」
ほぅ……と甘い吐息をこぼし、北都がゆっくり目を閉じると。
悟に口付けられた唇にそっと触れたのだった。
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