邂逅
「悟さん、ここは二手に分かれて行こう」
そして雑木林の中に入ってすぐ、北都が提案するも悟はそっこうで却下。
「僕は君から離れないって決めてるから」
「はぁ!?てかこんな時に何言ってんの!?」
途端に悠二がツッコミ。恵と野薔薇がガックリと項垂れると、悟は何のその。
「だって心配なんだもん。僕の大切な婚約者が怪我でもしたらどうするの!?」
「いやいや……なら依頼がきた時点で止めろよ」
遂に野薔薇が青筋を立て、本気で殴ろうか思案していると北都が小さくため息を吐きつつ苦笑。
「悟さん、そろそろ真面目にやろうか」
「ちょ……北都ちゃんまで!僕は至って真面目なんだからね!?」
と言いつつ、ここでも北都を抱き締めると恵が殺気を宿した。
「………いつまでやってんすか、このアホ教師」
瞬間────
「動かないで、伏黒さん」
悟を突き飛ばした北都が囁くと同時に持っていた日本刀の柄に手をかけ。
「────っ!?」
耳のすぐ横で空気が斬られた ような音がして、恵が息を飲む。
そして悲鳴と怒号が混ざったような不快な声が響き渡り、恵のすぐ横に何かがボトリと落ちた。
「さすがだね、北都。僕以外誰も気付いてなかったのに」
「っ………こ、これは………」
足下に転がったそれを見つめ、更に恵が目を見開くとソレはグロテスクな腕か。ビクビクと痙攣するそれはまだ生きているかのようで、野薔薇が心底嫌そうに顔をしかめる。
「………やはり動きが尋常じゃない」
しかもいつ抜刀したのかすら見えず、当の本人である北都は何事もなかったかのように視線を走らせている。
「す、すげえ………呪力がないと攻撃すら当たんねぇのに。簡単に呪霊の腕をぶった斬っちまった……」
それは悠二も野薔薇も、はたまた恵でさえ同じ考えか。
これが異能の力であり、龍眼を持つ北都だからこそ可能にしていて。
「あれは本体ではないな………」
「ああ。一緒に行動しているお仲間だろうね」
悟が土埃をはたきながら答えると、北都から軽く睨まれた。
「今のは悟さんが悪い」
「ごめんってば~、北都ちゃん。本当に真面目にやるからさ!許して?ね?」
それでも悟は嬉しそうで。こうして北都と共に行動できること自体、ようやく叶ったことなのだ。
ずっと離れていたぶん、どうしても傍にいたいと思ってしまうのも相手が北都だから。
「取り敢えず片腕が持ってかれたヤツはさておき。ここは本体を探したほうが得策かな」
悟が草を濡らしているどす黒い血のようなものを確認するも、また北都を見れば彼女も同じか。
「その方がいいと私も思う。本体と思われるもう一体はかなり距離があるが、今の攻撃で必ず動き出すだろう」
「うっし!なら俺らも行こうぜ!」
鞘に刀を収める北都もまた格好いいと悟が喜ぶ横で、悠二が指を鳴らすと再び動き出す。
そこで恵が北都に近付き、気付いた本人が顔を向けると意識して頬が熱くなるのを感じ。
「さっきは……ありがとうございました」
ボソリと呟くと、北都がふわりと微笑む。
「気にすることじゃない。あなたが無事で良かった」
「…………っ」
そんな彼女にやはり惹かれてしまうのは、呪術師でないにも関わらず、異能の力を使い人々を救おうとしている北都に尊敬の念を抱いたからで。
初めて彼女を見たその時でさえ、常人ではない何かを感じていたが。それが異能の力だったのだとわかれば、なおさら恵は意識するばかり。
しかし北都には五条悟という呪術界最強の男が婚約者としていて、今も話し掛けただけで何やら殺気のようなものを飛ばしてくるのだ。分が悪いのもそうだが、今の自分では二人の足下にすら及ばないことがわかっていたから手も足も出ず。
「恵、お前ちょっと近すぎだよ」
案の定、悟が牽制してくると、恵は何も言わずに距離を開けた。
「悟さん」
その時、北都が名を呼び。悟もわかっていたのか頷くと、立ち止まって辺りを見回す。
「もしかして、近くにいるのか?」
そこで悠二もキョロキョロと視線を向け、野薔薇と恵が無言で構えると北都も刀の柄に再び手を掛け。
「北都、僕の後ろにいてね」
悟が自然な動きで前に出ると、頷いた彼女は大人しく後ろに下がった。
それだけでも二人が信頼しあっているのがわかり、恵が唇を噛み締める。
そして役割分担が言葉を交わさずとも成立している証拠でもあり、悟の一言で北都は悠二らの援護にまわったのだった。
「さて、来るよ。みんな」
そんな緊張を孕んだなかでも悟が飄々と声を出し、スッと姿勢を僅かに低くすると突如として何かが激しくぶつかる。
『貴様……ら、よく……も………っ!?』
そこに現れたのは限りなく人型に近い呪霊で。奇襲を狙ったようだったが、悟が纏う無限によって触れることさえなく受け止められている事に気付くと再び姿が消えた。
「まあ動きだけは本当に速いけど、僕には当たらないよ?」
更に悟が背を反らすと目の前を風圧が襲い。その体勢からすぐに蹴りを繰り出すと、視認できない呪霊に当たる。
『が、あ……っ!』
その激しさは木々を薙ぎ倒すほどか、吹き飛ばされた呪霊が木に当たるたびバキバキと折れ。追い討ちをかけるように悟の姿も消えると、北都が悠二らに合図した。
「もう一体が来るぞ」
『了解!』
そうして本体と悟が闘っている間に、残りの一体が北都目掛けて攻撃を仕掛けるも既に誰もおらず。
「虎杖さん!」
「任せとけって!!」
地面に巨大な穴があくと同時、悠二がそこ目掛けて拳を繰り出す。
「チッ!!めっちゃ速いって!」
しかし相手も既に避けた後か、悠二の拳が空振りするとその後を追うように恵の式神である玉犬が走り。
「行け!」
鋭い爪が襲うと、予期しなかった攻撃だったのか呪霊を引き裂いた。
『があぁぁぁ!!おのれぇ………』
だが致命傷は与えることは出来ず、何と傷口が再生し始めると野薔薇が盛大な舌打ち。
「やっぱり本体と繋がってるってワケね!!」
持っていた釘に呪力を込め、ハンマーで叩きつけるようにして攻撃。けれど連続して繰り出されたそれが当たる寸前で軽々と避けられ、肉眼で捉えることが難しい呪霊相手にまるで歯が立たなかった。
「なんなの!?あの馬鹿みたいな速さは!!」
「さすがに見えねぇもんには当たらねぇって!」
そんな敵を前に野薔薇と悠二が地団駄を踏み、唯一攻撃が当たった恵はしかし相手の再生能力であまり効果がなく。
「どうすんだ?白鷺さん。五条先生もどっか行ったし……」
援護に徹していた北都へ声を掛けると、本人がすぐに刀を抜いた。
「悟さんなら近くにいる。彼が本体を倒すまで、こちらはもう一体を引き留めておこう」
「でもどうやって?」
すると北都が微笑み、悠二たちを見れば少し離れるように伝え。
「私は最初から視えて いたから、後は気を引くだけだ」
持っていた刀を僅かに上げたその時。
何もない空中へ向け北都が切っ先を繰り出し、同時にあの不快な声が聞こえる。
『ぐ、う………貴、様………呪力もない………人間の分際で………何故………!!』
そこには何と心臓を貫かれた呪霊の姿があり、悠二たちからしてみると何の気なしに刀身を突き出したようにしか見えなかったのだ。
しかし北都は的確に相手の急所を貫き、致命傷を負わせた。
「私は呪術師ではない、凶祓の一族だ」
『凶………祓………だと?…………っは、まだ………存在していたとはな………』
しかし本体と繋がっているため心臓を貫かれても消滅せず、呪霊が低い声で笑うと自身を貫く刀を握る。
『貴様のその眼…………覚えている、ぞ…………過去に一度…………その眼を持った者を…………』
そこで何かを語り出した相手を北都が見つめ。金色の瞳が濃い影を落とすと、どこからか鈴の音のようなものが聞こえた。
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そして雑木林の中に入ってすぐ、北都が提案するも悟はそっこうで却下。
「僕は君から離れないって決めてるから」
「はぁ!?てかこんな時に何言ってんの!?」
途端に悠二がツッコミ。恵と野薔薇がガックリと項垂れると、悟は何のその。
「だって心配なんだもん。僕の大切な婚約者が怪我でもしたらどうするの!?」
「いやいや……なら依頼がきた時点で止めろよ」
遂に野薔薇が青筋を立て、本気で殴ろうか思案していると北都が小さくため息を吐きつつ苦笑。
「悟さん、そろそろ真面目にやろうか」
「ちょ……北都ちゃんまで!僕は至って真面目なんだからね!?」
と言いつつ、ここでも北都を抱き締めると恵が殺気を宿した。
「………いつまでやってんすか、このアホ教師」
瞬間────
「動かないで、伏黒さん」
悟を突き飛ばした北都が囁くと同時に持っていた日本刀の柄に手をかけ。
「────っ!?」
耳のすぐ横で空気が
そして悲鳴と怒号が混ざったような不快な声が響き渡り、恵のすぐ横に何かがボトリと落ちた。
「さすがだね、北都。僕以外誰も気付いてなかったのに」
「っ………こ、これは………」
足下に転がったそれを見つめ、更に恵が目を見開くとソレはグロテスクな腕か。ビクビクと痙攣するそれはまだ生きているかのようで、野薔薇が心底嫌そうに顔をしかめる。
「………やはり動きが尋常じゃない」
しかもいつ抜刀したのかすら見えず、当の本人である北都は何事もなかったかのように視線を走らせている。
「す、すげえ………呪力がないと攻撃すら当たんねぇのに。簡単に呪霊の腕をぶった斬っちまった……」
それは悠二も野薔薇も、はたまた恵でさえ同じ考えか。
これが異能の力であり、龍眼を持つ北都だからこそ可能にしていて。
「あれは本体ではないな………」
「ああ。一緒に行動しているお仲間だろうね」
悟が土埃をはたきながら答えると、北都から軽く睨まれた。
「今のは悟さんが悪い」
「ごめんってば~、北都ちゃん。本当に真面目にやるからさ!許して?ね?」
それでも悟は嬉しそうで。こうして北都と共に行動できること自体、ようやく叶ったことなのだ。
ずっと離れていたぶん、どうしても傍にいたいと思ってしまうのも相手が北都だから。
「取り敢えず片腕が持ってかれたヤツはさておき。ここは本体を探したほうが得策かな」
悟が草を濡らしているどす黒い血のようなものを確認するも、また北都を見れば彼女も同じか。
「その方がいいと私も思う。本体と思われるもう一体はかなり距離があるが、今の攻撃で必ず動き出すだろう」
「うっし!なら俺らも行こうぜ!」
鞘に刀を収める北都もまた格好いいと悟が喜ぶ横で、悠二が指を鳴らすと再び動き出す。
そこで恵が北都に近付き、気付いた本人が顔を向けると意識して頬が熱くなるのを感じ。
「さっきは……ありがとうございました」
ボソリと呟くと、北都がふわりと微笑む。
「気にすることじゃない。あなたが無事で良かった」
「…………っ」
そんな彼女にやはり惹かれてしまうのは、呪術師でないにも関わらず、異能の力を使い人々を救おうとしている北都に尊敬の念を抱いたからで。
初めて彼女を見たその時でさえ、常人ではない何かを感じていたが。それが異能の力だったのだとわかれば、なおさら恵は意識するばかり。
しかし北都には五条悟という呪術界最強の男が婚約者としていて、今も話し掛けただけで何やら殺気のようなものを飛ばしてくるのだ。分が悪いのもそうだが、今の自分では二人の足下にすら及ばないことがわかっていたから手も足も出ず。
「恵、お前ちょっと近すぎだよ」
案の定、悟が牽制してくると、恵は何も言わずに距離を開けた。
「悟さん」
その時、北都が名を呼び。悟もわかっていたのか頷くと、立ち止まって辺りを見回す。
「もしかして、近くにいるのか?」
そこで悠二もキョロキョロと視線を向け、野薔薇と恵が無言で構えると北都も刀の柄に再び手を掛け。
「北都、僕の後ろにいてね」
悟が自然な動きで前に出ると、頷いた彼女は大人しく後ろに下がった。
それだけでも二人が信頼しあっているのがわかり、恵が唇を噛み締める。
そして役割分担が言葉を交わさずとも成立している証拠でもあり、悟の一言で北都は悠二らの援護にまわったのだった。
「さて、来るよ。みんな」
そんな緊張を孕んだなかでも悟が飄々と声を出し、スッと姿勢を僅かに低くすると突如として何かが激しくぶつかる。
『貴様……ら、よく……も………っ!?』
そこに現れたのは限りなく人型に近い呪霊で。奇襲を狙ったようだったが、悟が纏う無限によって触れることさえなく受け止められている事に気付くと再び姿が消えた。
「まあ動きだけは本当に速いけど、僕には当たらないよ?」
更に悟が背を反らすと目の前を風圧が襲い。その体勢からすぐに蹴りを繰り出すと、視認できない呪霊に当たる。
『が、あ……っ!』
その激しさは木々を薙ぎ倒すほどか、吹き飛ばされた呪霊が木に当たるたびバキバキと折れ。追い討ちをかけるように悟の姿も消えると、北都が悠二らに合図した。
「もう一体が来るぞ」
『了解!』
そうして本体と悟が闘っている間に、残りの一体が北都目掛けて攻撃を仕掛けるも既に誰もおらず。
「虎杖さん!」
「任せとけって!!」
地面に巨大な穴があくと同時、悠二がそこ目掛けて拳を繰り出す。
「チッ!!めっちゃ速いって!」
しかし相手も既に避けた後か、悠二の拳が空振りするとその後を追うように恵の式神である玉犬が走り。
「行け!」
鋭い爪が襲うと、予期しなかった攻撃だったのか呪霊を引き裂いた。
『があぁぁぁ!!おのれぇ………』
だが致命傷は与えることは出来ず、何と傷口が再生し始めると野薔薇が盛大な舌打ち。
「やっぱり本体と繋がってるってワケね!!」
持っていた釘に呪力を込め、ハンマーで叩きつけるようにして攻撃。けれど連続して繰り出されたそれが当たる寸前で軽々と避けられ、肉眼で捉えることが難しい呪霊相手にまるで歯が立たなかった。
「なんなの!?あの馬鹿みたいな速さは!!」
「さすがに見えねぇもんには当たらねぇって!」
そんな敵を前に野薔薇と悠二が地団駄を踏み、唯一攻撃が当たった恵はしかし相手の再生能力であまり効果がなく。
「どうすんだ?白鷺さん。五条先生もどっか行ったし……」
援護に徹していた北都へ声を掛けると、本人がすぐに刀を抜いた。
「悟さんなら近くにいる。彼が本体を倒すまで、こちらはもう一体を引き留めておこう」
「でもどうやって?」
すると北都が微笑み、悠二たちを見れば少し離れるように伝え。
「私は最初から
持っていた刀を僅かに上げたその時。
何もない空中へ向け北都が切っ先を繰り出し、同時にあの不快な声が聞こえる。
『ぐ、う………貴、様………呪力もない………人間の分際で………何故………!!』
そこには何と心臓を貫かれた呪霊の姿があり、悠二たちからしてみると何の気なしに刀身を突き出したようにしか見えなかったのだ。
しかし北都は的確に相手の急所を貫き、致命傷を負わせた。
「私は呪術師ではない、凶祓の一族だ」
『凶………祓………だと?…………っは、まだ………存在していたとはな………』
しかし本体と繋がっているため心臓を貫かれても消滅せず、呪霊が低い声で笑うと自身を貫く刀を握る。
『貴様のその眼…………覚えている、ぞ…………過去に一度…………その眼を持った者を…………』
そこで何かを語り出した相手を北都が見つめ。金色の瞳が濃い影を落とすと、どこからか鈴の音のようなものが聞こえた。
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