邂逅

「北都ちゃん、お待たせ~!」

そこで悟が手をブンブンと大きく振り、ハートマークが飛び出さんばかりの笑顔を見せると本人が目許をポッと染める。
けれどすぐに気を取り直して微笑み、悠二たちを迎えると口を開いた。

「先日以来だが、まずは自己紹介をさせてくれ。私は白鷺北都。白鷺家の当主でもある。宜しくお願いする」

「俺は虎杖悠二でっす!!宜しくお願いしまっす!」

「俺は伏黒恵。宜しくお願いします」

「私は釘崎野薔薇、宜しくね」

そして目の前の女性を見れば、モデルをしているかのような見事なプロポーションか。一切の無駄のない服装は所謂モード系に近く。黒を基調としているのは仕事の効率を配慮していて。
圧倒的な存在感でもって佇み、金色の瞳が三人を見れば全てを見透かされそうな感覚に陥った。
更に五条悟と並べば互いを引き立てる綺麗な顔立ちをし、全てにおいて完璧な女性は微笑むだけで見る者を魅了してやまず。

「本来であれば私だけが動くはずだったが、五条先生があなたたちを連れて行くと聞かなくてな」

「それなら心配いらねぇし!先生いつもこんな感じなんで、気にしないでください!」

さっそく悠二がいつも通りだと笑うと、悟から頭に手刀を喰らった。

「こーら。僕がいつも破天荒みたいなことを言わないでくれるかな?」

途端に野薔薇が吹き出し、続けて恵も鼻で笑うと悠二はおかんむりか。

「痛ってぇーし!つーかネコ被ったってすぐにバレるんだからな!!」

「ん?心外だねぇ、悠二君。僕がいつネコを被ってるって?」

「それがだっつーの!!」

そんなやり取りをしかし北都は特に怒ることなく眺め、クスクスと笑えば恵は目を離せず。
初対面であれば冷たい印象をもたれがちだが、かと言って最初から近寄りがたい人ではなく。物腰は柔らかで、悟と悠二のやり取りを見ても呆れるどころか楽しそうに見つめている。
そんな女性がどうして五条悟の婚約者なのか。白鷺家当主と名乗るくらいだから、悟と同じような家柄だとわかるが。
恵とて伏黒と名乗ってはいるが、悟から御三家である禪院家の血が流れていると聞かされ。そんな家同士の繋がりから勝手に決められた婚約者なのだろうと推測。

「五条先生、あまり時間がないのでそろそろ出発しようか」

「わかったよ。でもその前に、いつもみたいに名前で呼んでくれないと怒るからね?」

北都に促されるも、あからさまに婚約者モードを見せつけると野薔薇につっこまれていたが。
そうして北都が用意したという黒塗りのリムジンに乗り込み、悠二が子どものようにはしゃぐのを他所に目的地へと向かう。

「とりあえず簡単に説明する。場所はどうやら呪術高専に近い所のようだが、相手は広域を素早く移動するのに長けているらしい。現在地を把握しているが、そこにいる可能性は低いだろう」

そこで北都がかいつまんで説明し、俊敏な呪霊のようだと悠二たちが把握。

「でもそうだとしたら、今その目的地に向かっても意味がないんじゃ?」

更に野薔薇が尤もなことを言い、恵がじっと北都を見つめると何やら悟の視線を感じ。

「そうだな。だがそこは心配ない」

北都がフッと微笑むと、窓の外を見つめ。

「ターゲットの位置はあらかたわかっているから」

金色の瞳が一瞬光ったように見えると、三人が息を飲んだ。

「さすが北都ちゃん!でもあまり力を使っちゃうと負担が大きくなるから、そこは僕に任せてくれる?」

しかも悟が気遣う様子を見せるが、三人にはさっぱり理由がわからない。

「あのー……聞いてもいいかわかんねぇけど、白鷺さんが持つ『力』って、何なんだ?」

だがそこを一歩踏み出すのが悠二であり、野薔薇がデリカシーのないヤツと横槍を入れたが当の本人は特に気にした素振りはなく。悟でさえ何も言わずに彼女を見つめると、北都が笑みを浮かべて頷いた。

「これを話してもあなた達には理解し難いだろうが……。私は皆からすれば非術師だ。そもそも呪力を扱うという概念がなく、代わりに私のような『凶祓』の一族の身体には龍門チャクラというものが存在している」

「凶祓と龍門……?」

その聞き慣れない言葉に恵が呟き、北都が視線を向けると更に説明する。

「もともと人は七つの龍門を持つと言われ、私たちはそれを七龍と呼ぶ。七つの龍門はそれぞれ木・火・土・金・水・風・空を司り、世界を構成する八番目の元素として存在するものだ。その龍門は一般人でも持っているものとされているが、私のような『異能の力』を持つ者はそれとは別に独自の龍門を持っている」

それこそが『異能』と呼ばれる由縁であり、白鷺家が持つ力。

「私が持つ異能の力は『龍眼』と呼ばれ、通常では視えないモノが視える能力とも言える」

「っ……普通じゃ視えないものが視えるって、マジか」

それだけでも信じられない話であり、呪術師から見れば『異能者』という存在だけでもまったく別次元の存在なのだ。しかも非術師である悠二にとってはまさに宇宙人のようなもので。

「そうだ。だから私は呪力がなくとも呪霊を視ることができる。そして凶祓というのは、異能者が自らの身体に『魔』を降ろし、『魔』を滅ぼすことを言う。呪術師と同じく古くから存在し、その異質な力のために『魔』だけでなく人間たちからも恐れられた」

だから結界を張り、常人たちから世界ごと隔離していたのだと説明すると納得か。
異能者という存在を知られていない事もそこからきているのであり、その存在故に呪術師とも密接な関わりがあったからこそこうして彼女と出会えた。

「なるほどね。だから五条先生とも面識があったってわけね」

野薔薇が腕組みしつつ頷き、悟が目の前で北都の肩を抱き寄せると得意気か。

「そうゆうこと!だから僕と北都ちゃんは子供の頃からこうして愛を深めていったってわけだ」

「てかなんで話がそこまで飛躍するんだよ……」

悠二がご馳走さまですと適当に言い、しかし恵はまだ信じてない目を向けていて。

「それって、家同士が決めたもんですよね?」

とうとう口に出すと、双方の間に緊張がはしった。

「へぇ……やっぱりそう思ってたんだ、お前」

そして悟が口の端を上げ、ただならぬ気配を発するが恵は最初から彼とやり合う気はない。

「ま、俺は家柄なんてどうでもいいんで。それに俺は俺のやり方でやるって決めてるから」

どこか意味深な言葉に、しかし悟は敢えて何も言わず。

「悟さん……そろそろ離してもらえないだろうか」

そこで恥ずかしくなった北都が身動ぎすると、泣く泣く彼が手を離したのだった。

それから暫くの間、それぞれが雑談をしていると田んぼや雑木林などが広がる場所に到着する。
そこで北都が車を止めるよう合図し、ここからいよいよ任務が始まるのだと察すると、悠二たちも気を引き締めた。

「だいたいこの地点が報告のあった場所だ。ここ一体は家も少なく、被害もあまり出ていなかったが………」

そのまま全員が車から降り、北都がざっと辺りを見回す。
どうやら呪霊の気配を感じるのか。横に立つ悟も何の気なしに雑木林を見ているが、いつものお茶らけた姿を見せないことから緊張感が漂った。

「気配は感じるけど………ピンポイントの位置がまだわからないかな」

「先生でもそんな感じなのか?」

そうなると厄介な敵なのか。強さはまだ謎ではあるが、動きに関して言えばかなり速いと言える。

「高速移動が可能なのかもしれないな。それにどうやら単体ではなさそうだ」

「まさか……複数いるってこと!?」

更に北都が呟き、野薔薇が拳を握り締めると雑木林を睨むようにして見つめ。悠二や恵までも複数体との戦闘にはまだ慣れていないこともあって、更に神経を張りつめさせる。
しかしここで突っ立っているわけには行かず、北都が行こうと促すと四人が後に続き。先頭を彼女が歩いているのを見た悠二が、悟に大丈夫なのかと目配せすれば彼は笑みを浮かべて頷いた。


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