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平和な日常~秋~

「そうそう、面白い人が麻帆良に居ますよ。 貴方の娘と仲がいいので、もう会ったかも知れませんが」

「横島君か?」

「ええ、人間を見て底知れぬ何かを感じたのは久しぶりですよ」

しばらく重苦しい空気が辺りを支配したが、アルはそんな空気を変えるように話を変える。

しかし詠春はアルの横島の評価を聞くと少し不安そうな表情を浮かべた。


「毒になるか薬になるかは紙一重ですからね」

不安そうな詠春をからかうような笑顔を浮かべるアルだが、人のことを言えた義理ではなく横島よりも数倍胡散臭い表情をしている。


「お義父さんは彼を信頼してるようだが……」

娘である木乃香を案じる詠春だが、どちらかと言えば娘に親しい男が出来て複雑な心境の父親に近いだろう。

詠春も近右衛門が信頼する人間が危険な可能性が高いとは思わないが、娘に近すぎるのは少々気になっていた。


「年頃ですからね。 貴方の娘も恋もするでしょうし、ナギのような男よりはマシかも知れませんけど」

アルは明らかに詠春で遊んでいる。

実際横島に何かを感じたのは確かなのだろうが、それ以上に詠春を煽ってどうなるかと楽しんでるらしい。

しばらくそんな会話を続ける二人だが、アルを監視していた土偶羅は余計なことをするアルに頭を痛めていた。



その頃散歩から帰宅した横島は、店の厨房で昼食用の弁当を作っていた。

体育祭はあちこちの会場で行われるので、昼食は各自自由に食べることになっている。

今日は家族が来る人も多いので家族で昼食を食べる人も多いが、家族が来ない人もまた多く常連の女の子達に頼まれ弁当を作っていたのだ。


「どうだ?」

「おいしい!」

和風や洋風など数種類の弁当を作る横島だったが、手伝いをしているタマモが食べたそうに見ているので一口サイズのおかずを食べさせてあげる。

もぐもぐと食べながら嬉しそうな笑顔を見せるタマモに、横島は思わずもう一口食べさせるとおかずを弁当に詰めていく。


「今日のお弁当はなんか豪華ですね」

「体育祭だからな。 つい俺の学生時代の運動会を思い出してさ」

日頃さよや木乃香達なんかの弁当を作っている横島は、キャラ弁なんかも作ったりと元々派手な弁当を作るが今日は一段と豪華で派手だった。

さよはそんな弁当を見て喜ぶが、横島は自身の小学校の運動会を思い出してつい豪華になったと笑っている。

横島の小学校は普通の学校だったのでよくあるような普通の運動会だったが、運動会の日は母である百合子も横島の好物をたくさん作ってくれたことを思い出していた。


「運動会ですか?」

「ああ、体育祭みたいに派手じゃないけど楽しかったんだよ」

横島の過去の話にさよとタマモは興味津々な様子だったが、横島はごくごく普通の運動会だったと懐かしそうに語る。


「それにみんなが頑張れるようにって考えたら、つい気合いが入たんだよ」

豪華かつ彩り鮮やかな弁当を完成させると、横島はタマモとさよと朝食にしつつ頼まれていた子達が店に弁当を取りに来るのを待つことになる。

久しぶりに三人でゆっくりと朝食を食べつつ、横島もタマモもさよも今日の体育祭が楽しみで仕方ないようだった。


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