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その三

「冷蔵庫とテレビに掃除機くらいは欲しいですわね。」

「やっぱあの冷蔵庫じゃ小さいっすよね。」

さて部屋が決まった横島だがそこからが大変だった。

横島の部屋にあるのは両親がどっからか貰ってきた古い冷蔵庫とテレビなどの電化製品と横島の荷物になるが、あまりに立派過ぎる部屋にそのままあの部屋の冷蔵庫やテレビでは流石にどうなんだろうと電気屋などを巡って必要な家電を揃えなくてはならない。

他にも洗濯機は部屋の前にあるので雨風で少し傷んでるし掃除機は存在そのものがない。


「ベッドも必要ですし家具も最低限の物は揃えた方がいいですわね。」

そして家具もマンションはフローリングなのでベッドやテーブルにソファーくらいは必要だろうし、考えれば考えるほど買うものが増えていく。

横島はいっそ狭い個室一つで生活しようかとすら考え始めるものの、意外に楽しげに家電や家具を見て回るかおりの姿に任せようかと半ば考えるのを放棄し始めている。

最近は卒業後に通い始めた自動車学校にもようやく慣れてきて日課となりつつあるし、夕方には学校帰りのかおりがほとんど毎日来ては修行や勉強をしつつ体を重ねる日々となっていて早く引っ越して欲しいと語るかおりの要望に合わせる形であちこち見て歩いていた。


「ベッドはセミダブルは欲しいですし、カーテンはこれなんてどうかしら?」

「いいと思いますよ。」

かおりは高いブランドやらメーカーに拘る訳ではないがそれでも部屋のインテリアとしてきちんと考えていて、住めれば何でもいい横島の曖昧な返事に時々不満そうにしつつも相談しながらあれこれと決めていく。

おキヌにも話した通り決して住む訳ではないが、放っておくとせっかくの高級マンションを狭い一角だけで万年床にして過ごしてしまいそうだがそれは流石に嫌なようだ。

ドラマのようなおしゃれな部屋とまではいかなくても最低限部屋に見合う生活はして欲しいし、贅沢をしたい訳ではないがかおりとて若い女性なのでせっかく借りた部屋を居心地よくはしたいと当然思っている。

借りたのは4LDKなのだがリビングとダイニングとキッチンは一体化した広い物件で、一部屋は寝室に一部屋はオカルト関係の勉強に必要な書斎にして残りの二部屋は開けておく予定だった。

横島はかおりに一部屋は使ってもいいと話したがとりあえず卒業まで一年は住む予定もないし、荷物はせいぜい着替えを置くくらいなので流石に一部屋は必要ない。

まあかおりはそれでもそんな横島の言葉に素直に喜んでいて機嫌が良くなりはしたが。


「こういう普通のマンションに住むの少し憧れてたんですわ。 前は古い寺の母屋でしたから。」

引っ越し自体はまだしてないが先に一部の荷物や家電は運んで貰っていて、まだがらんとしたマンションで少しずつ住む準備をするがふとかおりは夢だったと本音を口にする。

自分はこのままこの寺で生涯を終えるのかと覚悟していた部分とそれは嫌だと反発していた部分が彼女にはあった。


「父は理解してくれないでしょうけど。」

別に闘竜寺が嫌いだった訳ではないが、やはり父のようになるのかと思うと霊能者としてはともかく家庭人としてはゾッとしかしなかったのだろう。


「贅沢をしたいとは言いませんわ。 でもこういう場所でこれから二年は過ごすのかと思うとワクワクしてしまいます。」

恋人が高級マンションに住みそこに通う自分の姿を想像するかおりは年相応の女の子だった。

横島は未だに不安も多いが嬉しそうなかおりの姿にこれはこれで良かったのだろうと思えるようになり始めていた。


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