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二年目の春・2

「さくらさかないね。」

同じ頃タマモはいつものようにビッケとクッキにチャチャゼロと庭の猫達と一緒に散歩に出ていたが、散歩の途中にある民家の庭にある桜の木を見上げて残念そうにしていた。

ここ数日は早ければそろそろ咲くかもしれないと言うので毎日楽しみに散歩途中にある桜の木々を見て回っているが、肝心のここ数日は気温があまり高くないせいか開花予想よりも遅れそうな気配なのである。


「おや、今日もお揃いだね。 今お茶を入れてあげよう。」

そこは以前から立ち寄っているタマモ達の散歩途中にある民家であった。

すでに定年を迎えたらしい老人が暮らしてる家で麻帆良では珍しい純和風の家と庭なのである。


「きょうこそはさくとおもったのに。」

「桜は咲いてから散るまでが早いからね。 こうして咲くのを待つのも楽しいもんだよ。」

いつも散歩に行くのに背負っているリュックからチャチャゼロを出してやると老人の家の縁側で出されたお茶を飲み庭を眺めるタマモに、老人は笑いながら咲くのを待つ楽しみを語って聞かせる。

一年のうちで数日しか咲かない桜が咲くのを待つ時間は、幼い子供には長く感じるのかもしれないと老人は思う。


「さくらがさいたらね、おまつりでおみせやるんだよ。 わたしもがんばってはたらくんだ!」

「そうかい。 それじゃわしも行かねばならんな。 春祭りなんて何年ぶりじゃろうか。」

老人はタマモがマホラカフェの子供だと知っているし、タマモが散歩に来るようになってから週に一度ほどだが店にも顔を出してる常連だった。

春祭りで麻帆良亭が限定復活するのも横島の店に貼られている春祭りのポスターで知っていたが、ワクワクを押さえきれない表情で説明するタマモに合わせるように知らないふりをして話を聞いてやっている。


「あっ!? おにいさんまたえをかくの?」

「ああ、桜の絵を描こうと思ってね。」

その後老人宅を後にしたタマモは再び散歩に戻るが、途中で昨年知り合った絵描きの青年に出会う。

この青年は本来ならば昨年末には人知れず麻帆良から去っていたはずの人であるが、偶然出会ったタマモの絵を描いたことをきっかけに現在は雪広清十郎の支援の元で画家を続けている。

自身も絵を描く趣味がある清十郎は若い芸術家の支援などにも積極的で、芸術的なセンスもある清十郎に見込まれると業界で注目を集めることも少なくない。

この青年も現在密かに注目を集め始めている一人であった。


「そっか~、かんせいしたらみせて!」

「もちろんいいよ。 君は僕の画家としての恩人だからね。」

「おんじん?」

「君に助けてもらったってことだよ。」

まだ何も描かれていないキャンバスを覗きこんだタマモは早くも画家の青年の描く次の絵が楽しみなようで、さっそく見せてもらう約束を取り付ける。

青年はタマモを恩人のような存在だと認識してるらしく喜んでタマモに見せる約束をするも、タマモ自身は恩人だと言われてもその言葉の意味を説明しても不思議そうに首を傾げるだけだった。

タマモにとって青年は友達の一人であり、一緒にお話をして絵を描いてもらったとの印象しかないのだ。

まあタマモは青年が楽しげに笑顔を見せてることで、言葉の意味を深く気にすることはなかった。



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