終わりと始まり

目を開くと、すでに太陽は高く登り窓からは暖かい日差しが入っていた


「あれ… 私は…」

何故自分がこんな時間まで寝ていたのか理解出来ない

そんなおキヌの頭がようやく働きだした時、部屋に令子が入って来る


「おキヌちゃん、気分はどう?」

最近久しく見ないような優しい笑顔をした令子が、おキヌを心配そうに見つめていた


「おはようございます」

一瞬いつもの笑顔で挨拶するおキヌだが、その笑顔はすぐに消えてしまう

昨日の出来事が、フラッシュバックのように甦ってきたのだ


「おキヌちゃん、冷静に聞いてね。 横島君は事務所を辞めたわ。 タマモとシロは横島君が保護していくそうよ」

自分の心や体が震えるのを抑える令子は、優しい笑顔を必死に作りおキヌに話して聞かせるが

おキヌは顔面蒼白になり、とても精神的に持ちそうに無い


「よく聞いておキヌちゃん。 出会いと別れは必ずあるわ。 それが生きることなんですもの。 私は…、私は横島君に別れを言われてしまった。 でもあなたは別よ。 少し落ち着いて、冷静に話せるようになったら会いに行きなさい。 しっかり横島君と向き合って気持ちぶつけて来なさい」

優しく語る令子だが、途中で言葉が詰まってしまう

そして本人も気付かぬうちに涙が溢れていた

母親でも西条でも無く、令子がその涙を見せた相手はおキヌであった


「美神さん…」

おキヌは令子にしがみつくように泣いてしまう

そしておキヌを慰めるようにする令子も涙が止まらない


現在の令子の崩壊寸前の心を支えていたのはおキヌの存在である

本当の家族の居ないおキヌにとって令子や横島が特別な存在なのに対して、令子の中でもおキヌは特別な存在だった


そして令子の優しさと献身的な支えにより、おキヌは最悪の状態を乗り越えることになる

無論ショックは消えないし、横島への気持ちや想いは募る一方だ

だが、辛い気持ちを必死に抑え自分を支えてくれる令子の姿に、おキヌは自分も令子を支えなくてはと思う

横島を失った令子の気持ちを一番理解しているのは、やはりおキヌである


「美神さん、お腹が空きましたね。 ご飯作ります」

ちょうど3時を回る頃、二人は一応落ち着いて涙が止まっていた

おキヌは令子を元気付けるためにも、いつもの生活に戻ろうと決める


「そうね… たまには一緒に作ろうかしら」

互いに傷付き崩壊しそうな心を思いやるように、二人はゆっくり歩みだしてゆく



失ったモノは戻らないかもしれない

それでも、自分は生きて行きたいとおキヌは思う


(この人生は美神さんと、横島さんが暮れたもの… 大切な人生なんだもの)

すぐに消えてしまうかもしれない微かな希望の灯

それを必死に守るようにおキヌは立ち上がる


まだ、横島に会う勇気は無い

でも…

必ず自分は横島に会いに行く


おキヌはそう心に誓っていた


11/12ページ
スキ