十二月に入ると街は早くもクリスマスの賑わいと冬の気配で満ちており、麻帆良の人々に秋の終わりを告げる。


「いらっしゃいませ！」

この日は少し薄曇りのあいにくの天気だったが、営業再開した宮脇食堂には開店早々にお客さんが訪れていた。


「潰れたかと思ったけど、まだやるのか？」

「ちったあマシな料理作れるようになったんだろうな」

開店とほぼ同じく訪れたのは母親の時からの常連の中年男性で、来店回数こそ減ったが一ヶ月前の休業まで時々来てくれた常連だった。

元気よく挨拶をした久美と厨房に見える伸二に憎まれ口を叩く辺りは以前から変わらぬ様子だが、少し嬉しそうなのは馴染みの店が潰れたかと彼らも心配していたからだろう。


「お兄ちゃん一ヶ月頑張ったんだよ！」

「どうでしょうね。　まあ食べてみて下さい」

そんな懐かしい顔ぶれに久美と伸二は笑顔を見せ、伸二は来店第一号の客の料理を作り始める。


「そりゃ、折り紙か？」

「えへへ、商売繁盛のお守りなのよ。　可愛い福の神様のお手製なんだから」

営業再開した食堂の店内は休業前より清潔感がある分だけ明るい雰囲気になっており、店の壁には一枚の写真と一緒に折り紙のお守りが額縁で飾られていた。

写真は昨日の夕方の宮脇兄妹卒業パーティーの時に撮った写真であり、伸二と久美と一緒に横島達や多くの少女達が笑顔で写っている。

久美が嬉しそうに写真の話から、この一ヶ月の修業を語る姿を常連の二人は楽しそうに見つめていた。



「大丈夫そうだな」

「そうですね」

一方宮脇食堂から少し離れた路上には人目を引くような赤いコブラが止まっている。

少し寒いからか革ジャンを着た横島とコートを着た夕映の二人が、開店する前から宮脇食堂を見守っていたのだ。


「やはり不安だったんですか？」

「まあな。　一ヶ月で教えれることは教えたけど、経験を積むのはこれからだからな。　失敗もまだまだあるだろうしさ」

開店早々に客が入った後もぽつぽつと客が入っていき、混雑とは言わないまでもそこそこ賑わう姿に横島は本当にホッとした様子だった。

夕映は横島が宮脇兄妹には絶対に見せなかった不安を感じていた一人であり、その本音を尋ねるが横島あっさりと不安だったと言い切る。

正直独り立ちさせるにはまだ早いというのが横島の本音だが、それでもやらねばならない伸二には独り立ち出来るだけの基礎や心構えは授けたつもりだった。


「一応、次のテコ入れも検討してるですよ」

「そこまでは必要ないかも。　なんとなくだけど上手く行く気がする。　まあ時々顔を出してやる必要はあるだろうけどな」

横島と夕映は店の再開がひとまず成功したことを心から喜びつつも、今後の二人の行方を気にしている。

ただ横島の霊感は密かに伸二達の成功を感じていた。

それは決して順風満帆ではないだろうが、伸二と久美の兄妹ならば頑張れるだろうと思う。


「さて、行くか」

「はいです」

とりあえず自分の出番はないなと感じた横島達は、そのままコブラを発進させて宮脇食堂から離れていく。