平和な日常~秋~3

この日はちょうど土曜日ということもあり、横島の店は午前中から学生達が来店していた。

いつもならばそれぞれ自由に寛いだりおしゃべりを楽しんだりしている頃だが、この日はお昼を過ぎた頃になると一風変わった雰囲気になっている。


「カンパーイ!」

「カンパーイ!!」

店内のフロアではいつの間にか集まった常連の少女達が、妹の久美と一緒に宮脇兄妹の卒業パーティーだと称して騒ぎ出していたのだ。

兄の伸二は相変わらず厨房で料理修業を続けているが、そんな伸二が今日まで修業で作った料理でよほど酷い失敗をした物以外は大半がその時に店に居た客に試食として振る舞われていた。

その影響もあってか店の常連は宮脇兄妹の応援をしている。

基本的に厨房に篭る伸二はあまり顔を合わせることはなかったが、久美はフロアでいろいろ勉強していたので常連達のノリにすっかり慣れていた。


「よかったね~」

「正直最初の頃は無理かと思ったわよ」

何かある度にパーティーをやるのは最早店の名物と化しており、この日は入れ替わり立ち替わり常連達がやってくる。

無論2-Aの少女達も多いしそれ以外の学生も多い。

数は少ないが近所の老人などの年配者も居るなど、若干カオスのようになってるが今更なことだろう。


「私も本当どうしようかと思ったよ。 お兄ちゃん考えてるようで考えてないし……」

多くの常連に祝いの言葉を言われ若干涙ぐみながら久美はこれまでの不安や苦労を口にするが、それもすぐに笑顔に変わっていくのは久美や常連の少女達にとって先行きが明るいからだろう。

すでに店の再建が成功したかのようなお祭り騒ぎの原因は、この約一ヶ月での伸二の料理の腕前が確実に上がったことと横島達への理由なき期待値が大きい。

実際横島達からすると過大評価だとしか思えないが、正直一度騒ぎ出すと止めるのは難しいし明日からは二人で頑張らねばならない宮脇兄妹のテンションを落としても仕方ない。


「皆さん元気過ぎるです」

「明るく前向きなことはいいことだけどね」

一方夕映とのどかは普段使わない大きい方の個室であやかと千鶴に手伝って貰いながら、営業再開後のサポートと第二弾のテコ入れの検討に入っていた。

麻帆良カレーの話題性と伸二の現状の料理の腕前なら恐らく赤字は脱出するとは思われるが、場合によっては新たなテコ入れも必要かもしれないと夕映達は考えている。

基本的に慎重な考えの夕映とのどかは全てが上手くいくとは考えてないし、それに伸二を麻帆良カレーの提供店にしたので下手に潰れると麻帆良カレーの方にも悪影響が出てしまう。

そのため今のうちから対策を考えるのが必要だと判断したらしい。

部屋の外からは賑やかな声が響き、夕映やのどかは楽観的過ぎると少し困ったように笑っているがいつものことでもある。


「大丈夫よ。 きっとなんとかなるわ」

そんな状況の中でも夕映・のどか・あやか・千鶴の四人は悪かった場合を考えているが、意外なことに千鶴もまた対策は考えているが本心では楽観的なうちの一人であった。

元々千鶴とあまり関わりがなかった夕映達はさほど気にしてないが、幼い頃より付き合いがあったあやかなどは少し前から千鶴が変わったと感じる。

以前と比べると少し幼くなったというか年相応な反応をするようになったと感じるのだが、本人はあまり意識してないらしく気付いてなかった。



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