異邦の占い師

「そうや! お兄さんの連絡先教えてえな」

まるで明日にでも居なくなりそうな横島に、木乃香は電話番号かメールアドレスでも聞こうと考えたらしい

木乃香個人は横島の占いが凄いとは感じるが、客が増えるとは思えなかったようだった


「あー、そりゃ無理だ。 俺携帯持ってないし家もないからな」

「えっ!?」

携帯もなく決まった住所もないと言う横島に、木乃香と明日菜の二人は驚きの声がハモってしまう


「適当に金稼いではあちこち旅してたからさ。 携帯もあんまり使わないから、しばらく持ってないんだわ」

「そうなんや……」

21世紀の現代で放浪の旅をしてると告げる横島に、木乃香と明日菜の二人は驚きを隠せない

木乃香と明日菜の二人は、てっきり近くの高校生がバイト代わりに占いを始めたと思っていたのだ


「それじゃ今はホテルなんですか?」

「ホテルはあんまり泊まらないかな。 ここは治安がいいから野宿したりしてるよ」

軽い表情と似合わぬシビアな生活に、二人は驚きどこまで聞いていいか戸惑っていたようだった


「じゃあウチの連絡先教えるから、移動する時は教えてえな」

連絡先が全くないと言う横島に木乃香は僅かに考えた後、自分の携帯番号を横島に渡す

やはり木乃香は占いを教えてもらう気満々だった


「ああ、いいよ。 しかし人に教えるほどのコツなんてないんだがな~」

話を適当に逸らしていた横島だが、案外占いにこだわる木乃香に微妙に苦笑いを浮かべる

オカルト技術が秘匿されてる世界で、横島の占い方法を他人に教えるのは難しかった


「ほな、またね~」

居なくなる前に連絡をするという最低限の約束を交わした木乃香は、ニコニコと嬉しそうに明日菜と共に帰っていく


(近衛木乃香か…… この世界に到着早々に魔法協会と関わっちまったな。 いい子なだけに対応が難しい。 それにあの明日菜って子もなんか気になるな)

去りゆく二人を見つめる横島の表情は微妙に困った様子であった

この日も離れた場所から木乃香を尾行する少女が、横島を観察するように見ていたのだ

先日木乃香が初めて来た日に影から同じ少女に見られていた事が気になり土偶羅に調べてもらったところ、横島は木乃香が近衛家の娘であった事実を掴んでいたのである


正直横島は魔法協会に興味など全くなく、あまり関わるつもりがなかっただけに木乃香との再会は若干複雑なモノもあった


(まあ平和な世界なんだし、さほど深刻な問題も起きないか……)

この世界の状況や魔法協会の権力などを考える横島だが、平和な世界だしさほど問題もないだろうと思う

僅かに悩んだのだが、結局は今までと同じで何も知らないフリをしていく事にする

今のところ美少女の二人を避けるほどの理由が、現時点では見当たらなかった


「それにしても……、暇やな~」

難しい事を考えるのを止めた横島は青空を見上げて再び道ゆく人に視線を向けるが、やはり客は来ない

結局この日も平和と暇を満喫する事になる



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