平和な日常~秋~

さて九月も半ばに入ると女子中等部では遠足の季節になっていた。

この時期に二週間かけて女子中等部の生徒達が交代で遠足に行くのだ。

通常の学校ならば学年や学校ごとに行く遠足だが、麻帆良学園はその規模の大きさから遠足に行く日も違いがある。

早い学校だと四月の下旬から遠足に行く学校もあるし、遅い学校だと十一月の学校もあった。

6月の麻帆良祭や十月の体育祭などイベントがある月は遠足がないので、麻帆良学園では事実上春から秋にかけては二~三日に一度は必ずどこかのクラスが遠足に行ってることになる。


「牧場ですか。 私始めてです」

そして今年の2-Aの遠足は関東某所の高原牧場であり、さよは来週に迫った遠足のお知らせのプリントを感慨深げに見つめていた。


「行ったことないの? ならよかったわね。 実は遠足の行く先って春に何ヶ月かある候補からみんなで決めたのよ」

この日の授業も終わりさよと一緒に帰る途中だった明日菜は、転校生であるさよが転校して来る前の出来事などを語り教えていく。

実際さよはずっと幽霊として2-Aの教室に居たので遠足が決まった経緯なんかも当然知っているが、転校生として学校に通って以来多くのクラスメート達がさよが転校する前の話をいろいろと教えてあげている。

ほとんどは当然さよが知ってる話ではあったが、他人の視点からの過去の話は純粋に面白かった。

特にさよにとって新鮮だったのは、他人から見た横島の評価であろう。

自称凡人の横島だが他人から見た大まかな評価は、やはり凄いけどどっか変だというものである。

最近さよはようやく、自分はとんでもない人と友達になったのではと気付き始めていた。


「本当に楽しみです! ちょっと前まではこんな普通に生活出来るなんて、思いもしなかったですから」

街は日に日に秋へと近付いており、さよはふと吹き抜けた風の匂いが夏の頃と変わったと感じる。

以前ならば絶対に感じなかった些細な嗅覚の変化に、思わず自分はこんなに幸せでいいのかと思わず心配になってしまう。

明日菜はそんなさよの言葉と表情に、よほど身体が弱かったのだろうとこちらも相変わらず勝手に誤解する。

横島の数々の噂の何割かは明日菜の誤解が元だという事実に彼女は、まだまだ気付きそうもない。


「来月には体育祭もあるけど、うちの学校あれも派手なのよね~」

「体育祭ですか」

「さよちゃんは身体が弱かったんだから仕方ないわよ」

そのまま歩きながらおしゃべりを続ける明日菜とさよだが、話題は来月の体育祭にも及んでいた。

さよは体育祭という言葉になんとも言えない表情をするが、実はさよは運動が苦手である。

転校以降は体育にも積極的に参加してはいるが、長年の幽霊の影響からかそれとも生前から運動オンチなのかは不明だが運動が苦手であった。

そんな微妙な表情のさよを明日菜は優しく宥めるが、正直さよは体育祭に苦手意識はなく密かに楽しみにしてるほどである。

たださよは明日菜のようにもっと運動が上手くなりたくて微妙な表情をしていただけなのだが……。


「どうすれば明日菜さんみたいに運動が上手に出来るんですか?」

「私に聞かれてもね……。 正直体育しか得意な科目ないだけだし」

その後二人の話はどうすれば運動が上手くなるかに変わるが、明日菜にもさよにも解るはずもなく二人は首を傾げるばかりだった。



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