平和な日常~夏~2

「面白い店を知ってるな」

「少々変わってるシェフですが、料理の腕は確かです」

さて個室の客達はと言えば喫茶店には不釣り合いにも見える赴きのある店内と、見てるだけで緊張してるのが分かる明日菜に興味をそそられていた。

店の様子からすると落ち着いた隠れ家的な喫茶店なのかとも思うが、明日菜の様子をみるとそれも違う気がするのだ。

ここが一流のレストランならば問題だろうが、喫茶店なので逆に料理が楽しみになる。

そんな彼らだが緊張気味な明日菜と一緒に、まだ幼いタマモがお酒を運んで来ると流石に驚き目を見開いてしまう。

緊張してる明日菜と対照的にタマモとさよは緊張感のカケラもなく、ごくごく自然な笑顔であった。

マナーという点からみると決して素晴らしいとは言えない明日菜達だが、自然な笑顔で迎えられるのは決して悪い気持ちがするものではない。

喫茶店というよりは馴染みの小料理屋にでも来たような感覚を客達は感じる。


「海老と夏野菜のテリーヌです」

そのまま不思議な雰囲気で料理が運ばれるが、相変わらずぎこちない口調の明日菜が料理を説明すると客達は驚きの声を上げた。

明日菜達の様子などから若干イロモノの店かと感じていた接待される側の客達だが、料理は意外にまともだからだ。

まあ見た目だけならばと半ば半信半疑で料理を口にする一同だが、その表情は一変してしまい沈黙が部屋を支配する。

それはフランス料理の王道を踏襲しつつも、季節の野菜を使用するなど料理人の個性が現れていた。


「ここは普段からこんな料理を出してるのかね?」

その料理に無言のまま食事は進むが、オードブルを食べ終わると一人の客が明日菜に素直に疑問をぶつける。

彼は接待相手の男性だったが、長いこと仕事をしてる彼も接待で喫茶店に連れて来られたのは当然始めてだった。

接待する側の相川が割と気の利く男なのを理解してる彼は、今日の為にサプライズでフランス料理のシェフにわざと喫茶店で料理を頼んだのかと考えたらしい。


「えーと……、今日のメニューは特別メニューだそうです。 普段も日替わりでいろいろ珍しい料理は作ってはいますけど、流石にコース料理はないですね」

尋ねた彼の意図に気付かない明日菜は素直にいつもの様子を答えるが、その答えに接待される側の客は再び驚いてしまう。

明日菜の話から特別に用意したシェフでないと気付いたからだが、そんな彼らの驚きとは無関係に食事は進んでいく。

美味しい料理とお酒が進むと話は弾んでいき、接待する相川達も少しホッとした様子を見せる。


「おいしい?」

「ああ、美味しいよ。 お嬢ちゃんお手伝いして偉いね」

接待される側は料理に満足して話が弾むが、同時に彼らに人気というか評判がよかったのはやはりタマモだった。

テレビなどに出る下手な子役などよりも可愛く素直な笑顔を見せるタマモが、一生懸命料理を運ぶ姿は年配者には好感を与えるらしい。

しかもタマモ自身は接待などまるで知らないので、普通の客と同じように接している。

明日菜や雪広グループ関係者は若干冷や汗を流すが、タマモと接待される側は楽しげに話をしていた。



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