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平和な日常~夏~2

そんなその日も夜になると店からは更に客が減るが、何故か横島は厨房で慌ただしく料理をしている。

フロアの方は明日菜に任せており、明日菜は時々来る客の対応をしつつタマモやさよとおしゃべりをしたりしていた。


「いらっしゃいませ」

「予約していた相川だが……」

「お待ちしてました。 どうぞ」

街がすっかり夜の闇に閉ざされた頃、六人のサラリーマンが店を訪れる。

彼らの中の三十代半ばの男性が予約してることを告げると、明日菜は少し緊張気味に慣れない口調で普段は使われてない大きい方の個室に案内していく。

以前にも説明したが横島の店には個室が二つあり、小さい個室は占いなんかに使っているが大きい個室は今回始めて使う部屋である。

こちらは昼間にみんなで掃除して綺麗な花などを飾り付けしており、その辺りのレストランに負けないくらいの部屋になっていた。

元々古い建物でいい味を出してるだけに、さほど苦労もなく本格的なレストランのような個室になったようだ。


「相川君、ここは喫茶店では……?」

明日菜に案内されるまま個室に入る一行だが、半数の人間は若干不思議そうに店内を見渡し予約した相川という男をみる。

この相川という男は雪広グループの系列会社の人間であり、不思議そうにしているのは仕事上の接待相手だった。


「はい。 ですが腕は確かですから」

接待相手に確認するように尋ねられた相手だが、少々困った表情を見せつつも自信ありげな笑顔を見せる。

この相川という男だが、雪広グループの系列である食品会社の営業課の人間だった。

横島との面識は例のカレーの開発や販売の会議で数回と、その後に一度店に昼食を食べに訪れた程度である。

しかしこの男は平凡な見た目の割にとても要領がいいらしい。

一週間ほど前に接待で店に来るから、料理を作ってくれないかと横島に頼みに来ていたのだ。

正直あまり面倒な客は嫌だった横島だが、何かと世話になってる雪広グループ関係者の頼みを理由もなく断ることは出来なかった。

あまり他言しないで欲しいと一応頼みつつ彼の頼みを引き受けることになったのである。



「横島さん! 私にはあんな人達の相手無理だって!!」

「大丈夫だよ。 ちょっとくらい作法が間違ってもいいからさ。 そもそもここは喫茶店だしな」

一方予約客を個室に案内した明日菜だったが、本格的な接待の微妙な空気に耐えられなかったらしく横島に無理だと言いに来ていた。

日頃店のバイトとして働いてる明日菜だが、ここまで緊張する客は始めてらしい。

しかし横島は相変わらず適当であり、失敗してもいいからと笑っている。

明日菜は心の中で木乃香に助けを求めるが、残念ながら京都にいる木乃香が助けに来るはずがない。


「わたしがいっしょにがんばる」

そんな明日菜に救いの手を差し延べたのは、やはりタマモだった。

困ってるならば一緒に頑張るとやる気を見せるタマモの気持ちは嬉しい明日菜だが、現実的にタマモの助けで楽になるとは思えない。

しかし結局はこれも仕事だと頭を切り替えた明日菜が、タマモとさよの助けを得てなんとか接待客の相手をすることになる。



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