そのまま時が過ぎて夜の闇が街を包む頃、麻帆良の街は街灯に照らされた独特の美しさの景観が姿を現していた

帰宅を急ぐ高校生や大学生の姿も見えるが、繁華街の飲み屋などでは大人達が酒を酌み交わしている

そんな時間のマホラカフェはやはり客も少なく静かな店内だった

庭に案内した猫達は半数がどこかに行ったが、半数は庭に居着いたまま眠りについている


一方店内では横島が、暇を持て余してカウンター席で日本酒を飲んでいた


「この店はお酒もあるのですか？」

そんな時来店して来たのは、ピシッとしたスーツを着た葛葉刀子である

始めて来た喫茶店のマスターが堂々とカウンター席で酒を飲んでる姿に、少し驚いているようだ


「許可はちゃんと取ってますよ。　まだメニューも作ってませんしお客さんには出してませんけど……」

「何でもいいから簡単な食事と、それとよかったらそれを一杯頂けるかしら？」

そのうちメニューに加えるかもしれないと相変わらずいい加減な答えの横島に、刀子は食事と一緒に酒を飲みたいと注文する

彼女は魔法先生であると同時に普通の教師をしており、今日はただ単に仕事終わりに夕食を食べに寄っただけであった

教師という職業は予想以上にキツイ仕事であり、バツイチで独身の刀子は忙しい日は外食などで済ませる事が多いようだ


「今日の限定メニューの春野菜のポトフと菜の花パスタです」

横島が刀子に出したのは今日の限定メニューである、春野菜のポトフと菜の花パスタだった

両方共にシンプルな味付けで、春野菜の美味しさをそのまま楽しむ一品である


「噂通り料理が美味しいわね」

「ありがとうございます。　綺麗な人に褒められると悪い気はしないっすね～」

酒を飲みながらゆっくり食事をしていた刀子の素直な感想に、横島は分かりやすく喜びの表情を見せていた

元々人に褒められたりした経験の少ない横島なだけに、やはり褒められるのは嬉しいのである

まして美人な刀子に褒められて悪い気がするはずはない


一方の刀子だが、彼女もまた横島が発した綺麗な人と言う自然な言葉に僅かに照れていた

元々刀子は麻帆良でも美人な教師として有名なのだが、普段の彼女は教師という立場からか堅苦しいと言うか少し冷たい印象が強い

誰もが美人と認める刀子だが、そんな彼女に面と向かっで綺麗だと言う人間は今までいなかったのだ

その結果刀子は意外にも褒められ慣れてないし、美人だと言われた経験があまりない

見た目からプライドが高そうだとかキツそうだとか、勝手なイメージが先行した結果である


「貴方ね、自分の店でナンパでもする気？」

「えっ！？　俺なんかおかしな事言いました？　気を悪くしたなら謝ります。　すんません、すんません」

ドキッとした動揺を隠すようにわざと少し睨む刀子に、横島は不思議そうに首を傾げつつもとりあえず謝ってしまう

横島としては綺麗な人を綺麗だと言っただけであり、それ以上の意味はなく何故刀子が睨むのか全く理解してなかった


「ありがとう、美味しかったわ」

不思議そうな横島の様子から全く口説く気がないと気付いた刀子は、恥ずかしそうに会計を済ませて帰っていく

下心もなく普通に本心から綺麗だと褒められたのと気付いた刀子は、恥ずかしさでいっぱいだった