そのまま午前中は桜子や後から来た美砂や円と騒いだりして過ごしていく。

お昼頃に桜子達が帰るのと入れ替わるように今度はお昼まで寝ていた木乃香・夕映・のどかと明日菜がやって来るが、そんな和やかな空気が突然激変する事件が起きる。


「どうしたんだ？　とりあえず落ち着いてな」

店内の空気を激変させたのは常連の一人の女の子だった。

突然泣きながら店に飛び込んで来ると横島に縋り付くように泣き続けるのだ。

そのあまりの光景に木乃香達は唖然としてしまい、後から来た客は横島が女の子を泣かせたのかと視線を向ける。

横島自身はとりあえず落ち着かせようとするが、どこか困ったようにオロオロしてるため横島が何かしたのかと内心では疑う者も存在した。


「私……、彼に振られちゃた……」

しばらく泣き続けた女の子がようやく落ち着きを取り戻し事情を話した頃になると、無関係な店の客まで女の子を心配している。

どこか冷たい視線が増えたのは、事情次第では横島を許さないとの意気込みがある少女もいるせいだろう。

ちなみに木乃香達はもちろん横島を疑ってはいなかった。

というか女の子が横島によく占いを頼みに来る常連であり、木乃香自身もそれなりに話しをしたりする知り合いなのだ。

随分前から彼氏のことで悩んでは横島に占いや相談をしていた女の子なだけに、木乃香達は最初から事情を察している。


「そうか……」

振られちゃったとの言葉に店内の客はようやく横島の無実を悟り冷たい視線が消えていく。

横島はそんな視線に気付きながらも、それよりも女の子にどう言葉をかければいいか分からずに困っていた。

元々横島には傷付いた女の子に気の利いた言葉をかけるようなスキルは存在しない。

神魔をも越える力や数多の技術や経験がある横島が、最も苦手なのは色恋沙汰なのである。

横島の中には傾国の美女と呼ばれた前世の金毛白面九尾の記憶や経験もあるが、不思議と恋愛の経験は継承出来てない。

そんな横島は困ったように木乃香達に助けて欲しいと視線を向けるが、木乃香よりも真っ先に駆け付けたのはやはりタマモだった。

困ったような横島の表情に気付いたのか泣き続けていた女の子を心配したのかは分からないが、タマモは女の子の傍で心配そうに見上げている。


「だいじょうぶ？」

小さなタマモに心配そうに声をかけられた女の子は、ハッとしたように自分を取り戻し自分が多くの客の注目を集めてることにようやく気づく。

小さく温かい手でしっかりと握るタマモの力強さと優しさに、女の子は冷静さを取り戻したらしい。


「わたしがかなしいとみんなもかなしいの。　だからあなたがかなしいとわたしもかなしいよ。　げんきだして」

たどたどしい言葉で必死に想いを伝えようとするタマモに店内は静まり返る。

多くの人達の優しさを人一倍敏感に感じて日々生活しているタマモは、誰よりも優しさを感謝して自分も人に優しくしないとダメだと自覚が生まれていた。

タマモにとってそれは当たり前のことである。

みんなが優しくしてくれるから同じように優しくしてあげたいのだ。

ただ幼いタマモが必死に女の子を元気づけようとしてる姿は、その場に居た全ての客達をも勇気づける行動なのをタマモは理解してない。

幼い容姿でもその美しさは変わらず存在し、人々を魅了する姿はまるで彼女の前世のようであった。