平和な日常~夏~

「相変わらず派手にやってるわね。 貴方が作ったテストの予想問題が私のとこまで来たわよ」

忙しくも賑やかで楽しげな時間はあっという間に過ぎていき、夜の闇が街を支配する頃になると店には刀子が訪れている。

麻帆良祭以後の刀子は、週に二~三度ほどの割合で基本的には夜に訪れることが多かった。

まあ仕事の都合などで来ない日もよくあるが、余裕がある日は横島の店でお任せで夕食を食べる日が日課となりつつあるようだ。

来れば食事や酒を飲みながら普通に世間話をする横島と刀子だったが、今日の話題は試験の山かけリストらしい。


「別に派手にしてるつもりはないんっすけどね」

「問題がある訳じゃないのよ。 社会人や大学生が家庭教師するのも珍しくないもの。 ただ貴方がやると何故か目立っちゃうみたいね」

教師の刀子に派手にやってるとクスっと笑われた横島はごまかすように苦笑いを見せるが、刀子も別に責めてる訳ではなく何故横島がこうも話題に上るのか少し不思議なようである。

普通の魔法協会外の裏の人間は必要以上に目立つのを避けるのが一般的なのだが、横島はちょっとした有名人というか名物マスターとして名が知られていた。

正直あれこれと話題になることは裏の人間としては必ずしもプラスに働かないため、刀子は少し心配になるらしい。


「あんまり詳しいことは言えないけど、今回も貴方の教えた成果が出てるわよ。 こう言えば誤解されるかもしれないけど、高畑先生は教えるのあまり上手くないのよね。 だから貴方が目立っちゃうのよ」

具体的な話は避ける刀子だったが、横島の教えた成果は第三者から見ても分かるような結果として出てるらしく少し今後が心配そうだった。

正直言えば横島が教えた内容は教師がしっかりしてればこれほど目立つモノではないのだが、問題の2-Aの担任の高畑が教えるのがあまり上手くないという事実が横島を目立たせてしまったようなのだ。


「高畑先生がね……」

「教師としての力量がない訳じゃないし、平均的な教師としては普通に教えてるわ。 でも高畑先生は価値観がちょっと私達とは違うのよね」

高畑の話題になり僅かに微妙な表情を見せた横島に、刀子は言葉を選びながらも説明を続けていく。

教師と一言で言っても力量や価値観は違うのが当然だし、高畑は並の教師以上の力量はあるらしい。

ただイマイチ価値観が違うと言葉を濁した裏側には、根本的に人間としての価値観の違いが普通とは違うと刀子は感じていた。


「いい人なんっすけどね。 高畑先生に救われた人はどれだけいるのやら」

「それはみんな理解してるわ。 他人の為にあれほど尽くせる人はそうは居ないもの」

刀子の言葉に横島はなんとも言えない表情でいい人なんだけどと呟くと、刀子もそれに同意する。

実は刀子は横島が高畑の正体をどこまで知ってるかは全く知らないのだが、魔法関係者では有名人である高畑の正体を知らないはずがないと考えていた。

というか麻帆良の魔法を知る者で高畑の正体を知らぬ者は居ないだろうというのが、魔法協会関係者の共通認識である。

そんな訳で高畑の凄さは理解してる横島と刀子だったが、その反面で教師としての活動に疑問符がつくのも確かだった。



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