さてそんな刀子が帰ると入れ代わるように店やって来たのは、見知らぬ容姿の金髪の美女だった。

昼間だったらさぞや注目を集めたであろうその容姿は美しいとしか言いようがなく、どこか冷たい瞳と相まってミステリアスな雰囲気を纏っている。

彼女は横島を見ることなく一番奥の中庭に面した窓際のテーブルに座ると、言葉少なくワインとつまみを注文した。


「お待たせしました。　ごゆっくりどうぞ」

特に会話もなく頼まれた品を提供する横島を、女性はまるで何かを見極めるように静かに見つめている。


「貴様、やはり私の正体に気付いたか」

「そこは触れない方がいいんじゃないのか？　俺は人の趣味にとやかく言うつもりはないぞ。　暖かく見守ってやるよ」

「趣味ではない！　貴様がまともに酒を出さないから、わざわざ容姿を変えて来てやったんだ」

ずっと無言だった女性だが横島が酒を置いて去ろうとした時に声をかけるが、彼女は横島に来て早々に正体を気付かれたことには少し不機嫌そうである。

もうお分かりだろうが、彼女は幻術を使ったエヴァンジェリンだった。

どうも以前にお酒をジュースのグラスに入れて出したのを根に持って、わざわざ大人バージョンになって来たらしい。


「しかし見事な美人になったな。　今度はお姉ちゃんやお母さんを連れて来てくれ」

「貴様……頭は大丈夫か？」

なんとなく容姿を自慢げに見せるエヴァに、横島が姉や母に会いたいと言うとエヴァは呆れた口調に変わる。

正直エヴァの正体を知って冗談でもそんなことを言った馬鹿は、今まで一人も居なかった。

本気ではないにしろ吸血鬼を連れて来いと言ってるに等しい言葉を口にする横島は、エヴァからすると馬鹿としか思えない。


「頭の心配されるほど飲んだつもりはないんだけど……」

「どこの世界に吸血鬼を連れて来いと言う馬鹿がいる。　それに私に血縁者は居ない」

相変わらず適当にとぼける横島に苛立ったのか、エヴァは自ら吸血鬼という言葉を使って呆れたように横島を見ていた。


「俺は吸血鬼なんて一言も言った覚えはないぞ。　それに俺はごくごく普通な一般市民だからな。　吸血鬼なんて信じてないよ」

「貴様のどこが一般市民だ。　幽霊やら妖怪やら連れ込んでおいて今更そんな戯言が通じる訳がないだろう」

そのままあくまでもとぼけるというか知らないという形にこだわる横島だったが、エヴァは付き合いきれなくなったのかいろいろぶっちゃけ初めてしまう。

麻帆良に暗黙の了解があるのはエヴァも理解してるが、横島はいろいろ非常識過ぎるというか隠す気があるのかないのか分からない。

それにエヴァからするとさよの友達にされたりと、最初に暗黙の了解を破ったのは横島だとの認識が強かった。


「そんなこと言ったって俺は現に普通の一般市民だし。　そうか！？　実は俺とデートがしたくって……」

「違うわ！　どこからそんな話になるのだ！」

「いや、お姉ちゃんとお母さんの話から怒ったみたいだからてっきりデートがしたいのかと」

結局横島とエヴァの二人は、いつの間にかいつもと同じ様子で話をしていた。

相変わらず適当な横島とどこか疲れたようなエヴァだが、それでもこの日は酒が自由に飲めるのが嬉しいようである。

正直言うと裏やら秘密やらどうでもいいような横島にエヴァは苛立ちを感じつつも、それでもどこか清々しさを感じていた。

しかしエヴァはいつの間にか横島に感情を見せてることに、自身では気付いてなかったりする。

何はともあれこの日エヴァは満足がいくまで飲んで帰ったらしい。