平和な日常~夏~

さてテストが終わった中等部では、テストからの開放感でいつもの賑やかさが戻っていた

つい先程まではピリピリとした重苦しい空気が学校全体を支配していたのだが、テストが終わると後は夏休みを待つばかりとなり気の早い者は夏休みの話題をし始めている


「アスナどうやった?」

「うーん、赤点は越えたと思う……」

開放感に包まれる教室でそれをまだ味わう余裕が無かったのは、赤点を取ることも珍しくない明日菜であった

今回はいつもよりは出来た自信はあるが、今までが今までなだけに不安のまだ方が大きいようである


「やっぱマスターの予測はかなり当たったわね! マスターと木乃香と本屋ちゃんのおかげで、成績が落ちることだけは防げそうだわ」

一方美砂は円と桜子と共にテストの出来を確認していたが、今回も山かけリストはかなり当たっていたようだ

しかも前回は割と軽い気持ちで山かけリストを使っただけなのに対し、今回は数日かけて真剣にリストを勉強したので前回より成績が落ちることはないだろうと考えているらしい

他の少女達もそれぞれにテストの問題用紙を見て自己採点してるが、思ってたよりは悪くないと感じる者が多いのは山かけリストがほとんどのクラスメートに渡ったからだろう

ちなみに横島と関わりがほとんどない刹那にまで山かけリストが回って来ており、今回は彼女もちゃっかり恩恵を受けている

彼女自身あまり成績がいい方ではないしバカレンジャー組が横島に教わって成績が上がりそうな気配があっただけに、割と真剣に山かけリストで勉強した一人だった


(悪い人ではないんだよな)

とりあえず赤点はクリアしてある程度山かけの成果が見えた刹那は、山かけリストを作った横島を思い出し少し複雑な心境になる

刹那から見るといろいろ怪しい気もする横島だったが、根本的に善人なのは流石にもう理解していた

少し前に横島が預かった子供が妖怪だったと知った時には多少心配はしたが、それも結果的に見れば横島が幼いタマモを保護したのだろうと刀子から聞いてホッとしていたのだ

麻帆良祭でも人一倍影で頑張っていた横島を見ていた刹那は、印象がだいぶ改善している

ただ横島は木乃香と近い存在なため、どのみち刹那が関われる人間ではなかった

誰もそんなこと気にしてないのだが、刹那自身は木乃香との距離感を人一倍気にしており木乃香に近い人間とはあまり関わらないようにしていたのだ


(それにしても妖怪を自分の妹のように扱うとは……)

そんな刹那だが、横島のタマモに対する態度や扱いには少し戸惑いも感じている

横島がタマモに対して若干親バカ気味になってることはクラスでは有名な話だった

訳ありな子供を預かって自分の妹のように育て始めたと噂が広がると横島らしいと笑い話になるが、それが妖怪だと知る刹那は少し微妙な心境になるらしい


(彼も長や神鳴流のみんなと同じなのか?)

幼い頃より半妖の刹那は決して恵まれた環境で育っては来なかったが、それでも木乃香の父であり関西呪術協会の長である詠春や神鳴流の人々は刹那の正体など気にもしなかったのだ

時には優しく時には厳しく他の人と同じように扱ってくれた彼らに刹那は多大な恩を感じている

横島とタマモの姿はそんな詠春や神鳴流の仲間達とダブるものがあった

刹那はいつの日か話を聞いてみたいと、そんな気持ちを僅かに抱き始めている



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