二年目の春・8

横島の文珠はひとまず置いておくとして、穂乃香は世界樹への儀式魔法を開始した。

本来の歴史において超鈴音が行ったほどの大掛かりなものではないが、科学によるサポートがない分だけこちらの方が大変かもしれない。

しかし儀式魔法は何の障害もアクシデントもなく無事に終わり、世界樹の告白強制成就は相手の気持ちに気付く程度の効果に薄めることに成功する。


「やれやれ。 これで一安心じゃな。」

麻帆良祭という麻帆良が一年で一番盛り上がるこの時期に、一番厄介なのはやはり呪い級の強制成就であり近右衛門は全てが終わると本当に安心したようにほっと一息ついていた。

とは言っても実際にはこれからが大変なのだが。


「ただでさえこの時期は忙しいからのう。 むしろ海外の企業や国のスパイ行為の方が最近は大変での。」

超鈴音のように世界樹の強大な魔力を利用上とする者が現れないとは限らないし、そうでなくとも麻帆良祭の人出に紛れてスパイ行為を行おうとする者が裏表問わず存在するのだ。

正直クルト・ゲーデルのことに構ってる暇は、近右衛門には無いとすら言える。


「スパイっすか。」

「麻帆良祭では試作段階の最新技術が披露されておるからの。それを見るだけでも参考になる。 不心得者はデータや現物を盗もうとすらするからの。」

過去には麻帆良学園で開発中の技術が盗まれて、お隣の半島国家の企業が独自技術として使おうとして法廷闘争に発展したこともあった。

自分達が盗んだことを認めぬのに、和解と称して技術協力を持ち掛けてくる面の皮の厚さに学園側は呆れながらも、長い年月を掛けて問題解決したことがある。

元々魔法協会としても世界で有数の反日であるかの国とは、基本的に留学生の受け入れすら拒否しているのだが。


「これでそちらに人員を配置出来るわい。」

まあかの国以外でもスパイ行為をやってる国は多く、むしろ全くの清廉潔白な国などないだろう。

本来は国の仕事だが日本の場合はスパイ天国なので、自力で何とかしなくてはならない。

生徒の告白まで手が回らないのが実情で、本当に助かったと近右衛門は心から安堵していた。



「お姉さん。生ビール、三つお願い。」

その後横島は近右衛門達を飲み誘ったが、近右衛門と穂乃香は忙しいからと断り、高畑も今日はまだ見廻りがあるというので、刀子とアナスタシアと三人で近場の居酒屋に入っていた。

そこは適当に近くにあった店に入っただけだが、安いからか大学生などが多く、刀子とアナスタシアを連れた横島は当然のように注目を集めてしまう。


「あのマスターって、いっつも複数の女の人と居るな。」

「なんだ? 修羅場か?」

「それがあの人って、不思議と修羅場がないんだよなぁ。」

「でもあの三人、ただの友達はないだろ。」

まだタマモや少女達でも居れば違ったのだろうが。

すっかり横島の元カノにされてるアナスタシアと、誰が見ても友人には見えない刀子では少し生々しく、羅場を期待する者すらいるが、当の本人達はもう噂されるくらいは慣れていた。

周りもお酒が入ってるので、あれこれと好き勝手に噂をしていく。


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