二年目の春・8

翌日になると麻帆良には、木乃香の母である穂乃香が訪れていた。

二十二年に一度ある世界樹の魔力が大放出する際に起こる、告白の強制成就の対抗策を行う為の来訪である。


「もう、ごちゃごちゃね。」

「うむ。 正直切れるものなら縁を切りたいがの。」

対策の方は横島とエヴァが構築した強制成就の効果を限りなく薄めて、相手の気持ちに気付く程度にしているので問題はない。

それほど簡単な魔法でもないが穂乃香自身も練習して来ていて特に気負いはないが、穂乃香がため息を溢したのはクルト・ゲーデルの問題だった。

相手が赤の他人ならば穂乃香もそこまで気にしないのだが、詠春の弟子である事実は重い。


「神鳴流の名に泥を塗るなら、本来はこちらから動かなきゃいけないのに。」

「それは悪手じゃの。」

そもそも勝手に神鳴流を名乗るクルトを関西と神鳴流青山家は以前から問題視していて、何度か神鳴流を名乗らないようにとの書簡も送っている。

個人として神鳴流の技を使うくらいならばともかく、明らかに政治利用しているクルトに対して関西が不満を持たないはずがなかった。

この件は以前から安易に神鳴流の技を教えた詠春への批判材料にもされていて、詠春と穂乃香夫妻は赤き翼の仲間としてクルトを信じたいという気持ちがあったがここまで来ると完全に裏切られた形にもなっている。


「神鳴流からテロリストが出るなんて困るわ。」

「うむ。 それは理解するがの。」

事件が起きてからクルトを無関係だと言うのでは遅いのだ。

起きる前に手を切らねば、クルトなら何をするか分からないという不安もある。

先人達が守ってきた神鳴流をクルト一人に汚される訳にはいかないのだ。


「横島君に頼んで、神鳴流とクルト・ゲーデルの関係がないことを魔法世界ではっきり周知させるつもりよ。」

「待つのじゃ。 今それをすれば大変なことに……。」

「神鳴流がクルト・ゲーデルの汚名を着せられたら困るの分かるでしょう?」

「しかしのう。」

近右衛門は悠久の風が動いていて完全なる世界も集まり出した状況で自分達が動くのには賛成出来ないらしいが、穂乃香や関西からすれば今動かねば取り返しがつかなくなる可能性すらあった。


「一度はテロリストに協力した人と神鳴流どちらを優先させるの?」

「夜に皆で話し合おうかの。」

「悪いけどこちらは譲れないわよ。 高畑君は麻帆良に居れば大丈夫なんでしょう?」

下手をすると詠春の立場が悪くなり関西が割れる可能性すらある。

近右衛門は出来れば穏便に終わらせる方法を探りたいと考え、今一度雪広家や那波家を含めて話し合いをすることで一旦止めるしか方法はなかった。

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