二年目の春・3

さてこの日は午後六時を過ぎると店を閉めて明日菜の誕生パーティをすることになり横島は料理を作っていたが、メニューは手巻き寿司とすき焼きをメインに野菜のサラダなど何品か用意している。


「去年の大晦日に手巻き寿司やったらタマモが喜んでな。 今日もタマモが手巻き寿司がいいって言ってさ。」

「うちらも何度も聞いたわ。 タマちゃん自分も作ったんだってみんなに言うてたんよ。」

相変わらず参加人数が多いので本当にちょっとしたパーティのような料理の量と品数になるが、まあ横島達の夕食ではいつものことだった。

基本的に何でも美味しいと食べる明日菜であるがタマモ的には一緒に食べた手巻き寿司が特に印象に残ってるらしく、今夜のメインの一品となっている。


「雪広会長も招待したんですか?」

「ああ、タマモがな。 通信機で普通に連絡したっぽい。」

ちなみに今夜は近右衛門と雪広清十郎も招待していたので少し早いがすでに店に来ていて、二人は先程から久しぶりに将棋を指していた。

共に忙しく特に清十郎は日本に居ないこともある人物であり普通は会うだけで大変なVIPの一人と言えるが、そんなこと知るはずもないタマモは最近ようやく通話機能の使い方だけはなんとか覚えた腕時計型通信機を使って自分で明日菜の誕生パーティに来てと誘っている。

タマモとすれば何度か会っていて清十郎が明日菜と昔から仲良しだと聞いたので気楽に誘ったのだろうが、VIP相手に同じことを出来る子供は世界でもタマモくらいかもしれない。

まあそれを普通に許してる保護者も横島くらいなのだろうが。


「うむっ? それは待った!」

「待ったは無しじゃ。」

「相変わらずジジイは将棋が弱いな。」

そしてそんなVIPである二人の対局だが近右衛門が負けそうになっていて、暇潰しに眺めていたエヴァに呆れたように弱いと切り捨てられていた。

実のところそれほど弱いと言うほどではないが清十郎よりは弱くエヴァから見ても弱いと感じるらしい。


「近右衛門はダメじゃな。 どうじゃ、一局。」

「ほう、面白い。 相手になってやろう。」

そのまま近右衛門にあっさりと勝つと今度は見ていたエヴァを誘い対局を始める清十郎であるが、実はこの二人直接会ったのは正月の異空間アジトに行った時が初めてなのでほとんど面識がない関係だった。

元々人を避けていたエヴァと魔法協会にあまり関わらずに居た清十郎は近いようで接点がまるでなく、正直会話したことに関しては今日初めてだったりする。


「流石に強いな。 やはり年季が違うということか。」

「将棋は百年ほど前に日本に来た時に覚えたからな。」

負けた近右衛門は悔しそうに清十郎とエヴァの対局を見守るが、エヴァは年齢による積み重ねた経験と老化がないので思考能力の低下もなくある意味強くて当然のようだ。

しかも柔術といい囲碁といい将棋といい日本の文化や技術は百年も前に覚えたようで、並の素人が勝てないのも無理はない。

結局二人は店内がタマモや美砂達が賑やかに騒いで和気あいあいとしている中、真剣な表情で対局を楽しんでいく。


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